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横田英史の読書コーナー

ヨーロッパの地政学〜安全保障の今〜

白水社(文庫クセジュ)、ジャン=シルヴェストル・モングルニエ、中村雅治・訳

2024.11.3  12:03 pm

 仏・英・独、中欧、東欧、北欧、バルト諸国、バルカン諸国などが複雑に絡み合い、さまざまな脅威が交錯するヨーロッパを、フランス人の地政学者が歴史的経緯を踏まえつつを地理的・文化的・政治的に解きほぐした書。EUの限界、現在の脅威に対処するための方策、国家連合としてのヨーロッパのあり方などを考察する。日本とは全く違う観点に少し戸惑うが、その分だけ新鮮ともいえる。トランプの再登場で、ヨーロッパが微妙な立場にあるだけに一読に値する。
     
 権力への意志をもち復讐に駆り立てられた地政学的修正主義のロシアだけではなく、中国の台頭への警戒も露わにする。中露の大ユーラシアの中で、ヨーロッパは「アジア大陸の小さな岬」と表現する。興味深いのは米国に対する見方。中露に対抗するためには米国の政治的・軍事的コミットメントが唯一の手段と断じる。現実問題としては当然だが、米国への対抗心が強いと思われるフランス人が、これほど明確に米国依存の姿勢を示すのは意外である。

書籍情報

ヨーロッパの地政学〜安全保障の今〜

白水社(文庫クセジュ)、ジャン=シルヴェストル・モングルニエ、中村雅治・訳、p.160、¥1540

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。