イベント・リポート NO-9
ESC San Francisco 2004
3/30-4/1 at San Francisco Moscone Center

リポータ : EIS編集部 中村

NO−2
主な出展者 続き
前回に続いて目に留まった出展社を紹介する

○ ARM

ARM社は日本のESCともいうべき、Embedded Technology「組込み総合技術展」では、ここ数年、最大級の規模で出展しているが、この展示会でも大きなブースを構えていた。同社は展示会期間中に報道関係者や業界アナリストを招き、同社のArdizzone社長とマーケティング担当のInglis上級副社長が最近の業績や今後の事業計画について説明した。これによれば、同社は順調に業績を伸ばしており、特にARM10/ARM11コアのライセンスが増加しているようだ。応用分野別で見れば、やはり携帯電話に代表されるワイヤレスのセグメントに圧倒的に強く、今後はネットワーキングやディジタル家電、プリンタやディタル・カメラを含むイメージング分野が伸びると予測していた。ARMコアをライセンスしている半導体企業は128社にも拡大しており、特定企業や地域に依存する比率が低下しているため、同社は将来のビジネス展開を図る上でのリスクが最小に抑えられることを強調していた。
展示会開催中、ARM社はMontaVistaが同社の最新CPUコア、ARM1136J-Sおよび1136F-SをMontaVista Linux Consumer Electronics Editionでサポートしたことや、フィリップス・セミコンダクタがPowetVR MBXグラフィック・アクセラレータをライセンスしたことを発表した

ARM社のブース

○ TensilicaとARC International

組込みシステム用のコンフィギュラブル・プロセッサのコアを提供しているTensilicaとARC Internationalの両社もこの展示会では目立つ存在だった。
Tensilicaのブースには大勢の人が集まっていたが、これは同社がスポンサになった小型ロボットの対戦ゲームが行われていたことも手伝ったようだ。SoZBotsと呼ばれる16オンスの重さのロボットが複数登場して激しいバトルを行う様子は、収録された動画でも見ることができる。(動画はこちら) 日本の組み込み技術の展示会でも製品展示だけでなく、こうした楽しいイベントが開催されれば、さらに人を呼べるのは間違いないだろう。

 

Tensilicaのブースに設置されたリングとそれを眺める観衆

一方、ARC Internationalのブースも、写真のように華やかのものだった。
このイベントの約1ヶ月前、ARC社は新しいCEO(最高経営責任者)の就任を発表している。同社のCEOになったのは、モトローラ、ARM、SandCraft社などの半導体メーカでトップ・マネージメンを経験した、Carl Schlachte氏である。
我々にとって、ARC社はコンフィギュラブル・プロセッサ・コアのベンタとしての印象が強いのだが、最近の同社は組込みソフトウェアの開発環境を提供するビジネスへの転進をはかっているようにも見える。これは、数年前に買収したMetaWare社の資産をベースにしたものと考えられるが、会期中にインタビューした同社のマーケティング担当副社長、David Fritz氏は「現在のビジネスの78%は、Silicon Solution Business」と話していた。 ESCの会期中にARC社から発表されたプレスリリースには、ARC社の組み込みシステム開発プラットフォームがモトローラのColdFireやPowerQUICC Iプロセッサをサポートすることや、MotorolaとMetrowerksとの提携により、工業制御機器をターゲットにしたシステム開発環境とIPを提供する、というものが含まれていた。

華やかなARC Internationalのブース

○ Green Hills Software

組込みソフトウェア用C、C++コンパイラのMULTIやRTOS製品のINTEGRITYなどで日本でもすっかりお馴染みGreen Hills社は、この展示会でも大きなブースで出展して存在感を示していた。
会期中、同社はRTOS製品、INTEGRITYのマイクロ・カーネル、verOSityを個別にライセンスすることを発表した。勿論、ロイヤリティは不要だ。同社は同時にアナログデバイス社のDSP、BlackFinファミリをサポートすることも発表した。Green Hillsの展示ブースには、あのなつかしい映画、「Back to the Future」に登場してくる、デロリアンを思わせるクルマが置かれていた。これは、同社のソフトウェア・デバッグ・ツール、「TimeMachine」の存在を強調したものだろう。日本からの来場者の数少ない中、Green Hillsの代理店である(株)アドバンスド・データ・コントロールズ(ADaC)の幹部の皆さんが来場されていて、展示会場だけでなく、ダウンタウンの日本食レストランや会場からのシャトル・バスの中でもお会いしたのには少々、びっくりした。

 

Green Hills Software のブースとデロリアンを思わせるクルマ

○ 組込みLINUX陣営

LINUXの組込みシステムへの導入はこの数年間に急速に進展し、ESCでも組込みLINUXは展示会とカンファレンスの双方で重要な地位を占めるようになっていた。  日本の組込みLINUX市場で圧倒的なシェアを確保しているMontaVista社のブースには多くの来場者が訪れていたが、ライバルであるLynux Works社のブースで行われていたプレゼンテーションにも結構な人が集まっていた。北米においても組込みLINUXは着実に浸透していることが実感された。

 

MontaVistaとLynux Works社のブース

○ Mentor Graphicsと TRON Project

ESCの開催期間中、もっとも多くのプレスリリースを配信した出展社は、Mentor Graphicsのアクセラレイテッド・テクノジー事業部だったかもしれない。EISでも、このうち、同社のNucleus開発環境によるXilinx社のPowerPC内蔵FPGA、Virtex-II Proの完全サポートなど、数件を速報している。
Mentor Graphics社のブースで注目されたのが、TRONに関する展示であった。Mentor Graphicsはトロン協会の北米支部事務所の役割も担っており、ESCでも自社ブースの一部をTRONの広報、普及活動のために提供していた。

Mentor Graphicsのブースで紹介されていたTRON PROJECT

Mentor Graphics社は、会期2日目に展示会場そばのホテルで「TRON北米会議」も開催していたので、プレス関係者の資格で参加、聴講させてもらった。

TRON北米会議のサイン

この会議にはTRON協会事務局の方や日本からESCのために現地を訪問していたTRON協会会員企業の方の他、日系半導体企業の米国法人に勤務している技術者など20名以上が参加していた。この会議の企画、進行を務めていたのは、かつてEISの「若手の広場」に登場したこともある、Mentor Graphicsの吉田有理さんだった(当時の記事は、こちら)。現在、吉田さんはMentorの米国本社勤務となってアクセラレイテッド・テクノロジー製品のマーケティングを担当している(若手の広場に吉田さんと共に登場された麦田さんはMentor Graphics Japanでアクセラレイテッド事業部の責任になられている)。
会議では、TRON PROJECTの概要と現状、北米におけるこれまでの普及啓蒙活動についての報告があった後、TRONを今後、北米地区で今後どのように普及させるかについて討議される予定であったが、現地からの参加者(日本人以外)からは、iTRONとT-カーネルの関係、違いなどについての質問が相次ぎ、時間のほとんどがこれらに費やされる結果となった。確かに、我々日本にいる者でもT-Kernel/T-エンジンとiTRONの関係、LinuxとT-Kernelとのライセンス・ルールの違いなどを明確に説明するのは難しい。幸いにも、これらに詳しい日本からの参加者が出席していたこともあり、出された疑問や質問のほとんどクリアされたようだった。TRONやT-エンジンに関する疑問を解消することが、これらの普及を進める上で重要であると考えれば、この会議の目的は達成されたのであろう。TRON 協会やT-エンジン・フォーラムの活動が北米でも理解されるためには、このような会議が定期的に持たれることが重要であろう。個人的には、この会議が来年からESCの正式なカンファレンス・プログラムになるようにし、公式ガイドブックでも紹介されるようにすべきだと感じた。そうすれば、プレス関係者を含めてもっと多くの参加者を集めることが期待できるはずだ。

 

TRON北米会議の様子

○ 日本企業の展示

この展示会には、日本企業も出展していたが、ほとんどは現地法人からの出展で、これから対米進出を目指す日本企業からの出展は少なかった。
まず、大手半導体メーカーの中ではNECと東芝が大きなブースを構えていたが、意外だったのはシャープのブースの大きさだった。シャープはこの展示会に、Sharp Microelectronics of the Americasの名前で出展し、ARM7およびARM9コアをベースにしたLH7A400、LH79500、LH75400シリーズのプロセッサと開発環境を展示していた。相対的に見て、日系企業の展示は無難で問題はないが、ある意味ではインパクトに欠ける印象を持った。たまたま、私が訪れた時間帯が悪かったのか、これら大手半導体企業のブースへの人の入りはいまひとつの感があり、説明員の数が多いのが目立った。

 

東芝とNECのブース

 

SHARPのブース

日本から意欲的な出展をした企業もあった。まず、名古屋のハギワラ・シスコム社は、プロテクト機能付きUSBメモリ、SDメモリカードなどを展示していた。また、広島を本社にするボード・ベンダ、インタフェース社はご覧のような大きな浮世絵が目立つブースでPCIバスなどをベースにした各種のボードを展示していた。

 

ハギワラ・シスコムの皆さん

 

浮世絵が際立つインタフェース社のブース

日本の大手商社、兼松の現地法人のブースに立ち寄ったところ、DSPを搭載したLINUX対応 Multi-Media Processing Platformというボードの展示があった。「あれ、これは?」と思ったら、やはりこの製品は昨年の情報化推進化月間で推進会議議長賞を獲得したダイナミック・ソリューションズ(株)のVince-MPBで、ブースには同社の高橋真人さんもおられた。日本から海外市場への展開を目指す同社の意欲に感激した。

兼松USAのブースでお会いしたダイナミック・ソリューションズの高橋さん(中央)

その他の組込み技術関連の日本企業では、横河ディジタル・コンピュータのICEがYokogawa Corp. of Americaのブースに、ソフィア・システムズのICEは提携先のNohau Corporationのブースに展示されていた。

○ その他の目立った展示

この他、この展示会で目に留まった風景を写真で紹介しよう。
短Turn Around Time(TAT)の ASICを提供するChip-X(旧社名:Chip Express)のブースには、製品の展示の他に半導体チップやパケージを素材にしてサンフランシスコのアーティストが作成したという芸術作品(?)も展示されていた。まさに、アメリカ人の遊び心を見た気がした。また、組込み用サーバーのベンダ、Lantronixのブースには、写真のような人が登場。一体、これが何を表しているのか最後まで理解できなかったが、オレンジ色のXの文字がLantronixのXを示しているだけは確かのようだ。

 

Chip-X社に展示された芸術作品

 

LANTRONIXに現れた謎の人物

FPGAの2大ベンダー、XilinxとAlteraの両社も出展していたが、両社共に控えめな展示だった。Xilinx社のブースには、先に発表されたコンフィギュラブルSoCベンダ、Triscend社を買収したことを示すサイン・ボードが置かれていた。Triscend社はARMコアのライセンスを取得していたため、Xilinxがアルテラと同様にARMコアの使用権を得る可能性が出てきた。

 

XilinxのブースとTriscend買収を示すサイン

私達が3日間お世話になったプレス・センターはXilinx社がスポンサになって提供されたもので、この部屋の壁にはご覧のようにXilinx社のFPGA製品が搭載された火星探査ロボットの巨大な写真が掲示されていた。プレスセンター内にはワイヤレスのインターネット接続サービスが提供されていた。期間中、日本から取材に訪れたメディアの記者の数は少なく、ちょっと寂しさを感じた。

 

Xilinxがスポンサになったプレス・センター

○ 全体の印象とまとめ

以上、今年のEmbedded System Conference in San Franciscoの様子を報告したが、このイベントはElectronica USAの色彩が強くなり、組込み技術以外の製品の展示やカンファレンス・プログラムが増えたために、ESCとしての存在感が少し薄くなっていると感じがした。米国は防衛宇宙、高速ネットワーク通信などの応用分野を中心に今後も組み込みシステムの重要な設計拠点であることは間違いないだろうが、展示品や来場者を見る限り、情報家電、車載ネットワーク、携帯端末やワイヤレス機器の設計開発の拠点はすでに日本を含むアジア市場に移行した感じを強く持った。ESCがElectronicaと合体したことで、カンファレンス・プログラムはEmbedded System Conferenceの他に、Communication Design Conference、Power Electronics Conference、Emerging Technologies Forumと幅広く提供されていた。このため1万4千人程度の総来場者では、各カンファレンス・プログラムへの集客も分散される結果ともなっていた。私の参加したVSIアライアンス主催のパネル・ディスカッションは非常に内容の濃いものだったが、朝一番のプログラムというハンデもあったせいか、聴講者が全員で20名程度と、とても寂しい入りだった。
こうしてみると、横浜で11月に開催されている日本のEmbedded Technology(ET)「組込み総合技術展」は、単独開催の組込み技術イベントとしては、すでに世界最大規模だとも考えられる。このETの運営に携わっている私は責任の重さも感じた。
イベント全体の運営に関しては、見習うべき点や参考になった点が数多くあった。また、毎回、米国の展示会やカンファレンスに参加して感じることは、展示会の入場料やカンファレンスの受講料が高額にも拘わらず、多くの技術者が自ら費用を負担して参加していることには感心する。常に自分自身の能力を高めていないと職を失う可能性がある米国の社会事情がそうさせているのかもしれないが、日本の技術者もこの点は大いに見習うべきかもしれない。会期中、出展社とのミーティング、インタビューなどが多くあったために、関心のあったカンファレンス・プログラムにほとんど参加できなかったことや、各展示ブースをゆっくり見て回る時間がなかったのが非常に心残りだった。
できれば、来年も参加して、さらにこのイベントに対する理解を深めたいと思う。

終わり

 

バックナンバー

>> ESC San Francisco 2004 NO−1

>> EDSF2004, 第11回FPGA/PLDコンファレンス