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横田英史の読書コーナー

半導体逆転戦略 〜日本復活に必要な経営を問う〜

長内厚、日経BP 日本経済新聞出版

2024.5.1  8:30 am

 半導体ブームに便乗した書。半導体とは何かから始まり、日本の半導体産業の歴史、話題のラピダスやJASMの簡単な解説と評価、日の丸半導体の復権の条件、日本の半導体メーカーが選ぶべき経営戦略、韓国や台湾の半導体産業の歴史と戦略など、盛りだくさんである。総花的ともいえる。あまりに欲張った結果、全体に薄味になっており、著者の思いが伝わりづらくなっているのも否めない。初学者が半導体をめぐる状況をざっと知るには悪くないが、独自性や新規性に欠け、刮目して読むべき内容に乏しい。
     
 釣書に「ビジネスとしての成功を目指す経営学的な見地から解き明かす。生き残るために必要な経営転換策が満載の本」とあるので、経営書のはずだが焦点がボケボケで読者に伝わっていないのは残念である。例えば経営書にP型半導体やN型半導体、NPN型トランジスタ、論理演算と論理回路の解説は必要なのだろうか。「ラピダスよりもJASMが日本の転機となるかもしれない訳」という章を立てながら、JASMへの言及が皆無なのは編集が甘いと言わざるを得ない。
      
 本書に欠けるのは独自性だろう。筆者オリジナルの図は、P型半導体やN型半導体、NPN型トランジスタ、論理演算と論理回路というのはいかにも寂しい。そもそも、出版のタイミングとしては若干遅い。今ならJASMやラピダス、TSMCの日本進出の詳細な分析が不可欠だが、通り一遍で期待はずれ。テーマの良さを活かしきれていないのは、実にもったいない。

書籍情報

半導体逆転戦略 〜日本復活に必要な経営を問う〜

長内厚、日経BP 日本経済新聞出版、p.248、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。