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横田英史の読書コーナー

日ソ戦争 〜帝国日本最後の戦い〜

麻田雅文、中公新書

2024.5.31  8:39 am

 玉音放送後に戦闘が始まった地域もある日ソ戦争の全貌を、ロシアに残る関東軍文書など最新の史料に基づき解き明かした書。日ソ戦争は、満州や朝鮮半島、南樺太、千島列島を戦場にし、日ソ合わせて200万人が戦った。第2次世界大戦における最後の全面戦争と位置づけられる。
    
 本書を読むと、現実を直視しない参謀たち、根拠なき楽観主義、自分の都合に合わせて情勢を分析するといった日本軍の悪弊が日ソ戦争でも露わになり、後手後手に回ったことがよく分かる。一方で筆者は、日本軍は善戦しており、ソ連軍の圧勝という通説は見直されるべきだと主張する。
      
 ソ連による中立条約破棄、非人道的な戦闘、シベリア抑留など断片的に語られることが多い日ソ戦争。こうしたなか筆者は、日ソや米英中ソの首脳の駆け引き、開戦までの過程、シベリア抑留、占領地をめぐる米ソの駆け引き、北方領土問題、中国残留孤児などを新史料に基づき分析する。ロシアの「戦争文化」やソ連軍の蛮行についても言及する。蛮行の背景として、自軍の将兵の命を尊重しない社会システム、軍紀の緩さ、社会構造の問題を挙げる。「戦争の文化」はロシアのウクライナ侵略を思い出させる。

書籍情報

日ソ戦争 〜帝国日本最後の戦い〜

麻田雅文、中公新書、p.304、¥1078

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。