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横田英史の読書コーナー

企業変革のジレンマ〜「構造的無能化」はなぜ起きるのか〜

宇田川元一、日経BP 日本経済新聞出版

2024.8.16  11:33 am

 DXに代表される企業変革はなぜ上手くいかないのか、何が阻害要因なのか、どうすれば成し遂げられるのかについて論じたビジネス書。数多くの類書が存在するが、よりも現場の“匂い”が強いのが特徴である。いざ企業変革を進めようとしたときに起こりがちな、経営層と共通部門(コーポレート部門)、現場で起こりがちな軋轢・勘違い・機能不全を筆者は的確に捉えており納得感がある。筆者の主張は理想論に過ぎないとも言えるが、企業変革を進める上でのヒントにはなりそうだ。DXに悩む方にお薦めの1冊である。
     
 組織は事業が確立すると、断片化と表層化、不全化が進み構造的に無能化すると断じる。つまり事業が確立すると、事業プロセスの効率化するために分業化とルーチン化が進み、組織は断片化する。表層化とは、現場が目の前の課題に拘泥し、認知の幅が狭くなり表層的な問題解決で済ませてしまうことを意味する。不全化とは、既存のルーチンの慣性が強く働き、新しいことができなくなりことである。「イノベーションのジレンマ」を角度を変えて表現しているとも言える。
      
 筆者は企業変革に必要な4つのプロセスを挙げる。①全社戦略を考えられるようになる、②全社戦略へのコンセンサスの形成、③部門内での変革の推進、④4つのプロセスを円滑に実践できるようにする、である。これを実現するための組織の在り方、社員のとるべき行動と考え方を論じる。また「何をすべきかわからない」「変革が進まない」「変わらない」といった課題を、「多義性」「複雑性」「自発性」の3つの角度から解き明かす。

書籍情報

企業変革のジレンマ〜「構造的無能化」はなぜ起きるのか〜

宇田川元一、日経BP 日本経済新聞出版、p.292、¥2420

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。