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横田英史の読書コーナー

量子超越〜量子コンピュータが世界を変える〜

ミチオ・カク、斉藤隆央・訳、NHK出版

2025.2.12  12:58 pm

 量子コンピュータの潜在能力や活用への期待を論じた書。医療や創薬、エネルギー、地球温暖化、食糧危機、金融、宇宙など、量子コンピュータなら解決できるかもしれない課題を網羅的に取り上げ、量子コンピュータが果たすことのできる役割を紹介する。技術の進歩への楽観的なスタンスで貫かれており気持ち良い。ちなみに量子超越とは、量子計算の原理を用いたデバイスが従来タイプのコンピュータで実用的な時間で解決できない問題を解けるようになった状態を指す。
     
 著者は理論物理学者だが、量子力学や量子コンピュータの原理に深入りせず、実用化後の応用面に的を絞って論じる。本書は量子コンピュータの登場から始まる。量子論に始まり、波動方程式、シュレディンガーの猫、量子コンピュータの誕生について簡単に描く。量子の世界は表面をなぞっているだけなので、量子の世界における摩訶不思議な挙動に頭を悩ませることはなく読み進むことができる。量子コンピュータが人類に与える影響の大きさを知ることのできる良書である。
     
 量子コンピュータ登場の次に取り上げるのが量子医学である。創薬や難病の治療、遺伝子編集、不老不死など興味深い話が満載だ。例えば不老不死では、アルツハイマー病やパーキンソン病、ALSなどとの関連が疑われるプリオンの性質を量子コンピュータによって理解し、治療法が見つかる可能性に言及する。
     
 さらに、地球と宇宙のモデル化、核融合など、量子コンピュータなら「解決できるかもしれない」課題が次から次へと登場する。量子コンピュータとAIの組み合わせという興味深い話も登場するが、正直なところ深みが足りず、少々物足りない。

書籍情報

量子超越〜量子コンピュータが世界を変える〜

ミチオ・カク、斉藤隆央・訳、NHK出版、p.416、¥2860

横田 英史 (yokota@et-lab.biz)

1956年大阪生まれ。1980年京都大学工学部電気工学科卒。1982年京都大学工学研究科修了。
川崎重工業技術開発本部でのエンジニア経験を経て、1986年日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。日経エレクトロニクス記者、同副編集長、BizIT(現ITPro)編集長を経て、2001年11月日経コンピュータ編集長に就任。2003年3月発行人を兼務。
2004年11月、日経バイト発行人兼編集長。その後、日経BP社執行役員を経て、 2013年1月、日経BPコンサルティング取締役、2016年日経BPソリューションズ代表取締役に就任。2018年3月退任。
2018年4月から日経BP社に戻り、 日経BP総合研究所 グリーンテックラボ 主席研究員、2018年10月退社。2018年11月ETラボ代表、2019年6月一般社団法人組込みシステム技術協会(JASA)理事、現在に至る。
記者時代の専門分野は、コンピュータ・アーキテクチャ、コンピュータ・ハードウエア、OS、ハードディスク装置、組込み制御、知的財産権、環境問題など。

*本書評の内容は横田個人の意見であり、所属する企業の見解とは関係がありません。