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横田英史の読書コーナー

人類はどこで間違えたのか〜土とヒトの生命誌〜

中村桂子、中公新書

2024.11.14  12:07 pm

 気候変動や戦争、パンデミック、格差といった問題に直面する人類は「どこで間違えたのか」を、人類の歩みを読み解く生命誌(Biohistory)の観点から考察した書。IT化の進展や経済にグローバル化に疑問を呈する。全体に散漫な印象を受けるが、Webサイトに毎月掲載したエッセイをまとめた書なので致し方ないところだろう。生命誌という大きな枠組みを使って、現状を俯瞰的に認識するもの悪くない。
      
 筆者はITの進展に危機感を募らせる。メタバースのように身体から離れた世界を無制限に取り入れたら、人類の滅びにつながると警鐘を鳴らす。言葉は身体性があってこそ意味を持ち、言葉を失った人類の先行きは危ういとする。身体性はAIの接地問題にもつながっており、興味深い論点といえる。
      
 グローバル化については、資本主義という単一の価値観を席巻し多様性が欠如するのは人間の生き方として正しくないと説く。農耕で始まった拡大指向は本来の道ではないとする。
      
 サブタイトルにあるように土に着目したところも興味深い。人間の本来歩むべき道を土の観点から探る。土の重要性は農業だけではなく、土木・建築の分野でも注目されているという。評者の次に読む本リストに滞留している「土と内臓〜微生物がつくる世界〜」や「土と脂〜微生物が回すフードシステム〜」を思わず発注したくなってしまう。

書籍情報

人類はどこで間違えたのか〜土とヒトの生命誌〜

中村桂子、中公新書、p.320、¥1100

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。