第5回 権利化をどうするか(3) |
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1)外国出願したい時には |
現在の体制では、国毎に特許権が発生しますから、当事国に出願しないと権利は発生しません(特許独立の原則)。ですから、外国出願したい時には、該当する外国へ出願することになります。どの外国に出願するかは、一般的には、発明が実施される国はどこかを考えて、どの国に出願するか決めることになります。権利化した後に権利侵害がおきやすい国に出願するという言い方もあります。 |
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2)外国出願の枠組み |
(1)パリ条約ルート
ほぼ1世紀を経た条約で、めぼしい国はほとんど加盟しており、オードドックスな外国出願ルートです。これは最初の出願(例えば日本で出願)を基礎として、相手当事国(例えば米国)に出願する形態で、翻訳などに要する期間(優先期間)を猶予して、新規性等の判断基準時を最初に出願した日(よく第一国出願日と言い慣わされています。)とする扱い(優先権を主張すると言います)をするものです。その優先期間は1年です。
出願内容も、例えば一出願で出願できる発明の範囲の違いなど各国法制の違いを認め、日本で出願(最初の出願)した内容と実質的に同一であれば足りますから、一出願に限定されず、相手国の法制に合わせて他の出願とまとめて一出願としたり、分割することもできます。日本では、これらをやりやすくするために、国内優先制度があり、改良発明を行って場合に利用することができます。
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(2)PCT (特許協力条約 ;Patent Cooperation Treaty)ルート
任意の加盟国に国際出願をし、その後相手当事国へ手続きを移行する手順を踏むことにしたのが、PCTに基づく出願です。出願書式が厳格な分たいへんですが、1年以内に日本語で、国際出願書類を作成し、日本に国際出願することができます。国内移行手続き期間は、国際出願の日から1年8ヶ月ですが、近い将来、2年6ヶ月となる予定(相手国の法改正段階による)です。この長い移行期間を利用して出願可否の判断を行い、費用の掛かる翻訳をやらずに済めば費用発生を抑えることができます。また、国際調査報告を入手して、その結果、補正ができますし、その後の選択可能な予備審査報告書を入手して、登録の可能性も判断することもできますし、補正もできます。昔は多数国(5カ国以上)に出願する場合には有利といわれてきましたが、昨今では、技術革新のスピードが速いので、相手国に対する事業戦略を決め難くなってきています。多数国出願の場合に限らず、相手当事国への出願の是非(陳腐化したら出願しない、流行ってきたら、権利化を急ぐ)に対する自由度が見直されてきており、PCTルートの利用が増えています。 |
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これら、PCTに関する様々な資料は、国際的な知的財産の行政的協力を確保する為に設けられた世界知的所有権機関WIPO
(World Intellectual Property Organization) のHPにあります。PCTでも、指定のソフトで電子出願すると料金が割引される制度があります。 |
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また、これらの2つの出願ルートでは、地域出願ルートを選択することも出来ます。例えば、欧州の一つの国でなく、欧州全域を対象とした欧州特許を取ることも可能です。国毎に書式を整える必要も、翻訳を当事国にあわせる必要がないなどの費用を抑えることが出来ます。
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3)依頼先 |
自分で行ってよいのは当然ですが、相手当事国の法制を調べたり、どのルートが自分にとって有利か検討するのは大変です。それにあわせた書式や有利な書き方に対する知識のある外国出願を扱う特許事務所に依頼することが賢明です。事業の状況を説明し、権利化したい内容と活用したい態様を示せば、弁理士があなたにふさわしい出願ルートを選択してくれます。費用が割高になるのは、翻訳費用の他に日本と相手当事国の両方の事務所への支払いが生じるからです。 |
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4)米国出願 |
(1)特許制度の概略
比較的使われるケースが多いと思われる、米国出願を取り上げてみましょう。米国では、最初の出願を米国にしないと、権利が認められません。日本ではそうした制約はありません。第2回でも説明しましたが、米国は先発明主義を採用する唯一の国です。誰が先発明かを特定する必要がありますが、米国審査におけるインタフェアレンスという手続きがそれです。勿論、多くのケースはほとんど発明した日でなく、出願日で先願を認めて登録しても大丈夫なのですが、こうした発明日を争うこともあるのです。ですから米国では研究者にラボ・ノートをつけてもらい、先発明の証拠にすることが行われています。
出願人は、原則として発明者に限られます。企業が特許権者となるためには、出願時に発明者からの譲渡書を示し、記録されることが条件となります。これで、以後の通知は譲受人たる企業に対してなされます。
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(2)特徴的な制度内容
<1>均等論
米国には均等論(Theory of Equivalent)という考え方があります。これは、実質的に機能・方法が同じで、実質的に同じ結果を生じる技術にも権利が及ぶ(均等とみなす)というものです。
この考え方は、基本的発明の権利者には非常に有利に作用します。基本発明をした段階では、その応用について十分な認識がない場合が多く、それらが権利範囲に含まれないとすると非常に不利になるからです。
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<2>継続審査制度
また米国では、継続出願制度(2000年5月29日以降は継続審査制度)という独特の制度があり、出願日を維持しながら、出願内容を次々に変更していけるのです。一部継続出願では、最初に出願した内容に新たに付け加えることが出来るというのですから、世の中の技術動向をみて内容を変更していくことができます。これも基本的な発明をした者に有利に作用します。公開制度不採用とこの継続出願制度が組み合わさると、とんでもなく古い発明が衣替えして登場してくることがあります。いわゆるサブマリーン特許です。
最近の法改正で、外国出願したものに限って公開され、また権利は出願から20年と歯止めがかかりましたが、依然として国内出願では登録まで公開されず、サブマリーン特許の脅威は存続します。 |
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DRAMにおけるランバスというベンチャ会社の特許は、最初は1つの出願でしたが、分割、分割で権利行使がしやすいように明細書内容を変えてきています。こうしたことは、出願当初から例えば、実施例を異なった分野の違った例をたくさん記述しておくなど、予めもくろんでおかないとできないことですので、如何に出願前の活動が重要か分かると思います。 |
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<3>ベストモード
発明の説明では、この発明がベストモードであり、他の方法と比較してこの方法が一番よかったという論理構成が必要です。したがって、明細書には、ベストウエイが書いてあるか、他の方法は考えたか、その方法を開示しているかといったチェックが必要です。
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<4>情報開示陳述書
米国の特許制度には、特許出願とは別に、情報開示陳述書(SDI)の提出義務があります。これは、自分の知っている情報は総べて提出せよと言うものです。これが十分でないと、権利行使で不利益を蒙ったり、権利が無効になることもあります。 |
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なお、このSDIの提出などを含め、USPTOとの応答に関して、日本で言う中間処理では、出願人の意を受けて、日本における代理人が米国代理人と協議して内容を決める場合が多くありますが、自信があれば、米国代理人と直接連絡を取ることもできます。 |
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(3)料金
基本料金は、$750で、3個以内の独立請求項、20以内の請求項であれば、これで済みます。米国には、Small
Entityという優遇制度があります。個人発明家、500人未満の小さな会社には料金(出願料、維持料)を1/2とするというものです。大学など非営利団体も同様です。 |
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5)東アジア諸国の法制 |
台湾、韓国は日本法を、香港、シンガポール、マレーシア、シンガポールはイギリス法を、フィリピンは米国法を母法としているように、法律体系について基になる考え方がわかると比較的容易に理解が進みます。
東南アジアの国々では、審査官などの人的リソースが不足しており、シンガポールでは、審査官不足で、審査を外国に委託しているなど各国のお国事情があります。韓国、台湾、中国については、もう少し、詳しく説明しましょう。 |
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韓国; 特許法、実用新案法として施行されており、最近は頻繁に法改正しています。先願主義、公開制度があり、特許権は出願日から20年です。審判では、権利範囲確認審判や通常実施権許与審判などの日本にない制度もあります。公告制度は97年に廃止され、登録後に異議申立を認めています。審判を行う特許審判院の上部に特許法院があり、その上に大法院となって審決取消訴訟を支えています。 |
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台湾; 専利法として、特許、実用新案、意匠が含まれ、1994年から施行されています。パリ条約に未加盟ですが、日本との間で優先権を相互承認しています。また、PCTには加盟しています。法制は、出願審査請求制度、公開制度はなく、公告制度とそれに伴う異議義申立制度があります。かっての日本の特許制度に似ています。権利侵害では、刑事裁判進行中に付帯民事裁判を同じ証拠で起こすことができ、損害賠償では、2倍賠償が認められているのがユニークです。 |
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中国; 専利法として、特許、実用新案、意匠が含まれ、1993年に施行されています。パリ条約、PCTにも加盟しており、最近WTOにも加盟しました。海外窓口の国家知的財産局を中心に、地方に上海市知識産権管理局などといった管理局があります。中国では日本と同じような特許要件、公開制度、審判制度(復審委員会)があり、権利期間は、発明特許で、出願日から20年、実用新案で10年です。裁判制度は日本とちょっと趣が違います。三権分立とはいかず、裁判官は、行政執行官です。侵害救済では、裁判所以外に、地方議会がメンバーを選出する(中級)人民法院による特許管理機関があり、訴えを提起できます。 |
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第1回 序論 |
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>> 第2回 知的財産の対象
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>> 第3回 権利化はどうするか(1) |
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>> 第4回 権利化はどうするか(2) |
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