第3回 山形県の地場企業がET2004に出展/山形県オープンシステム研究会

 第3回目にご登場するのは、山形県内で主に基幹業務系のオープンシステム化に取り組む山形県オープンシステム研究会です。この研究会が、どのような経過で組込み技術総合展(Embedded Technology 2004)に出展することになったのでしょう。


■ なぜET2004に出展したのか?

 山形はITの後進県。平成15年特定サービス実態調査(経済産業省)によると、山形県の特定情報サービス産業の年間売上高は101億円であり全国43位、東北6位。なかでも東北5位の青森の年間売上高194億円の約半分であり、簡単に挽回できるものではない。
 このままではだめだ!
 よその真似ではない地域の特徴を生かした策が打てないか?
 山形には、半導体工場のNEC山形、ノートPC設計のNECパーソナルプロダクツ、画像処理ボードのルネサス北日本セミコンダクタ、有機ELの東北パイ オニアなど大企業が多く立地している。また特徴的な製品で独自の市場を切り開いている小型カメラのワテック、画像処理のアステック、マイクロPCのハイテックシステムなどの元気な企業がいる。それらの企業には、優秀な組込み技術者が居て、山形から製品を生み出し続けているではないか。
  そんなとき、本県出身のある組込み業界関係者から「ET2004に出展してみないか?」と誘いを受けました。どうやら、山形の人は半導体設計とか組み込み機器とかの、縁の下の力持ちタイプが多いんだとか。そういえば「おしん」も山形生まれでしたね、納得。

■ 業界団体の設立

 各県に必ずある社団法人情報サービス産業協会。ところが山形には任意団体である情報サービス産業懇談会しかなかった。頭脳産業の集積とそれによる高付加値型産業の創出を目指しても、そもそも頭脳となる人材がどこにいるのかわからないようでは、かけ声で終わってしまう。
 山形県が音頭をとって、地元企業が団結し、平成15年7月に山形県オープンシステム研究会が設立、ついで平成16年2月に社団法人山形県情報産業協会が 設立された。どちらも事務局を山形県のインキュベーション施設「山形県産業創造支援センター」に置き、日々連携しながら県内IT産業の振興を目的に事業を 行っている。

  情産協には基幹業務系のシステム開発、運用関連の企業が多く集まった。一方の山形県オープンシステム研究会では、ミドルウェアの標準化とその上でのオープンシステム構築を目指しているものの、発足時にひそやかに「組み込み部会」を立ち あげ、これまで交流の無かった双方の技術者が集まり議論する場を作った。思いがけず、双方とも設計の上流工程ではUMLの採用が課題となっており、プロ ジェクトマネジメントできる人材の不足が深刻であることがわかった。また、技術者のスキルレベルを客観的に測定する指標であるITSSへの取り組みと、スルアップのための世界水準の研修コースの地元開催が懸案となっていることもわかった。
 とはいえ、具体的な技術については似て非なるもの、ハードウェアに依存しない業務ロジック中心のプログラミングと、個別のデバイスに依存する力作業の コーディングは、仕事の進め方、管理方法が違うと誰もが思っていた。
 そんなとき世間ではユビキタスネットワーク社会が注目されるようになった。そこでは、大量の専用端末が日用品として消費さ れ、それらによってネットワーク上の巨大データベースシステムが安全、安心の住民向けサービスを提供するようになるとのこと。これからは、基幹業務システム系の実績が少な いことがハンディではなく、むしろ組み込み系のニッチ市場に攻め込んで、ユビキタスネットワーク社会をリードする立場になれば、地方企業でも十分に成長出来るのではないだろうか、そんな戦略を抱いて、ET2004にオープン研として出展しました。

 山形県オープンシステム研究会では、組込み技術を大まかに整理し3段階とした。
  1)ハードウェアロジック
  2)組み込みOS
  3)ミドルウェアと開発環境 Java(J2ME)
 ハードウェアロジックについては半導体設計(SoC)であり、資金力のない中小企業の研究会であるため、当面は対象外とした。
 組み込みOSについてはネットワーク機能が充実しており、多くのデバイスドライバが標準で用意されるLinuxに注目すれば、短時間でプロトタイプに仕上げることができる、オープン研としてこの分野に注力しました。iTRONやTOPPERSを目指して、とにかく目の前で動かしてみることから始めた。
 具体的にはIntel i386互換CPUを登載する、ハイテックシステム製 MicroPC や benibana を使って、フラッシュブートのアプライアンスに仕立てた。試作段階ではコンパクトフラッシュブートでファンレスでさえあれば、ユーザにとって何も違和感なく電源のON/OFF操作だけで使ってもらえることを確認した。これまで、Web接続のメッセージボードや、DVTSマルチキャスト専用装置を提案してきたが、見ただけでわかる単機能が、一番大事な要件でした。
 また、従来のマン・マシン・インターフェースであるキーボード、マウス、CRTに代わって、シリアル接続の十字ボタンと液晶キャラクタ表示を用意することで、それ単独で機能するアプライアンス機器に化けることがわかった。
 ミドルウェアについては、コンポーネント流通の観点でJava(J2ME)に向けた検討をしている。JavaはネットワークOSとの触れ込みで開発がス タートしたものであり、ユビキタスネットワークに最適な言語である。特にICカードのJavaサポートが充実したため、セキュリティ機器はじめ多くの用途開発が期待されている。今後、小ロットの組込み機器で主流になると見て、注力している。

 このように、地域の企業がオープン研という場に集まり、基幹業務系と組み込み系の技術者が試行錯誤しながら、成果を公表する場としてET2004に出展した。どのようなコメントが集まるだろうか楽しみに、批判を浴びたらどうしようか悩みつつ、おそるおそるそっと出展したのです。

■ 思わぬ成果

 ET2004 は普通の展示会と違って、出展者同士の親睦会の趣がある。今回初めて出展したのだが、来場者からの反応も大事だが、それ以上に別ブースの出展者から教えて もらうことが多かった。いづれも、先輩格としてとても適切な助言である。この部分の技術については、ウチでもやっているので使ってみないか、よく使われている、あれは試してみたのかなど。
 このようなコミュニケーションが組み込み系の技術者にはとても重要である。レビューをしないで孤独に開発することが多いので、ムダなことをしていないか、遠回りしていないかの チェックができない。展示会の場で多くの技術者と対話をすることが、技術者にとって一番の、そして何より大事な収穫である。
 また、同じことで悩んでいる技術者に出会えることも思わぬ成果だった。つまらないことでも、本音で話すとみんな悩んでいる、それがわかると急に元気が湧いてくる。もう一度、別の方法でやってみようじゃないか、技術者の自己啓発のきっかけになることが、思わぬ成果でした。

■ 誰でも出展してみたらよい

 出展することで、思いがけない企業との出会いがある、思いがけない提案を受けることがある、これまで予想もしなかった市場を教えてもらうことがある。
 マーケティングを短時間で行うためには、できるだけ大規模の展示会に、胸を借りるつもりで出展してみることだと思う。社員がいくら知恵を絞っても出なかったアイディアが、見知らぬ他人からタダで教えてもらうことがあるのだから。
 営業を置かない、技術開発専門の企業でも出展してみると良い。一年分の受注ができてしまうかもしれない。これまでとは違う、新たな事業分野へ誘ってくれるかもしれない。新たな開発テーマが見つかるかもしれない。
 大学の研究室でも、大学院生でも出展してみると良い。良い研究テーマが見つかるかもしれない。一人で悩む時間が節約できる。また、良き理解者が見つかったならば、開発環境を貸してくれ るかもしれない。良い企業が見つかったならば、そこに就職できるかもしれないし、企業も無駄な投資をしなくて済む。
 誰でも出展してみたらよい、出展することで自分の位置が決まり、本当にすべきことが見つかるかもしれない。

■ 商談とアフターフォロー

今回、会員3社による展示を行った

1)

アステック株式会社

 

画像処理システム・デジタル信号処理システム等の開発向けの、大規模FPGA搭載プロトタイピングボード「IPSP1J」。動画像処理システムのアプリケーション開発キット「MV-SDK」。

2)

タムス・ファームウェアー株式会社

 

各種組込み機器

3)

株式会社ハイテックシステム

 

FANレス、小型ベアボーン「マイクロPC」の新製品「benibana」。ICタグやGPSなどを使った活用例。

 それぞれ専門分野が違うので競合していない。ところが、個別に商談をすすめる中で、出展仲間の企業への紹介が行われるなど、思いがけないシナジー効果があった。

県内企業紹介と機器展示コーナー

1)

ワテック株式会社

 

小型カメラ

 

高感度暗視カメラ

2)

株式会社ルネサス北日本セミコンダクタ

 

Smalight SDKボード(警報、火災報知、空調ほか)

 

センターライン認識デモ

3)

NECパーソナルプロダクツ

 


デジタルスポーツシューティング
X-Scale携帯端末デモ機

4)

東北パイオニア、山形県有機EL研究所

 

有機ELパンフレット、パネル

県内企業紹介と機器展示コーナー

1)

RFIDゲーム

 


キャラクタのジャンプ、変身デモ
カフェテリアでのカロリー計算、料金計算デモ

2)

NTPクロック

 

SHボードでのNTPクライアント(NTP時計)

3)

DVTSディストリビュータ

 

DVカメラの信号をイーサネットにブロードキャスト(動画配信)

■ 山形県オープンシステム研究会

平成15年7月に発足した任意団体。県内 I T企業を会員に、業界をあげてのオープンシステムへの対応方法を検討。特に、Webサービスによる大規模システムの構築について研究。
平成16年9月現在会員数は正会員30社、賛助会員2社。
代表幹事:株式会社山形日情システムズ 代表取締役社長 佐藤邦彦

 ETフェスタでは多くの皆様にお集まり頂き、ありがとうございました。
  山形地酒「純米吟醸DEWA33」
 10年余の年月をかけて品種改良を重ね、山形で生まれた酒造好適米「出羽燦々」。米そのものの名前を冠したこの純米吟醸酒は、その香りとコクを生かしきって作られた極上の味です。このたびは山形県酒造組合からの提供で、10種類の酒蔵の味をご試飲いただきました。山形の清涼な水と米、頑固にこだわった山形人、その心意気が皆様に伝わったでしょうか。

  問い合わせ:

事務局 山形県産業創造支援センター内
023-647-8114
http://osy.aic.pref.yamagata.jp/

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