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横田英史の読書コーナー

異次元緩和の罪と罰

山本謙三、講談社現代新書

2025.1.15  12:47 pm

 2024年春まで11年間にわたって続いた、日本銀行による「異次元緩和」の妥当性と今後の金融政策の難しさを論じた書。国債だけではなくETFを大量に買い込む金融政策によって、日銀は国債発行済み残高の半分を抱え、国内最大の機関投資家となった。政府の財政規律も緩みっぱなしである。まさに異様であり、異常だったことを、筆者はデータに基づき明らかにする。異次元緩和の副作用が顕在化するのはこれからであり、その時に備えて本書を読ん予習しておくのも悪くない。
     
 国債購入は財政ファイナンス(日銀による国の借金の肩代わり)が懸念され、相場下落の恐れのあるリスク資産の買い入れは禁じ手とされた。それでも日銀は2%の物価上昇にこだわり、11年間にわたり追加緩和策を次々に繰り出した。こうした金融政策が市場や金融システムに負荷をかけ、生産性の低い企業の温存を通して経済の停滞を長引かせた。
     
 緩和策発表のたびに、日銀は独特な表現で言い訳を繰り返した。無謬性にこだわり、自らの読み違いを真正面から認めることに躊躇する官僚の姿がそこにあった。結果として、国民のなかに率直に語らない日銀のイメージが定着した。筆者は「そもそも日銀が思うほどに国民は日銀に関心を持っていなかった」と振り返り、人々のインフレ期待(心理)を変える政策は、「理論先行の実験でしかなかった」と分析する。

書籍情報

異次元緩和の罪と罰

山本謙三、講談社現代新書、p.288、¥1210

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。