記者会見 NO-3
9月10日 Xilinx Virtex-4 ジャパン・プレス・サミット

FPGAのトップ・ベンダとして確固たる地位を築いたザイリンクス社が、300mmフェハーと90nmプロセスを採用した高集積、高性能FPGA、Virtex-4を紹介する記者会見を都内で開催した。 Virtex-4ファミリの概要についてはすでに6月に発表されているが(6月のプレス・リリース)、今回の記者会見では、その詳細が最近の同社の業績と共に紹介された。
ザイリンクス社はすでに300mmフェハー、90nmプロセスを採用した低価格のFPGA 、Spartan-3を量産中であるが、今回発表したVitex-4はSpartan-3の上位に位置するVirtexファミリの新製品である。

今回の記者会見では、最初にザイリンクス本社のサンディープ・ビジ、ワールド・マーケティング担当副社長が、応用分野の拡大が進展する最近のFPGA市場とザインクス社の業績について説明した。これによれば、ザイリンクス社は2003年にIBM、NECに次いで世界第3位のASIC/FPGAベンダにランクされ、2004年には世界第2位にランクされる見通しだという。ザイリンクスは2001年の通信、半導体不況で売り上げを大幅に減少させたが、デバイスの集積度や性能の向上、価格低減などで、ハイエンドの民生機器などの分野にも浸透することで、売り上げを順調に回復させている。

Virtex-4の特徴は?

記者会見では、Virtex-4ファミリの詳細が、同社のVirtexソリューション・マーケティング・ディレクタ、パー・ホルムバーグ氏によって紹介された。

ビジ副社長

前記のように、Virtex-4ファミリには同社のファンダリ・パートナであるUMC社の300mmウェハー、90nmプロセスが採用され、さらに高性能、高集積、低消費電力化が実現される。ホルムバーグ氏によれば、Virtex-4の性能は既存のFPGAの2倍に相当する500MHzの動作が可能であり、集積度については従来の2倍、消費電力は従来の半分まで低減させたという。90nmプロセスの導入では、リーク電流の増加に伴って、消費電力を低減させることが困難になることが指摘されている。ザイリンクスはこの問題をUMCと共同で開発したトリプル酸化膜技術で解決したという。これによって、130nmプロセスに比較して待機時のスタティック消費電力が約40%、動作時のダイナミック消費電力が約50%まで削減されたという。

Virtex-4ファミリの大きな特徴のひとつは、デバイスに内蔵されるロジック・セル数、RAM容量、ハード・マクロとして集積されるその他の機能などが使用される用途に応じて最適化され、「プラットフォーム」と呼ばれる3種類の異なる製品グループで提供される点である。

ホルムバーグ・ディレクタ

FPGAでは、これまで同一のアーキテクチャ上に搭載されるロジック・セル数やRAMブロック数などの異なる複数のデバイスによって、ひとつの製品ファミリが構成されてきた。 しかし、FPGAの集積度が大幅に向上し、ほぼシステム全体をカバーできる状態になった現在では、使用されるアプリケーションによって、要求されるロジック・セル数、メモリ容量、ハードIPとして搭載される乗算器、エンベデッドプロセッサなどの種類と数、要求されるI/Oの転送レートなどが大きく異なるようになってきた。そこで、ザイリンクスは、今回発表したVirtex-4ファミリを使用用途に応じた3種類の製品グループに分け、ロジック・セル数、RAMブロック数だけでなく、搭載されるハード・マクロのファンクションの種類と数を変更した。Virtex-4は各応用分野の主要顧客、800名以上の設計者に対して実施した次世代FPGAに関する要求調査をベースにして開発されたらしいが、このように製品ファミリを3種類のグループに分けた戦略もこれらの主要顧客からの意見を反映させた結果なのであろう。 このような同一製品ファミリ内で搭載されるハード・マクロの種類や数を変更し、特定のアプリケーションに最適なリソースを提供するアプローチはストラクチャードASICに類似しており、FPGAの集積度がそれだけ向上した証しでもある。

3種類のプラットフォーム

3種類の製品グループは、「プラットフォーム」という名前で区別されている。まず、ロジック主体の用途には、「LXプラットフォーム」と呼ばれる8種類のデバイスが提供される。このうち、もっとも集積度の高いデバイスには、200,448個のロジック・セルと6MBを超えるRAMが搭載され、最大の960本までのI/Oが提供されるが、PowerPCコア、10/100/1000MbpsのイーサネットMAC、高速シリアル・インタフェース用トランシーバなどの機能は搭載されていない。

次に、ディジタル信号処理主体の用途には「SXプラットフォーム」と呼ばれる3種類のデバイスが提供される。この「SXプラットフォーム」には、同社のXtremeDSP Sliceと呼ばれる18×18ビットの乗算器と48ビットの累積器で構成される高速演算ユニットが多数、ハード・マクロとして内蔵されており、もっとも高集積なデバイスには最大で512個まで提供される。PowerPCコアや10/100/1000MbpsのイーサネットMAC、高速シリアル・インタフェース用トランシーバなどの機能は「LXプラットフォーム」と同様に集積れていない。

そして、最近需要が拡大して組込みシステムの用途に用意されるのが、「FXプラットフォーム」と呼ばれる製品である。この「FXプラットフォーム」では、PowerPCコア、10/100/1000MbpsのイーサネットMAC、高速シリアル・インタフェース用トランシーバ(RocketIO)などの機能を内蔵した6種類のデバイスが提供される。このうち、もっとも集積度が高いデバイスには、142,128個のロジック・セルと約10MbのRAMに加えて、2個のPowerPCコア、4個のイーサネットMAC、192個のXtremeDSP Slice、そして最高で11.1Gbpsのレートに対応したシリアルI/Oトランシーバ、RocketIOが24chまで内蔵される。各製品のリソース、提供されるパッケージ・オプションなどは、同社のウェッブ・サイト、http://www.xilinx.com/products/tables/virtex4.htmで確認することができる。

Virtex-4の詳細は、ザイリンクス社が今年の秋に開催するProgrammable World 2004でも紹介、解説される予定である。関東地区では、 11月18日、19日の両日、同社が出展するET2004の会場、パシフィコ横浜のアネックス・ホールで開催される予定となっている。

供給予定と予定価格

今回発表されたVirtex-4ファミリのうち、「LXプラットフォーム」に該当する製品、XC4VLX25(24,182個のロジック・セルと1,296KbのRAMを内蔵)については、すでに出荷が開始されている。このデバイスの量産予定単価は、25,000個購入時で39.99(2005年納入)。また、「SXプラットフォーム」の製品としては、XC4VSX25(128個のXtremeDSP Slice内蔵)が2004年第4四半期から出荷される予定。 「FXプラットフォーム」製品は2005年の第1四半期から出荷が開始される予定である。

サポート・ソフトウェア

これらのVirtex-4デバイスのデザインは、ザイリンクス社の設計開発ツール、ISE 6.3iでサポートされる。このISE 6.3iはすでに入手可能となっており、60日間の限定版、ISE Foundationは同社のウェッブ・サイトから無料でダウンロード可能。(参照:同社のプレスリリース

変革が迫られているFPGAベンダとザイリンクスの対応

ザイリンクスは、今年創立20周年を迎えた。これは、FPGAにはまだ20年の歴史しかないことも意味している。僅か64個のロジック・セル(当時はCLBという名前だった)しか集積されていなかったデバイス(XC2064)からスタートしたFPGAも、20年でVirtex-4のようなシステム全体の機能を集積できるレベルまでに到達した。これと共に、従来はロジック・レベルやファンクション・ブロック・レベルの知識とEDAツールなどに関する専門知識で顧客の要求に対応可能だったFPGAベンダも、顧客の各アプリケーションに対応したかなり高度なシステム・レベルの専門知識と技術サポートが要求されるようになってきた。例えば、組込みシステムのアプリケーションにおいては、内蔵プロセッサに対応した多様なOSのサポートや、高級言語とソフトウェア・ハードウェア協調設計環境、デバッグ環境などについても高度な経験と知識が要求される。PLD、FPGAベンダの多くは、ランダム・ロジックの集積化という目的のデバイスからスタートしたこともあって、こうしたシステム・レベルの高度な技術サポートについては他の半導体メーカーに比較して立ち遅れている感が否めない。さらにFPGAの市場を拡大するためには、各FPGAベンダは主要な応用分野の専門家を社内に抱え込んで、各ユーザに対してターン・キーに近いデザイン・ソリューションや高度な技術サービスを提供する必要に迫れている。すでに組込みシステム用マイクロプロセッサの世界では、プロセッサのアーキテクチャやMIPS値の優劣ではなく、ユーザの求める機能をいかに短時間で実現できるかを競うようになっている。このような市場動向や顧客からの要望に対応すべく、ザイリンクス社は先にディジタル信号処理分野に特化したDSP事業部門の設立、組込みシステム技術に対応したエンベデッドプロセッサ事業部門の設立を発表している。

今回の記者会見の最後には、DSP事業部門の担当副社長兼ジェネラル・マネージャーに就任したオミッド・タヘルニア氏が顔を見せ、新しい事業部に賭ける決意を日本の報道陣に熱く語った。
同氏は、モトローラに長く在籍した経験があり、通信機および半導体事業部で、ページャー、携帯電話のシステムや、これらアプリケーション用チップセットの開発、マネージメントを担当していた。変革が求められているFPGAベンダの中で、新しい事業部門を創設して市場動向や顧客要求に対応しようとしているザイリンクス社の動向と、Virtex-4が市場にどのように受けいれられるかに注目しておきたい。

ザイリンクスはARMコア製品を提供するのか?

タヘルニア副社長

 

記者会見の終了後、この記者会見に来日したXilinx社の幹部達と懇談する機会があり、この春から気になっていた質問をぶつけてみた。それは、ESCサンフランシスコ・リポートでも触れた(リポートはこちら)、ザイリンクスのトライセンド社買収に関連したARMコアの使用権についてである。小生の関心は、ザイリンクス社の買収したトライセンド社がARMコアの使用ライセンスを保有していたことから、ザイリンクスがライバルのアルテラ社と同様にARMコア・ベースのFPGA製品を開発する可能性があるかであった。この質問に対して、ザイリンクスはトライセンド社の買収を通じて組み込みシステムに関する専門的な技術や知識を吸収するが、ARMコア・ベースのFPGAやトライセンド社が提供していたようなフィールド・プログラマブルなエンベデッド・システム用デバイスを新たに開発する計画は当面ないとのことであった。

リポータ EIS編集部 中村

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