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横田英史の読書コーナー

ダークパターン〜人を欺くデザインの手口と対策〜

ハリー・ブリヌル、髙瀨みどり・訳、ビー・エヌ・エヌ

2024.8.7  10:58 am

 ユーザーの弱みにつけこみ人を欺くユーザーインタフェース「ダークパターン」あるいは「ディセプティブパターン:Deceptive Pattren)」に関する解説書。ダークパターンとは何か、具体的にはどのようなデザインか、欧米における規制の状況などを紹介する。ダークパターンの現状と法規制をざっと知ることができる。原書に日本についての記述はないが、日本語版の監修者が法規制などの現状を解説している。ユーザーインタフェースに関心のある方だけではなく、多くの方にお薦めできる1冊である。
      
 本書は大きく6つの章に分かれる。「人を欺くデザインとは」に始まり、「人を搾取するための戦略」「さまざまなディセプティブパターンの種類」「ディセプティブパターンの弊害」「ディセプティブパターンを撲滅するために」「未来への歩み」と続く。
      
 ダークパターンは、応用心理学とデザイン、法律の交差するところに存在する。この境界領域にある難しい話題を、筆者はうまく料理する。議論は構造化され、事例は「いつまで経っても終わらない退会⼿続き」「すでにチェックされているチェックボックス」など具体的で理解しやすい。例えば搾取的デザインを、知覚的脆弱性を利用する、理解力の脆弱性を利用する、思い込みを利用する、消耗させプレッシャーをかけるなど、8つのパターンに分類するがいずれも納得性が高い。
       
 ダークパターンが生まれる背景として3つのポイントを挙げる。オンライン以前からの小売業における欺瞞的慣行、公共政策におけるナッジの普及、デザインコミュニティにおけるグロースハックの普及である。ここでいうグロースハックはデザインとエンジニアリング、マーケティングを統合して事業拡大の仕組みを作ることだが、ダークパターン増加の元凶となっている。ちなみに筆者はユーザーエクスペリエンスの専門家で、ダークパターンに関する情報提供を行うサイトDeceptive Patterns(https://www.deceptive.design/)の創設者でもある。

書籍情報

ダークパターン〜人を欺くデザインの手口と対策〜

ハリー・ブリヌル、髙瀨みどり・訳、ビー・エヌ・エヌ、p.288、¥2860

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。