横田英史の読書コーナー
破壊なき市場創造の時代〜これからのイノベーションを実現する〜
W・チャン・キム、レネ・モボルニュ、有賀裕子・訳、ダイヤモンド
2024.12.8 1:11 pm
「ブルー・オーシャン戦略」で知られる著者が、既存の業界や企業を破壊せず、企業倒産や雇用の喪失を生まない「非ディスラプトなイノベーション」を提唱した書。ゼロサム思考からポジティブ思考に転換し、経済善と社会善を両立すべきだと強調する。具体例を示しながら、非ディスラプトなイノベーションの実現法を伝授する。全体に「言うは易く行うは難し」の感は否めないが、発想としては面白い。
筆者は、まだ解決されていない課題や問題を探せば、破壊を伴わない新しいイノベーションの道が見えると強調する。既存の業界の垣根の外側に非ディスラプトな新規領域を創造し、既存企業との直接対決や反発を避けて破壊なしに成長を実現する。クレジットカード決済端末のスクエアリーダー、アクションカメラのGoPro、ポストイット、バイアグラ、マイクロファイナンス。男性化粧品、セサミストリート、日本ではパーク24などを事例として取り上げる。
破壊を伴わないイノベーションの機会を見つけられないのは、暗黙の前提が邪魔するからだと説く。暗黙の前提が機会を覆い隠す。他人の憶測を鵜呑みにしないことや識者を当てにしないことが重要だとする。筆者は、目的と手段の混同も戒める。「技術革新を追求すれば成功するだろう」という考えは順序を間違えているとする。まずバリューイノベーションについて考え、次にそれを実現するためのテクノロジーを考えるのが正しい。買い手にとっての価値に大きな変化をもたらすかが重要だと断じる。
書籍情報
破壊なき市場創造の時代〜これからのイノベーションを実現する〜
W・チャン・キム、レネ・モボルニュ、有賀裕子・訳、ダイヤモンド、p.296、¥2530
横田 英史 (yokota@et-lab.biz)
1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。
*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。
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