イベント・リポート NO-11
ALTERA PLD WORLD 2004
10月29日 東京国際フォーラム

リポータ : EIS編集部 中村

日本のプログラマブル・ロジック市場に大きな影響力を維持しているアルテラ社が開催したプライベート・ショー、「ALTERA PLD WORLD 2004」の東京会場を訪問してきた。

 

会場の受付風景

 

プレゼンテーションに
聴き入る聴衆

会場では、アルテラが今年、90nm/300mmウェハーを採用して開発したFPGAの新製品、Stratix IIとCyclone II、CPLDの新製品であるMAX II、そして最新の開発ツールの展示とデモ、そして多くの応用技術セミナなどが行われ、終日、多くの参加者で賑わっていた。
このPLD WORLDも今年で第11回目の開催になるとのことだが、小生はこの第1回目が池袋のサンシャイン・シティで開かれたことを、今でも鮮明に記憶している。その後、アルテラ社は日本市場で確固たる地位を確保し、今年からこのイベントを関西でも開催するまでになった。思えば、この10年間で、同社のプログラマブル・ロジック製品と市場は大きな変貌を遂げた。今回のALTERA PLD WORLDを見ても、この10年間の大きな変化が感じられた。

Tエンジンの坂村教授が登場

まず、大きな変化のひとつは、今年のゲスト講演にTRONプロジェクト/Tエンジン・プロジェクトのリーダーである、東京大学の坂村健教授が登場したことだ。これまで、このイベントには多くのゲスト・スピーカーが登場したが、これまでOSの分野からの人物は全く記憶になく、坂村先生が初めてであろう。毎週のように多くのイベントの基調講演などに登場する坂村先生だが、このALTERA PLD WORLDでも多くの聴衆を集めたようだ。坂村先生がこのイベントに登場した背景には、アルテラが今年9月にT-エンジン・フォーラムに加入したことが考えられる(詳細はこちら)。10年前は、まだMAX 5000/7000、FLEX 8000のような単純なロジック機能を集積化した製品のみを供給していたアルテラも、その後、ソフトコア・プロセッサのNiosやARMコア・プロセッサ内蔵のデバイスを持つようになり、これまで全く無縁だったOSやソフトウェア開発環境のベンダとの関わりも避けられなくなってしまった。アルテラがT-エンジン・フォーラムに加入した理由には、T-エンジンの拡張ボードにFPGAが搭載されることもあるが、日本のユーザーからNios IIプロセッサでT-カーネルもサポートする要求を受けているためであろう。

出展パートナー企業の顔ぶれにも変化が

このイベントにはアルテラのデバイスをサポートしている製品を供給しているパートナー企業も数多く出展しているが、私にはこの10年の間にその顔ぶれも大きく変化したように感じた。このイベントの初期の頃、出展していたパートナー企業は合成ツールやシミュレータなどを提供するシノプシス、ケイデンス、メンター・グラフィックス社のEDAベンダ、データアイオー社のようなPLDプログラマのサプライヤが中心だったように記憶している。
その後、デバイスの高集積化の進展と共に複雑な回路ブロックをIPとして提供するベンダが出展社に加わるようになり、さらに最近ではソフト・コアのNiosやハード・コアのARMプロセッサの内蔵に伴って、これらのプロセッサをサポートしているOSベンダやICEベンダも顔を揃えるようになった。さらには、デバイスの高速化、パッケージのBGA化が進むにつれて、計測器、ICソケット、試作用のボードを供給するパートナー企業の数も大幅に増えたような気がする。今年のALTERA PLD WORLDには多彩なパートナー企業が参加していた(東京会場の出展社は、こちら)。
例えば、古くから合成ツールやシミュレータでアルテラのデバイスをサポートしているメンター・グラフィックス社のブースでは最新のEDAツールに加えて、同社の組込みシステム事業部、アクセラレイテッド・テクノロジーが提供するiTRON V4.0に準拠したリアル・タイムOS、Nucleusにもかなりの展示スペースが割れていた。

 

RTOS Nucleusも展示したメンター・グラフィックスのブース

ITRON 4.0準拠のRTOSでいえば、イーソル社が出展し、Nios IIをサポートしている、PrKERNEL v4を展示、デモしていたのが目をひいた。また、ミスポ社もNORTiを展示していた。

 

イーソル社のPrKERNELのデモ

ボード・ベンダとしては、このイベントの直前に10BASE-T/100BASE-TXインタフェースを内蔵したCycloneデバイス(EP1C20)ベースの組込みシステム試作開発用ボード、CX-LANを発表したプライム・システムズ社が出展していたのが目に留まった。

 

 

プライム・システムズのCX-LANボード

エリック・グレイグ上席副社長の記者会見
90nmプロセスで、ライバルより先行していることを強調

このイベントでは、アルテラの米国本社のマーケティング担当上席副社長、エリック・クレイグ氏が日本法人の日隈社長と共に記者会見を行った。クレイグ上席副社長はアルテラの創業時からのメンバーであり、日本のユーザーでも顔馴染みの人は多いだろう。クレイグ副社長は、「最近のディジタル家電に代表されるように、エレクトロニクス製品のモデル・チェンジの期間、言い換えればライフサイクル(製品寿命)は年々、短縮されており、従来のようなデザインと製造のターン・アラウンド・タイム(TAT)が長く、リスクも高いASICによるデザインでは対応できなくなっている。」と述べ、「NRE(初期開発費)を必要せず、デザインの変更にも柔軟に対応できるFPGAが、ますます重要になっている。」と、ASICに比較したFPGAの優位性を強調した。また、アルテラの最先端プロセスを採用したFPGAの高性能/高集積化と、FPGAからのシームレスな移行によって低価格化を実現できるHardCopyストラクチャードASICの実績とロードマップを示した。

この中で、出席した記者達の注目を集めたデータが示された。それは、最先端の90nm/130nmプロセスのデバイスでは、アルテラがライバルのザイリンクスよりも圧倒的に高い約7割のシェアを確保しているというものだった。90年代半ばには業界でトップシェアを誇っていたアルテラ社は日本市場で大健闘しているものの、ここ数年間の全世界市場での売上高ではザイリンクに後れをとっており、先の2004年7−9月期でもザイリンクス社の売上、403Mドルに対して、アルテラの売上は264.4Mドルと少し水をあけられていた。このため、クレイグ副社長が示したデータは、出席した記者達にとって少し意外だったようだ。クレイグ副社長よれば、アルテラはファンドリ・パートナーであるTSMC社との密接な連携により、90nmプロセスの量産化にスムーズに移行することができたため、ライバルのザイリンクスよりも最先端プロセス製品で優位に立っているとのことであった。私が知る限り、ザイリンクスには130nmプロセスで量産している製品がない。したがって、クレイグ副社長が示した130nm/90nmプロセス品ではアルテラが70%のシェアというのは、正確なデータなのかもしれない。(私としては、90nm単独でのデータを見たかったのだが・・・)

 

 

記者からの質問に真剣に聴き入るクレイグ副社長と日本法人の日隈社長

来年のFPGA市場は?

上記の記者会見で私は来年のFPGA市場の見通しについてクレイグ副社長に質問してみた。私がこのような質問したのは、最近のFPGAベンダの業績に陰りが見えているからだ。FPGAの市場は2000年にいったんピークに達した後、2001年の通信不況によって大幅に落ち込んだものの、その後は順調に回復傾向を辿ってきた。ところが、この2004年7−9月期の売上を見ると、アルテラのザイリンクスの両社共に昨年同期比で25%以上の成長を記録したものの、前四半期(2004年4−6月期)に比較すると、僅かながら売上が減少に転じていたからだ。私の質問に対してクレイグ副社長は「確かに半導体市場はいわば調整フェーズに入っており、FPGA市場もその傾向にある。ただし、2005年に2001年ような大幅な落ち込みになることはないだろう。FPGA市場全体では、2005年に2000年の市場規模まで回復する可能性がある。」と比較的、楽観的な見解を示した。
いずれにせよ、FPGAの市場では、ザイリンクスとアルテラの両社が今後もライバル関係を維持することは間違いなく、これに新しいFPGAを発表したラティス・セミコンダクター社、ストラクチャードASICで攻勢をかけるNEC、富士通、LSIロジックなどを巻き込んだ世界規模での戦いがしばらく続きそうだ。日本のPLD/FPGA市場でトップシェアを維持しているアルテラ社にとって、日本市場はこの戦いで非常に重要な位置を占めることになるだろう。
残念ながら今回のALTERA PLD WORLDに参加できなかった方は、同社が 出展する11月18日から開催のEmbedded Technology 2004 に行けば、 アルテラ社の最新製品を把握することが可能だ。(詳細はこちら) 同社は会期中、ワークショップ・セミナも実施する予定である。 また、このレポートで紹介したアルテラのパートナー企業の多くも出展しており、 アルテラのデバイスに対する最新のサポート状況を知ることもできる。
追記:上記の記者会見に登場したエリック・クレイグ氏は、最近のアルテラ社の組織変更に伴って退社した模様。詳細は同社の発表で確認ください。

 

バックナンバー

>> ESEC 2004

>> ESC San Francisco 2004 NO−2

>> ESC San Francisco 2004 NO−1

>> EDSF2004, 第11回FPGA/PLDコンファレンス

>> Semicon Japan 2003