第4回 権利化をどうするか(2)

1)中間処理

(1)出願審査請求
出願から登録までの特許庁との応答など様々な処理は中間処理と言われています。しかし、これも出願日から3年以内に審査請求を行わないと、自動的に取り下げたものとみなされ、権利化できません。ですから、原則として出願から原則1年6ケ月(申請により早くすることもできるようになりました)後に出願公開されますから、他人に権利を取らせない防衛目的でしたら、このまま手続きを終らせることができます。この審査請求は出願とは別に10万円程の費用が掛かりますから、費用の削減にもなります。現状では、出願件数の4割から5割が、審査請求されていません。

(2)審査
出願審査請求すると審査に係属します。審査官が新規性、進歩性、先後願などの登録を阻害する拒絶理由を発見したときには、拒絶理由を出願人に通知します。
ここで、出願前に先願調査を行い、先願の有無から請求範囲や詳細な説明に起き得るであろう補正を考慮して記述しておけば、拒絶理由通知に合わせて、比較的容易に請求範囲を補正することができます。
拒絶理由通知が全くないというのは珍しいことで、通常は、誰しも考えるようなレベルで、しかもユニークな何かを持っている方がよいのです。それが先願などの公知文献にあるような部分を避けて、記述されていれば、権利化できる可能性が非常に大きくなります。
通常、2回の拒絶理由通知があり、反論の機会があります。通常60日の期間が指定され、応答しないと拒絶査定となり、権利化はストップします。この期間は長いようですが、案外多忙にまみれてホッタラカシにされ、直前になって慌てて提出することになりかねません。注意しましょう。

(3)特許庁との応答
特許庁との応答でも、自分で出願するとこの処理も自分で行わねばなりません。ここでは、弁理士に依頼した出願案件として、中間処理をどのようにこなすのか、何を話せば良いのかを説明しましょう。

拒絶理由通知に添付された文献の実施例を見て、オレのはこれとは違うという発明者もいます。実施例は具体化された例であって、比較すべきは実施例でなく,技術的思想の内容です。拒絶理由は各請求項毎に理由が書いてありますので、その理由と挙げた項を読み比べると、審査官がどこを通しても良い、どこはダメというのが分かってきます。多くの反論類例があり、全部を示すことはできません。比較的多い拒絶理由を示すます。

* 文献Aと文献Bとの内容から容易に実施できる(29条2項違反)。
このAもBも同じ分野の技術として文献が存在すれば、尤もな話なのですが,違った分野の技術を持ってきてそうだと言われても、そうした組み合わせをする必然性が欠けていれば、反論できます。
これもコロンブスの卵のように、結果を知ってしまったことによる後知恵の要素があるので、反論できるわけです。
発明に近い技術がありながら、ずばり該当する資料がないというのは良い状態です。頑張りましょう。
先願調査などから、どの会社が興味を持って事業化を考えているかおぼろげながら、分かるはずです。ですから、この発明を誰かが実施していそうなことが分かっているなら、事業化できる可能性が非常に大きいのですから,なお更頑張るべきでしょう。

* 文献に記載がある(29条1項違反)
なかなかずばりはないのですが、中には大当たりがあります。ずばりの資料がでたら、その部分を捨てて、他の部分を生かせないか考えねばなりません。出願を分割したり、範囲を狭く(減縮)したりすることができます。その結果、実施内容とは著しく異なる請求範囲となってしまうのであれば、権利化をあきらめざるを得ない場合もでます。出願前に十分調査できなかった訳ですから,先願のサーチ能力に問題があると言えます。電子DBを駆使して行う調査ですから、キーワード検索などの実効性を技術者と共に再検討すべきです。
上記のような拒絶理由を回避するために,弁理士のような専門家に事業の状況を説明し、適切な処置を取ることをお薦めします。

* 記載不備
明細書の記載が所定の内容になっていないとする拒絶理由があります。昨年改正された明細書の従来技術の記載義務などの明細書の質を上げる動きがありますが、それと連動する様に,こうした記載不備を理由にする拒絶理由が増えています。これも、書いてあることを書き直して明瞭にするだけならまだしも、新規に追加しないと行けないとなると厳しいものがあります。これらも第4回で説明した様に、出願前に十分注意して従来例を選ぶことしかありません。

(4) 登録
反論して、無事特許査定がでると登録され広報に掲載されますが、それは仮であり、異議申し立てがあって異議理由があると判断されれば、登録は取り消されます。
ここで、異議が第三者から出たということは、その第三者はその権利内容に利害を持っているはずですから、登録されたときには、その第三者の事業を見てみると良いでしょう。このように、異議を出すことは自分の実施や関心を表明することになりますから、慎重に行うことが必要です。
平成8年年末以前は、出願公告という制度があり、仮保護の権利を認めて公告し、異議申し立てを認め、それで異議理由のない場合に、登録となりましたが、平成8年8月1日以降から異議申し立てが登録後になりました。最近では、審査が早くなり、公開までの1年6ヶ月前にこうした判断が出る可能性が出てきました。こうなると、公知資料としての出願書類が公開されず、先願の地位が認められらない場合が生じます。
ここに、審査手続きのフローを表示しておきます。

2)権利の維持

知的財産は、資産ですから経済原則が支配するのは当然です。ですから、知的財産権は、将来の収入を担保する金の卵ですが、費用対効果を考え、いったん権利化した後でも、活用できないとわかった段階で年金支払いを停止することが必要です。平成10年6月1日前の出願では特許料が累進構造となっていて、登録後10年を過ぎると年金額が上昇するので、それでも維持していたいというのであれば、その内容は支払う、あるいは支払った金額を充たしてあまるほどの内容であるべきということです。
年金の額は、特許庁のHPに掲載されていますので、是非費用対効果を再考する機会として特許料をチェックして見てください。
このように、どのような権利を維持し、どのような権利を放棄(特許料を納付しない)するか。それは、権利者である会社の事業環境によります。常に資産価値を事業戦略に合わせて最大化するように行動するべきです。

バックナンバー 

>> 第1回 序論

>> 第2回 知的財産の対象

>> 第3回 権利化はどうするか(1)


萩本 英二

1973年早稲田大学大学院 理工学研究科修了 同年、日本電気(株)に入社。
集積回路事業部 第二製品技術部 容器班に配属される。
以後、封止樹脂開発、セラミックパッケージ開発、PPGAなどの基板パッケージ開発を経て、1986年スコットランド工場(NECSUK)へ出向、DRAM生産をサポート。
1990年帰任、半導体高密度実装技術本部にてTABなどのコンピュータ事業むけパッケージ開発、BGA、CSP等の 面実装パッケージ開発に従事する。
1998年、半導体特許技術センタへ異動、2000年弁理士登録。
現在、NECエレクトロニクス(株) 知的財産部 勤務
主な著作に「CSP技術のすべて」「CSP技術のすべて(2)」の著作(工業調査会刊)がある。
メールアドレス:hagimoto@flamenco.plala.or.jp