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横田英史の読書コーナー

デジタル脳クライシス〜AI時代をどう生きるか〜

酒井邦嘉、朝日新書

2024.12.15  1:15 pm

 東大教授の言語脳科学者が、AI/生成AIをはじめとする情報技術の進展に警鐘を鳴らした書。デジタル技術やデジタル機器の虜になった人間の脳が直面する危機について論じる。人間軽視の技術が先行する限り人類は未来はないとする。例えばAI/生成AIは疑ってかかるべきで、イノベーションは進歩でも進化でもないとする。過去の技術の改悪や破壊であり、退化につながると声高に叫ぶ。経験論至上主義のAI開発は人間を誤った方向に誘導していると、嫌悪感を露わにする。
     
 生成AIについては、「文法構造などに関する情報が、何らかの仕方で暗黙のうちに表現されているかもしれない」と考えるのは大いなる誤解と断言する。言語学や言語哲学に新たな概念をもたらしたり、改訂を加えたりする可能性は全く期待できない未熟なものと断じる。ちなみに生成AIは、過去のデータを合成しているだけなので「合成AI」と呼ぶべきだと断じ、本書では「合成AI」で統一している。
    
 自説を強調するための牽強付会の論理展開には違和感を覚えるが、脳科学者の見解として面白い。AI工学は脳科学や言語学と袂を分かって歪んだ形で肥大化した。AIが脳科学の応用技術としていいないのが不安だとする。現状の生成AIが人間の脳機能から大きくかけ離れた技術であり、言語や思考の能力を損なう点で桁違いのリスクを伴う。特に教育現場で、文章を書く指導で生成AIを使うことは深刻な影響を及ぼすと強調する。生成AIブームが続くなか、こんな見方が存在することを知るのは悪くないだろう。

書籍情報

デジタル脳クライシス〜AI時代をどう生きるか〜

酒井邦嘉、朝日新書、p.240、¥990

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。