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横田英史の読書コーナー

「世界の終わり」の地政学 下 〜野蛮化する経済の悲劇を読む〜

ピーター・ゼイハン、長尾莉紗・訳、集英社

2025.2.5  12:56 pm

 世界の政治経済における過去および現在を地政学と人口統計学の観点から分析するとともに、人類を待ち受ける悲惨な未来を予測した書の下巻。本書が描くのは今後の世界で起こり得る最悪の事態だが、こうした事態を招く前提がある。米国が脱グローバル化に舵を切り、世界の秩序を守る地位から降りることでサプライチェーンが分断され、世界全体が内向きになることである。トランプ政権下で進行する「自国第一主義」の状況と酷似する。人口減少と高齢化といった避けることのできない人口動態と相まって、なんとも薄ら寒い気持ちにさせられる。
     
 下巻では、エネルギーや工業用原料/天然資源、製造業、農業の今後について分析する。米国が世界の警察官から退いたあとの無秩序に対して、世界はあまりに脆弱だと警鐘を鳴らす。例えば東アジア各国は高齢化の進行や互いに嫌い合った状況にあり、持続可能性が低いと断じる。上巻の書評でも触れたが、上下2巻で計600ページ超の大作だが、翻訳の出来が良く長さを感じさせない。一読の値する1冊である。
      
 人類は10年ほど前に、より良い道を進むチャンスを逃したと著者は言い切る。冷戦が終結したときに、米国には殆どどんなことでもできるチャンスがあった。ところが右派も左派も自己満足的なポピュリズムへと堕落し始めた。クリントン、ブッシュ、オバマ、トランプ、バイデンと続いた政権は、世界全体に対して無関心でいようという姿勢を貫く。そして再びトランプである。先進国のほとんどで、消費、生産、金融の同時崩壊が間近に迫っているという。

書籍情報

「世界の終わり」の地政学 下 〜野蛮化する経済の悲劇を読む〜

ピーター・ゼイハン、長尾莉紗・訳、集英社、p.352、¥2200

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。