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横田英史の読書コーナー

VTuber学

岡本健、山野弘樹、吉川慧、岩波書店

2024.12.28 1:16 pm

　VTuberを学問的な俎上に上げた書。その可能性と課題を取り上げる。学者、研究者、起業家、作家、ライター、学生、図書館司書、VTuber自身など多彩なバックグランドをもつ執筆陣が、多角的に分析する。ちなみに『現代用語の基礎知識 2024』によるとVTuberとは、「VR（仮想現実）スタジオ内で3D CGキャラクターに扮し、実況動画を配信する人のこと」。2016年にキズナアイがユーチューブに最初の動画を投稿してバーチャルユーチューバーと称したことで、言葉として定着したという。
　　　　　
　本書はVTuberを文化的、社会的、経済的、産業的、理論的、さらには哲学的に分析する。まずVTuberの歴史を紹介し、VTuber企業のビジネスモデル、社会的広がり、エンターテインメント性などを紹介するとともに、調査によってその実態を明らかにする。本書を読むと、VTuberが文化として市民権を得ており、社会に定着しつつてあることが分かる。
　　　　
　研究領域は大きく４つある。①技術、②アニメーション・漫画・ゲーム文化、③インターネット文化、④アイドル/セレブリティ文化である。けっこう幅が広く、奥行きもある。例えばメタバースにおけるアイデンティティは３つの軸で認識されるという。名前（言霊世界）、アバター（視覚世界）、声（音響世界）である。哲学的な分析を取り上げた章は少々取っ付きにくが、新しい分野だけに気づきも多く、全体に面白く読める。新しい文化に興味を持つ方にお薦めの1冊である。

書籍情報

VTuber学

岡本健、山野弘樹、吉川慧、岩波書店、p.352、¥3740

横田英史（yokota@et-lab.biz）

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル（現日経BP社）に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT（現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、日経BP総合研究所グリーンテックラボ主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会（JASA）理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

＊本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。