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横田英史の読書コーナー

AIガバナンス入門〜リスクマネジメントから社会設計まで〜

羽深宏樹、ハヤカワ新書

2024.4.11  2:30 pm

 AIがもたらす価値を最大化しつつ、リスクをどのようにマネジメントすべきか、どのようなルールを作り組織を構築すべきかなど、AIガバナンスで行いうべき施策を整理した書。最後にはAIガバナンスの将来像に言及する。筆者は弁護士だが、技術的な面もきっちり押さえており、議論に安定感がある。企業の経営層だけではなく、現場担当者にも有益な情報が多い。AIガバナンスを考える最初の一歩となる書である。AIが急速に普及するなか一読に値する。
       
 本書はAIガバナンスに関する基礎的な知識に始まり、各国の動向、あるべき社会像など、ルールや組織の構築で考慮すべきポイントを整理する。AIのリスクの本質は、バリューチェーン上のステークホルダーの多さ、進歩と普及の速さ、予測と説明の難しさ、グローバル化にあるとする。正解が存在しない倫理的な問題にも関係者の頭を悩ませる。
         
 組織におけるAIガバナンスの在るべき姿として、二重ループでマネジメントし、すばやくそのループを回す「アジャイルガバナンス」を推す。二重ループの内側では、現場レベルでリスクを評価しマネジメントする。外側では、経営層レベルでガバナンスのゴールを設定する。
        
 AIの技術的リスクについては、バイアスや誤判定、ハルシネーション、セキュリティなどを挙げ、その対策を論じる、社会的リスクとして挙げるのは、プライバシ侵害や政治的なリスク(民主主義に対する脅威)、不正目的・攻撃目的での利用、知的財産権への影響などである。各国の動向では、日本、EU、米国に重点を置くほか、英国や中国、カナダ、シンガポールについても簡単に紹介する。

書籍情報

AIガバナンス入門〜リスクマネジメントから社会設計まで〜

羽深宏樹、ハヤカワ新書、p.272、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。