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横田英史の読書コーナー

悪文の構造〜機能的な文章とは〜

千早耿一郎、ちくま学芸文庫

2025.1.31  12:54 pm

 多くの方にとって必要なのは芸術的な名文を書くことではなく、悪文を書かないこと----筆者は、小説や新聞、法律の条文を取り上げ具体的に、「悪文」を書かないための技術を紹介する。文章の構造を分析して図示して、読みづらかったり、誤解を生んだりする原因を解明する。筆者が「工学的」と呼ぶ手法は実に明快で分かりやすい。三島由紀夫や有吉佐和子、新田次郎といった著名小説家の文章でも、駄目な部分を具体的に指摘し、容赦なくこき下ろす。多くの方にぜひ読んでいただきたい1冊である。
     
 筆者が重視するのは、正確であり、曖昧でなく、誤解されない“機能的”な文章である。記者・編集者時代に「何を言っているのか分からない文章」を数多く読んできた評者は、筆者の言う機能的な文章に強く同意する。読者に負担をかけない、読者に対する親切心に裏付けられた文章を重視する姿勢にも共感が持てる。
     
 このほか筆者は、長文を避ける、結論を先に述べる(雑誌記事や新聞記事の基本中の基本)、箇条書きを有効に使う、必要な主語を省略しない、接続詞を濫用しない、やさしい言葉を使う、修飾語は短く、などを挙げる。いずれも納得の指摘だ。評者が文章に携わる仕事について40年近くになるが、これほど明晰な文章論は初めてである。1979年に初版が出ており、副編集長・編集長時代に知っていれば、「読んでおけ」と部下に紹介していたのは間違いない。

書籍情報

悪文の構造〜機能的な文章とは〜

千早耿一郎、ちくま学芸文庫、p.304、¥1210

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。