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横田英史の読書コーナー

「世界の終わり」の地政学 上 〜野蛮化する経済の悲劇を読む〜

ピーター・ゼイハン、山田美明・訳、集英社

2025.1.26  12:51 pm

 世界の政治経済における過去および現在を地政学と人口統計学の観点から分析するとともに、人類を待ち受ける悲惨な未来を予測した書。ロシアや中国の修正主義、米国におけるトランプの政権返り咲きなど、世界は第2次世界大戦前の「無秩序」な状態に逆戻りしている。世界は分断され、安全でなくなり、貿易は厳しく制限されている。こうした世界の状況を、筆者は地政学と人口統計学、歴史を踏まえながら深い洞察を加える。
     
 上巻では輸送と金融を取り上げる。東京大学生協の書籍部門のベストセラー入りが納得できる内容である。上下2巻構成で合わせて600ページ超の大作だが、翻訳がこなれていて長さを感じさせない。多くの方にお薦めできる1冊である。
     
 筆者の見解は、「世界の命運は尽きている」「ヒト・カネ・モノ・情報のサプライチェーンが分断された脱グローバルによって、経済も文明も野蛮化する」ときわめて悲観的だ。グローバル化は米国主導の世界秩序によって支えられた。その米国が「アメリカは世界の警察官ではない」と2013年に宣言したことで、グローバル化は終焉し、脱グローバルに世界は向かった。
      
 脱グローバル化に加えて、人口の高齢化と労働人口の減少が世界に襲いかかる。安価で質が良く迅速な世界から、高価で質が悪く“のろい”世界へと急速に移行する。世界は成長なき資本主義に陥り、大規模な不平等が生まれ、退化が進む。こうしたなか中国が没落する一方、地理的条件に恵まれ、優れた人口構成をもつ米国は生き残るというのが著者の見立てである。自衛隊の海路の安全保障力を高く評価し、少子高齢化が進み、対外依存度が高い日本の立ち位置を、意外なほど評価しているのは驚きである。

書籍情報

「世界の終わり」の地政学 上 〜野蛮化する経済の悲劇を読む〜

ピーター・ゼイハン、山田美明・訳、集英社、p.320、¥1980

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。