横田英史の読書コーナー
学力と幸福の経済学
西村和雄・編著、八木匡・編著、日経BP 日本経済新聞出版
2024.5.7 8:34 am
調査データを駆使しながら、生きる力を身につけるためには、どういった教育制度や大学受験制度、家庭教育にすべきかを論じた書。全編にわたって、日本の教育制度に対する危機感に溢れている。数学や理科を軽視する日本の教育や入試、思考力を低下させる少数科目入試といった現状に強く疑問を呈する。科目の得手・不得手が収入に及ぼす影響、親の学歴の子どもへの影響などにも言及する。身近な教育や躾の効果・効用について調査データを用いて定量的に裏付けており楽しく読み進むことができる。「数学や理科の教育」「教育と幸福感や収入との関係」に興味のある方にお薦めの書である。
筆者はまず、学力低下の実態に言及する。大学生の数学力の劣化、特に理系の学力低下に危機感を募らせ、「ゆとり教育」が研究開発力の弱体化につながったと論じる。多様化入試や個性化入試といった耳障りよい掛け声のもと、基礎科目を軽視した進学システムを疑問視する。
次に、科学は役立たない、理系は文系に比べて年収が低いといった定説を調査結果で覆す。理数科目を敬遠する傾向が強い私立大学社会科学系出身者で、「英語・国語と同様に数学を勉強すべきだった」という回答と、将来世代には「数学を勉強してほしい」という回答が多かったことは興味深い。
このほか、社会的成功をもたらす躾の方法や、子供を伸ばす褒め方と叱り方などについても調査データで裏付ける。また子育てのスタイルは、子供の所得や幸福感、学歴に影響することにも言及する。ちなみに本書は、筆者がこれまで発表した論文を集約した構成をとる。1999年発表など古い論文が散見されることが少し気になる。
書籍情報
学力と幸福の経済学
西村和雄・編著、八木匡・編著、日経BP 日本経済新聞出版、p.320、¥3960