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横田英史の読書コーナー

TSMC 世界を動かすヒミツ

林 宏文、牧髙 光里・訳、CCCメディアハウス

2024.6.28  10:30 am

 台湾の経済ジャーナリストに手によるTSMC本。TSMCの歴史に始まり、企業哲学、企業文化、ガバナンス、経営戦略、世界戦略、夜鷹と呼ばれる研究開発の24体制、モリス・チャンをはじめとする経営陣の人物像などをカバーする。TSMCを30年以上にわたり取材している著者とあって、この書評で以前取り上げた「半導体ビジネスの覇者〜TSMCはなぜ世界一になれたのか?〜」よりも、本書の方が食い込み具合で勝っている。
    
 本書は台湾の半導体産業の興亡史にもなっている。TSMC台頭をはじめとする台湾の半導体産業の変遷を詳細に紹介しており、頭の整理に役立つ。TSMCとUMCなどとの違いなども興味深い。このほか台湾人の労働観、日本や米国、韓国、中国の半導体産業にも言及する。筆者は「日本を意識して執筆した」と語っているが、確かに日本を多く取り上げているのも特徴となっている。ただし日本の評価が少々甘いのは気になる。
     
 500ページを超える大著だが、文字のサイズが大きく、行間も空いているので、分量をさほど感じさせない。話題のTSMCを知る1冊としてお薦めである。難点は台湾人の名前(漢字表記)が次から次へと登場し、さすがに追いきれないところ。評者はカタカナの名前を覚えきれず、海外文学を苦手にするが本書にも通じる。内容の濃い書だが、構造化されておらず、エピソードがとっ散らかっている感じも否めない。

書籍情報

TSMC 世界を動かすヒミツ

林 宏文、牧髙 光里・訳、CCCメディアハウス、p.528、¥2970

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。