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センサの通信方式を革新する デュアルバンド・ワイヤレス・コネクティビティ

2017.3.27  6:25 pm

ベン・ギルボア (Ben Gilboa), Texas Instruments

 ここ数カ月の間に、Sub-1 GHzとBluetooth® low energyの両テクノロジを同時にサポートするデュアルバンド動作機能を搭載したワイヤレスSoC(System-on-Chip)が発表されました。これによりスマート・ワイヤレス・ネットワーク構築への新しい道が開けました。これまで、センサは中央の制御装置等や他のセンサと直接通信を行っていましたが、Bluetooth low energyが加わることによって、センサは、これまでの通信のみならず、スマートフォンやタブレットと直接通信できるようになります。

 ワイヤレス・センサ製品はよく知られている様に住宅やビル管理に広く用いられています。ここ数年、RF機器の性能の向上や消費電力の削減のみならず、集積化によるコストの削減などの技術的な改善によって、ワイヤレス通信はセンサの接続に推奨される方式となりました。ワイヤレス・センサ・ネットワークは、導入が低コストかつ容易で、有線ネットワークよりも規模の拡大が容易です。

 ワイヤレス・センサの通信は通常Sub-1 GHzが使われます。Sub-1 GHzの物理特性によって、2.4GHz帯ベースのテクノロジよりも長い通信距離と、より良好な見通し外通信が可能です。Sub-1 GHzテクノロジは、しばしばセンサ・ネットワーク向けに選択されます。Sub-1 GHz帯でIEEE 802.15.4gをはじめとした標準的なプロトコルを使うことで、開発各社はプロトコル開発への投資が不要で、中央の制御装置等と通信できる堅牢、かつ安全なマルチセンサ・ネットワークを構築できます。

図1:デュアルバンド・コネクティビティを使い、スマートフォンと接続可能な、Sub-1 GHzによるスター型ネットワーク

 SimpleLink™ デュアルバンド『CC1350』ワイヤレス・マイコンをはじめとするデュアルバンド・ワイヤレス・デバイスを使うことで、Sub-1 GHz のエンドノード・センサにBluetooth low energyを容易に追加できます。この機能によって、ワイヤレス・センサと直接通信できる、新たな使用例やアプリケーションへの無限の道筋が開きます。ワイヤレス・センサのエンドノードは、ゲートウェイや制御装置等に接続されSub-1 GHzネットワークの一部ですが、スマートフォンとも直接通信できるようになります。

センサの設置
 デュアルバンド・コネクティビティのセンサの導入作業は簡単です。センサを取り付け、Sub-1 GHzネットワークに接続する前に、技術者はセンサをBluetooth low energy経由でスマートフォンに接続して初期設定を行います。センサ製品は小型、低価格、低消費電力にデザインされているため、ユーザ・インターフェイスを持っていません。現在、通常の設定法には、プリント基板のジャンパ設定、ディップ・スイッチやボタンの設定などがありますが、これらの方法による設定レベルは非常に限られていることは明らかです。センサとBluetooth low energy の接続を確立すれば、スマートフォンがユーザ・インターフェイスとなり、技術者は簡単にセンサを設定しSub-1GHzネットワークに接続できます。動作周波数や出力電力に関する法規上の制約、周波数ホッピング、デバイスID、更新周期その他のネットワーク設定とともに、 ネットワーク・セキュリティの認証も設定できます。この能力は工場だけではなくフィールドで設定可能な汎用ソリューションの構築に役立ちます。

システムの更新
 センサのソフトウェアの更新も、 Bluetooth low energyによるスマートフォンへの接続を使うことで容易に可能になる機能の一つです。スマートTVからコーヒーマシンまで、あらゆる接続可能な電子機器をスマートフォンに接続してソフトウェアの更新を行うことは、非常に一般的な手順になりつつあります。接続されたセンサも、この機能の利点を活用できます。
 Bluetooth low energyによる接続を使うことで、技術者やオーナーは、更新済みのソフトウェアをクラウドから簡単に入手し、センサに導入できます。バグの修正や新しい規則に準拠するための製品の拡張や変更なども、新しいソフトウェアで対応できます。このソフトウェア更新機能によって、メーカー各社は製品の市場投入期間を短縮するとともに、ハードウェア・プラットフォームの寿命を延長できます。エンド・ユーザには、障害診断がより簡単になるとともに、常に最新の製品が得られる利点を提供できます。

Bluetooth low energyの アドバタイズ機能
 これまでに、Bluetooth low energyを導入、接続の実感で得られる、顧客とメーカー各社の両方に利点を提供することを説明してきました。Bluetooth LE規格に規定されたBluetooth low energyのアドバタイズは、センサに、より多くの用途を提供するとともに、より多くの興味深い使用法を可能にします。Bluetooth low energyの アドバタイズ機能には、スマートフォンのBluetooth機能をオンにしておく以外、接続その他の操作は不要です。Bluetooth low energyのアドバタイズメント (Bluetoothのビーコン機能) によって、センサは文字通りしゃべることができるようになります。スマートフォンを近づけることで、センサ製品はスマートフォンに情報を直接送ります。送られる情報は、センサ自身が集めたもののほか、中央の制御装置等から送られて来たものも可能です。

図 2: Sub-1 GHz遠距離サーバ経由でBluetooth low energyのアドバタイズ機能を活用

煙検知器ネットワークと環境センサ製品
 建物や住宅への相互に接続された煙検知器の設置は、米国の大多数の州において、法規上、推奨または義務付けられています。相互に接続された煙検知器を使うことで、1個の検知器が煙を検知して鳴動すると、すべての検知器が鳴動します。これによって早期に警報を発し、建物や住宅のどこにいても確実に警報に気付くことができます。導入にあたって新たな配線作業が不要な、Sub-1 GHzテクノロジを使ったワイヤレスの相互接続の煙検知器が市販されています。この煙検知器のネットワークは、他の種類のセンサも含み監視盤に接続される、より大規模なセーフティ・ネットワークに接続することも、またはそれら単独でネットワークを構成することもできます。どの場合でも、Sub-1 GHzテクノロジをベースとした主幹ネットワークを使うことは、住宅や建物の全体の監視に適した手法です。これらの検知器にBluetooth low energyテクノロジを追加することで、より多くのオプションや機能を使えるようになります。煙検知器を備えたホテルの部屋で、一つの警報がオフになった後、それぞれの煙検知器はBluetooth low energyの アドバタイズ・メッセージを使い、その部屋の宿泊者に避難経路の情報を送ります。さらに、この機能は、スマートフォンを振動させ、警報音が聞こえない聴覚障害の人々にも有益です。

 監視盤に接続されていない、小規模の煙検知器ネットワークでも、単純にBluetooth low energyを追加することで、ユーザがスマートフォンを使ってネットワークや電池の状態をチェックできるという利点が得られます。これまでは、こういった機能を持たない煙検知器ネットワークをモニタすることは困難でした。通常、煙検知センサや、一酸化炭素、可燃性ガス、ラドン・ガスその他のガス・センサは、1つのスレッシュホールド値をベースとして1ビットのバイナリ情報(オフ/オン)しか提供しません。Bluetooth low energyを使うことで、これらのセンサを簡単に拡張して、測定結果の詳細な状態を送信できるようになります。ユーザは緊急事態が発生する前に、環境状態に関する、より詳細な知識を得ることができます。希薄なガスが広範囲に拡がっているだけでは警報はトリガされませんが、エンド・ユーザにとっては重要な情報となることもあります。

図3: Bluetooth low energy経由で機器をSub-1 GHzネットワークに登録

自動ドア
 図書館や庁舎などの公共施設の自動ドアを例に挙げましょう。この自動ドアではドア・センサを使って、建物に入る訪問者にメッセージを送ります。その施設が閉鎖されている場合、開場時間を知らせ、開場中の場合には、何らかの案内情報を提供できます。これらのメッセージは、中央制御ユニットから、Sub-1GHzネットワークにつながれたすべてのドアのモーション・センサに、ネットワーク経由で送られ、これらのセンサが検知した場合に、Bluetooth low energy のアドバタイズ機能を使って、そのメッセージを訪問者に転送します。

図 4: Sub-1 GHzに接続された自動ドア・センサが、Bluetooth low energy経由で訪問者のスマートフォンに情報を提供

駐車場
 各駐車スペースに駐車センサを持つ公共の駐車場について考えてみましょう。このセンサは、その場所に駐車されているかどうかを検知し、中央制御装置と通信します。中央制御装置は複数の電子表示を使って、運転者を空きスペースまで誘導します。その場所にクルマが駐車すると、駐車センサはBluetooth low energyの アドバタイズ・メッセージを使って、その場所の詳細を伝えます。この情報は運転者が駐車位置を憶えておくために役立ちます。この例でも、Sub-1 GHz は高い信頼性の遠距離通信を行うための主幹ネットワークとして使い、Bluetooth low energyがエンド・ユーザの体験を向上します。

図5: スマートフォンで駐車場の駐車センサにアクセス

建物内の位置
 Bluetooth low energyのビーコン機能は、建物の室内ロケーション・システムに広く使われています。 このテクノロジは急激に増加しており、数多くの商業用ビルのネットワークに追加されています。例えば既存の火災検知器は、デュアル・モード・デバイスを使うことで、ビーコン機能によるロケーション・ネットワークを構成できます。法令によって、建物内には数多くのセンサが設置されていることから、これらのセンサに両方の機能を持たせることで、機器、設置や保守のためのコストを削減できます。

TIの超低消費電力SimpleLinkワイヤレス・マイコン搭載のエンド・ツー・エンドのセンサ・システム
 TIの SimpleLinkデュアルバンド『CC1350』 ワイヤレス・マイコンは、Sub-1 GHz周波数帯による長距離のRFコネクティビティと、2.4GHz帯のBluetooth low energyの簡素なコネクティビティの両方を同一デバイスで提供する、新しいSoC(システム・オン・チップ)ソリューションです。『CC1350』 ソリューションは小型、かつ低消費電力動作を提供することから、先に述べたようなシステムの構築に最適です。内蔵のマイコンは48MHzクロックで動作するARM® Cortex®-M3 で、128KBのフラッシュと20KBの超低漏れ電流のRAMも内蔵しています。このデバイスは、A/Dコンバータ、I2C、UART、GPIOをはじめとした、センサの構成に必要なすべてのペリフェラルを内蔵しています。またCC1350デバイスは、システムのそれ以外の部分がオフの場合でも動作を継続可能な、独自のセンサ・コントローラ・ユニットも内蔵しています。このセンサ・コントローラは非常に低消費電力のプロセシング・ユニットを使っており、センサを低消費電力で連続モニタが可能です。メイン・コアは、必要な場合のみウェークアップします。この機能によって、コインセル電池で10年以上の動作寿命が可能です。

図6: デュアルバンド・コネクティビティを提供する小型のSimpleLink 『CC1350』 ワイヤレス・マイコン

『CC1350 』ソリューションのSub-1 GHz部分は、完成されたIEEE 802.15.4 Stackによる標準的なスター・ネットワークを構築できます。このスタックは、メディア・アクセス、セキュリティ、アドレシング、リトライやアクノリッジメントをはじめとしたすべての通信局面の処理を提供します。TIでは、802.15.4プロトコルとEthernetゲートウェイを使ってエンドノードのセンサとクラウドを接続したコンプリートなソリューションを、Sub-1 GHz センサのクラウド接続のリファレンス・デザインを公開しています。『CC1350』 ソリューションには、802.15.4 スタックのほかに、EasyLinkと独自のスタックも使用可能です。EasyLinkを使うことで、複雑な無線やRF設定の作業なしに、API群の非常に簡素な組み合わせで独自の通信プロトコルが構築可能になります。

TIは上記の2種類のスタックの上で、『CC1350』 によるBluetooth low energy接続やBluetooth low energyの アドバタイズ機能を可能にする、Bluetooth 4.2に準拠したBLE-Stack も供給しています

※SimpleLinkはTexas Instrumentsの商標です。その他すべての商標はそれぞれの所有者に帰属します。

著者紹介

ベン・ギルボア (Ben Gilboa)
ソリューションのマーケティング・システムエンジニア。TIのローパワー・ワイヤレス・コネクティビティ分野において過去10年の間、SimpleLink Wi-Fi製品のアプリケーション・グループマネージャ、WLANシステムのチームリーダ、VLSIエンジニアを歴任。
テルアビブ大学卒業(経営学/ファイナンス修士号および電気工学 学士号取得)