横田英史の読書コーナー
コモングッド〜暴走する資本主義社会で倫理を語る〜
ロバート・B・ライシュ、雨宮寛・訳、今井章子・訳、東洋経済新報社
2024.11.26 12:11 pm
カリフォルニア大学バークレー校教授が、米国の政治経済おいてコモングッド(普遍的な善、良識)が失われていく過程を分析するとともに、勝つためには手段を選ばない政治と強欲な資本主義の暴走を止め、より平等で公平なルールを取り戻すための方策を提言した書。コモングッドとは何か、コモングッドに何が起こったのか、コモングッドを取り返せるかについて論じる。第2次トランプ政権が誕生する今こそ、読んでおくべき書だろう。
筆者は米国の政治史と経済史を簡単に振り返り、政治と経済が徐々に蝕まれてきたことを明らかにする。政治におけるコモングッドの崩壊はウォーターゲート事件と辞任したリチャード・ニクソンへの恩赦に始まる。息子に恩赦を与えたバイデンも、この系譜に連なることになる。経済面ではマイケル・マイケルやジャック・ウェルチ、金融危機の際に巨額の公的資金を注入されたにもかかわらず一人として収監されることも、起訴されることもなかった銀行家たちをやり玉に挙げる。
「トランプは原因ではなく、結果である」ということが本書を読むとよく分かる。著者はビル・クリントン政権での労働長官、オバマ大統領のアドバイザーなどを務めた経済学者だが、オバマをはじめとする民主党もコモングッド崩壊の一因だったと述べる。例えばオバマは、大統領令の乱発で、権力分立と民主的協議という憲法の仕組みを傷つけた。
筆者は冒頭で、ジョン・F・ケネディの大統領就任演説の一説「国があなたのために何ができるかを問うのではなく、あなたが祖国のために何ができるかを問うてほしい」を引用し、現代の市民社会は互いがつながっているという感覚を失い、理想を失ったと嘆く。最も力のある者、頭の良いもの、隙を見せない者だけが生き残るようでは、そんなものは社会とは言えないし、文明とさえ言えないと断じる。
コモングッドを取り返すうえで、筆者が重要視するのが市民教育である。無知が専制を生み、専制が無知を生むと語る。ただしコモングッドが取り戻すには半世紀以上かかると予測する。一度失ったものを取り返すのは難しい。米国に関する書だが、日本にも共通する点は少なくない。多くの気づきを与えてくれる書である。
書籍情報
コモングッド〜暴走する資本主義社会で倫理を語る〜
ロバート・B・ライシュ、雨宮寛・訳、今井章子・訳、東洋経済新報社、p.256、¥2090