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横田英史の読書コーナー

エヌビディア〜半導体の覇者が作り出す2040年の世界〜

津田 建二、PHP研究所

2024.9.30  11:49 am

 時価総額が世界一になったこともあり、このところ新聞や雑誌などでさかんに取り上げられている米NVIDIAを扱った書。手練れの半導体記者(技術ジャーナリスト)が、同社の来歴や強さの秘密などを明らかにする。ベテランらしく、過去のエピソードを交えながら筆を進めているのは流石だ。にわか仕立ての半導体記者には真似できないところだろう。その昔、ビジネス誌が「謎の半導体メーカー」と書いたが、今や昔の話になった。隔世の感がある。
      
 筆者はNVIDIAの興隆を扱う一方で、日本の半導体産業の凋落にも目を向ける。長く半導体業界を見続けている視点からの分析は説得力に富む。ちなみに筆者は評者の先輩であり、今も親しくしている。この書評にバイアスがかかっていることを予め承知いただきたい。
      
 ただし残念なところもある。ジェンスン・フアンCEOなど米NVIDIAに対する直接取材ができておらず、ズバッと切り込めているとは言い難い。周辺情報で補っているが、どうしても物足りなさを感じてしまう。参考文献の引用の仕方にも疑問が残る。FortuneやForbesといった米国のビジネス誌からの情報が、本書では重要な位置を占めるが、引用の範囲が判然としない。副題の「半導体の覇者が作り出す2040年の世界」も少々言い過ぎだろう。
      
 日経新聞に広告が掲載されたり、東京大手町にある丸善本店の入り口に平積みされるなど、出版社の力も入っている。NVIDIAについてある程度の知識を持っている方は物足りなさを感じるかもしれないが、文章は平易で読みやすいこともあり、「基本を押さえたい」「これから知ろう」という方にお薦めである。

書籍情報

エヌビディア〜半導体の覇者が作り出す2040年の世界〜

津田 建二、PHP研究所、p.272、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。