第3回 権利化はどうするか(1)

本回以降3回にわたって、権利化の為の出願の進め方を説明します。概要のみですが、フローが分かって頂ければ、後に専門書を読まれても、深い理解が得られるはずです。

1)アイデアの把握する
この段階で権利化できるできないが決まるほど、重要です。日本に出願してから外国出願するケースが一般的ですので、それに従って説明します。

(1)保護対象になるのか
まず、権利化したい内容はどのようなものでしょうか。それは物でしょうか、方法でしょうか、あるいはノウハウでしょうか。その内容により保護手段が異なります。これが物や方法など、特許法で保護出来る内容であれば、明細書を添えて、特許出願することになります。
これが、ノウハウであれば秘匿する手段を講じ、管理をします。こうしたアイデアの仕訳が必要です。

(2)特許要件を満たすか
保護したい内容が特許の対象として、次はどう権利化するかです。特許要件をクリアせねばなりませんが、これらは法律で定められています。この部分の解説書は比較的多く、目に触れる機会があるでしょう。ここでは、最近の傾向を捉えて、ちょっと違った表現で、憶えられるように簡単に表示しておきます。特許庁のHPでも最新の審査基準がみられます。
   主な特許要件:
      <1>特許法上の発明であること。
      <2> 産業上の利用可能性があること
      <3> 新しいこと(新規性)
      <4>進歩性があること
      <5>明細書の記載が適切であること
一般に知られているのは<3>、<4>、<5>ですが、敢えて<1>、<2>を加えておきます。これらはビジネスモデル特許のように何が保護される発明なのかといった本質的な発明概念が揺らいでいることが背景にあります。

2)明細書をどう作るか
(1)権利書としての性格
発明の内容が特定できたら,これを如何に明細書に表現するかです。明細書には、権利書的な機能があり、書いた内容しか権利は取れません。後から付け加えることはできません。
従って、明細書には完成された発明が、技術的思想として記載されていなければなりません。発明は実施例ではありません。技術的思想の創作ですから、思想をどのように表現するかによって、保護される範囲に差がでます。ここは、誰か第三者を交えて内容を検討することが賢明です。いわゆるブラッシュアップと言われる活動で、先に述べた何を保護したいかにもつながる重要な検討プロセスです。  

技術知識の豊富な方がいれば、その方との議論で発明内容を見てもらえれば、それに越したことはありませんが、誰かれなしに話すのは危険です。弁理士は出願の代理人として秘守義務を持ち、かつ様々なケースを扱っていますので、そうした発明内容の客観的な把握者として適しています。ただ、弁理士といっても、やはり得意分野があります。自分の事業における技術分野に詳しく、経験もあるといった弁理士を探して、懇意にしておくと良いでしょう。弁理士会のHPには、弁理士の得意とする分野がわかるページがあります。

(2)先願を調査する
権利化をより確実にするために、先願がないかどうか確認することが重要です。また、仮に先願があれば、先願の領域を避けなければ、権利化できないわけですから、先願の内容を調べることが自分の権利範囲を最大にして出願し、特許庁からの拒絶理由通知を避ける最良の方法となります。調査会社のリストが特許庁のHPに掲載されています。
アイデアの内容をちょっと調べたいと言うのであれば,特許庁のHPからリンクが張れている特許電子図書館(IPDL)で出願公開された文献のサーチもでき、先願を調べることができます。無料です。
地方であっても,発明協会に併設されている知的所有権センターに検索指導員がいますので,利用することができます。
特許庁のHPは情報の宝庫です。制度に関するばかりでなく,各種統計資料、技術動向や法改正など知的財産関係の総ての分野にわたって豊富な資料があります。1度HPを訪問してみてください。

(3)従来技術の記載
従来技術(prior art)の不便な点や弱点を克服したことが発明の課題として取り上げ、発明にハイライトが当たる様にして、発明の特徴を説明することになっています。ですから、何をどのように従来技術として採用するかは、明細書全体の説明(ストーリ)にかかわっていており、重要です。審査官は、この従来例と比較しながら、発明の内容を審査していきます。

(4)実施例の記載
明細書には、その技術分野における通常の知識を持つ者が容易に実施できる様に(審査官に理解してもらえる様に)記載すべきことが規定されています。従来の技術との対比で発明を説明する必要がありますから,必ずしも実施例がなければならないわけでは在りませんが,通常は記載されています。
この記載内容はだんだん厳しくなってきています。化学関係の明細書では、追試できるように記載されていないと、実施できない発明として拒絶理由や権利後に無効とされることがあります。

3)出願
(1)電子出願
上記の検討プロセスの最後は、出願処理です。特許庁への出願方法は、電子出願が原則で、紙による出願形態は例外です。回線不良による場合などがあっても,FDで出願となります。回線は、現在のところISDN回線のみです。発明協会からPC出願に関する解説本が市販されています。

(2)出願費用
出願時点では、特許庁に収める特許印紙代等の必要経費としてはおよそ10万円(請求項数に比例するなど内容によって変わる)前後でもできますから、自分で出願すればこの費用で済みます。
弁理士に依頼した場合、支払う報酬は、平成13年1月6日の弁理士法から標準報酬表は廃止、各事務所は自分の報酬額を顧客に示す様になりましたので、各事務所へ問い合わせが必要です。
相場で言えば、20万円〜40万円(枚数など時間に比例部分がある)で、出願には少なくとも40万円〜50万円を用意する必要があります。あなたが会社で出願していも、こうした費用には敏感になってほしいと思います。

4)防衛出願
権利はほしくないが、他人に取られたくないといった防衛的な対応だけでよいとする場合もあります。
発明協会ではこうした人のために、公の財産として誰も権利を取れない様に公知文献として「公開技報」を発行しています。発明協会のHPから公開技報webサービスへ入れます。1枚当たり数千円の費用ですから、出願費用より安くて済みます。

バックナンバー 

>> 第1回 序論

>> 第2回 知的財産の対象


萩本 英二

1973年早稲田大学大学院 理工学研究科修了 同年、日本電気(株)に入社。
集積回路事業部 第二製品技術部 容器班に配属される。
以後、封止樹脂開発、セラミックパッケージ開発、PPGAなどの基板パッケージ開発を経て、1986年スコットランド工場(NECSUK)へ出向、DRAM生産をサポート。
1990年帰任、半導体高密度実装技術本部にてTABなどのコンピュータ事業むけパッケージ開発、BGA、CSP等の 面実装パッケージ開発に従事する。
1998年、半導体特許技術センタへ異動、2000年弁理士登録。
現在、NECエレクトロニクス(株) 知的財産部 勤務
主な著作に「CSP技術のすべて」「CSP技術のすべて(2)」の著作(工業調査会刊)がある。
メールアドレス:hagimoto@flamenco.plala.or.jp