Electronics Information Service

組込みシステム技術者向け
オンライン・マガジン

MENU

横田英史の読書コーナー

AI経済の勝者

アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブ、小坂恵理・訳、早川書房

2025.1.10  12:46 pm

 金融やマーケティング、流通、医療などのビジネスにAI(人工知能)を実装しワークフローを効率化する手法を論じた書。個人や企業、組織がAIを効果的に使い、投資に見合った利益を得るための勘所を披露する。AIを用いたソリューションでは予測と判断を分離し、前者をAIが、後者を人間が担うことが重要だと断じる。ビジネスプロセスのすべてをAIに任せるのではなく、意思決定は人間が下すべきだと主張する。
     
 興味深いのは、DXの議論におけるデジタイゼーションからデジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションへの3ステップと同様の議論が展開されていること。筆者はAI活用が、「ポイント・ソリューション」、「アプリケーション・ソリューション」から「システム・ソリューション」に移行すべきだと論じる。
     
 ただしシステム・ソリューションの移行には注意が必要である。企業の意思決定プロセスは無数のルールで成り立っており、そのなかの一つをAIベースに置き換えると、他の部分に大きな影響を及ぼし亀裂を生じかねない。既得権者の抵抗が考えられるし、企業の文化やインセンティブ、教育・研修、インセンティブなどを刷新する必要に迫られる可能性もある。そこで筆者は、「ディスカバリーキャンバス」と呼ぶ手法を使って、白紙の状態からシステム全体の絵を描くべきだと主張する。

書籍情報

AI経済の勝者

アジェイ・アグラワル、ジョシュア・ガンズ、アヴィ・ゴールドファーブ、小坂恵理・訳、早川書房、p.392、¥3190

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。