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横田英史の読書コーナー

論理的思考とは何か

渡邉雅子、岩波新書

2025.1.22  12:49 pm

 論理的思考の本質について、具体的事例を挙げながら解説した書。論理的思考のパターンは一様ではなく、思考の対象となる分野によって異なることを明らかにする。刮目すべき内容が多く含まれており、役立ち感のある新書に仕上がっている。本書の元になった専門書も併せて読みたくなる啓蒙書で、多くの方にお薦めである。
    
 筆者は大きく2つのことを強調する。一つは多様性で、「論理的思考が世界共通で普遍」と考えるは間違いだということ。もう一つは、論理的思考には目的(領域)に紐付いた「型」が存在すること。つまり領域を特定して、その領域にあった思考法を選ぶことが重要となる。また作文の型は論理と思考の型と密接に紐付いており、作文の型が異なると結論を導き出す道筋(論理)だけではなく、結論そのものの在り方が変わるという指摘も興味深い。
     
 本書は、社会を構成する4つの領域(経済、政治、法技術、社会)について、それぞれの領域における特徴的なレトリック(作文)を分析することで、思考法の違いを明らかにする。
     
 経済ではアメリカのエッセイを例に、効率性と確実な目的達成を重視する思考法を示す。政治ではフランスのディセルタシオンを取り上げ、矛盾の解決と公共の福祉を重視することをついて論じる。法技術ではイランのエンシャーを題材に、真理の保持を重視する思について解説する。社会領域で取り上げるには日本の感想文(綴り方)である。社会の構成員からの共感が評価の中心となることを明らかにする。普遍的・絶対的な倫理かどうかではなく、親切や慈悲、譲り合いといった社会で必要とされる能力を測ることが重視されるという指摘は興味深い。

書籍情報

論理的思考とは何か

渡邉雅子、岩波新書、p.208、¥1012

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。