第7回 組込みは現場を知って実現はシンプルに、これがコツ

今回の「SESSAMEの愉快な仲間たち」は、NECソフトウェア北陸の西川 幸延さんです。 
西川さんは、北陸の金沢で活躍されている方で、SESSAME関係では、ETロボコンの技術委員として活動しています。今回はETロボコンの話を中心にお話をお聞きしたいと思います。 

渡辺

西川さん、よろしくお願いします。

西川

よろしくお願いします。今回は、SESSAMEゼラチンブラザーズ(*)のお披露目会ですか?(笑)。
* SESSAMEにおける"ちょっと"太めの人達

渡辺

西川さんと言えば、北陸とETロボコンってイメージがありますが、これまでのキャリアとしてどのような業務を担当してきたのですか?

西川

入社以来ずっと、NECのメインフレーム/ハイエンドサーバ関連の組込みソフト/制御ソフトの開発を担当してきました。最近は、NECのハイエンドサーバのサービスプロセッサの組込みソフト開発を担当しています。
サービスプロセッサとは、サーバの運転制御/電源制御/保守制御を行うものです。
具体的に言うと、サーバ立上げ時に、サーバの各ユニットの電源を投入/HW的な初期設定を行って、ソフトが立ち上がれる環境を作るとか、あるいは、サーバ運用中にHW故障が発生した場合に、サーバHWから障害情報(ログといいます)を収集/解析して、故障部位を特定し、迅速に修理するための手助けをする、といったことを行っています。

 

パソコンの世界のBIOSに相当するものと言えば、少しはわかりやすいでしょうか。もちろん、パソコンのBIOSに比べれば、たいへん多機能、かつ、複雑な制御を行っています。また、ある意味、サーバの心臓部とも言えるものですので、たいへん高い信頼性を求められます。サービスプロセッサの不具合で、サーバ本体が立ち上がらないとか、システムダウンしたなんてことになったら、お話にならないですからね。品質には、十分に気を使って開発しています。

渡辺

なるほど。NECソフトウェアさんと聞くと、ITサービスをイメージしますが。

西川

はい、弊社NECソフトウェア北陸はITサービスの方が有名ですが、実は組込みソフト事業もやっています。私自身は今までお話した業務を担当していますが、弊社全体では、携帯電話、レーザープリンタ、ストレージ装置等の組込みソフト開発も行っています。また、組込みソフト開発環境の提案/構築を行っている部隊や、HWの評価・検証ツールを開発している部隊、電気系CADツールを開発している部隊もいます。組込み系では、かなり手広く事業を行っていますので、もし何か案件があれば、声をかけていただけるとありがたいですね(笑)。

渡辺

昨年、開催されたUMLロボコン(現ETロボコン)では、タイムトライアルで優勝されましたよね。戦略と勝因などを教えてください。

西川

これは、私のプロマネの勝利、つまり、私がコードを書かなかったことが勝因でしょう(笑)。
という冗談はさておき、弊社のムンムンチームは、昨年のUMLロボコンが初めてのチャレンジでした。チャレンジにあたり、まず、ロボコンで使う走行体、パスファインダーの走行特性を徹底的に調査しました。カーブを転倒せずに曲がるにはどれくらいまでスピードを出せるのか、とか、首振りの角度/スピードをどの程度にすると安定走行するのか、といったことです。
やはり、組込みソフト開発では、制御対象の詳細をまず把握しておくことが重要ですから。その上で、できる限りシンプルな走法を追求しました。詳細な内容は、企業秘密なので話せません(笑)。勝因はやはり、走行特性の調査実験を繰返し行ったこと、シンプルな走法戦略をとったことの2点に尽きると思います。

   

渡辺

ところでモデリング部門では?

西川

惨敗でした。まぁ、実務経験は長いものの、UMLモデリングは初めての経験でしたから。そこで、今年は、モデリングにも力を入れることにしました。
私自身は今年、ETロボコン技術委員になったので、ムンムンチームの活動に直接関与しなかったのですが、今年のムンムンチームには、速く走れる理由をUMLでわかりやすく表現するというテーマで活動してもらいました。
その結果、今年は、入賞にまでは至らなかったものの、最終審査にまで残ることができ、成果を上げることができたと思っています。タイムトライアルでは、リタイアという結果になり、とっても残念でしたが...。

渡辺

7/2,3に開催されたETロボコンでも、モデルの良さと速さに相関がありませんでしたね。この辺りについて、ムンムンメンバではなく、技術委員としての見解は?

西川

私自身は、今回こそ、「良いモデルは速い」という命題が実証されると期待していました。しかし、その期待は今回もみごとに裏切られました。
個人的には、その要因として、会場の環境が影響したと考えています。今年の会場は少し明るすぎました。光センサーからの入力のみで制御するETロボコンの走行体には、高いハードルだったと思っています。もう少し、厚い雲が出てくれて、会場が暗かったなら、違う結果になったのではないかと...。
とは言え、完走したチームが3割あったわけで、これをポジティブに考えれば、今回のような厳しい環境でも確実に走行させるにはどうすればよいか、という新たな課題が見えてきたとも言えます。今後、ETロボコンに参加する方には、ぜひ、そのあたりにもチャレンジしてほしいと思いますね。
それから、11月のETロボコン・チャンピオンシップ大会は、照明的にはかなり良い環境の会場で行う予定です。この大会こそ、「良いモデルは速い」が実証されるのではないかと期待しています。ETロボコン・チャンピオンシップ大会には、ぜひ多くの方に観戦に来ていただきたいですね。

 

また、今年、新たに追加したオフロードについて、参加者から、チャレンジするメリットが少ないという声を聞きました。少し弁明させてもらうと、従来コースを大きく変更しないという制約の中で、インコースにショートカットを作ろうとすると、あの場所しかなかったわけで、技術委員としても苦渋の決断でした。
そんな中で、オフロード攻略のために、Two Weeksチームの「バック走法」のようなユニークなアイディアが出てきたのは、たいへん嬉しかったですね。これだけでも、今年、オフロードを追加した甲斐があったと思います。
あとから考えれば、オフロードを攻略できた場合に、タイム減算等の何らかの特典を与えればよかったと思っています。11月のETロボコン・チャンピオンシップ大会では、この点について改善する方向で検討しています。チャンピオンシップ大会では、果敢に攻めてほしいですね。
ETロボコン・チャンピオンシップ大会は、ET2005で開催されます。

渡辺

NECソフトウェア北陸では、ETロボコンを新人教育に組み込んで実施しているそうですね? 私も自分の会社に提案したいと思いますので、概要と効果など教えてくれませんか?

西川

これは、昨年、ロボコンにチャレンジした経験から、LEGOライントレースロボットの組込みソフト開発が新人教育に適していると考え、弊社の新人教育担当に提案したのが発端です。

実際には、新人教育の中のシステム開発演習の題材に、LEGOライントレースロボットの組込みソフト開発を採用しています。新人さんには、3名程度のチームに別れてもらい、プロジェクト計画立案から、機能設計、詳細設計、プログラミング、テストまでの一連の工程を独力でやってもらいます。システム開発演習なので、プロジェクト計画書や機能仕様書といったドキュメントもしっかりと作成してもらい、指導員によるレビューも行います。こうして、システム開発を実際に体験してもらい、実業務に必要なスキルを修得してもらうことを狙いとしています。

 

また、システム開発演習の最後に、成果発表会として、社内ロボコン大会を開催します。この社内ロボコン大会の企画/運営も新人さんに行ってもらっており、この点も弊社の新人教育の特徴と言えます。このイベントの企画/運営を通して、作業項目の洗い出しやと進捗管理、関係者との調整のためのコミュニケーションといった、プロジェクト管理に必要なスキルを修得させる狙いもあります。

LEGOライントレースロボットの組込みソフト開発は、新人さんには適当な技術レベル/開発量だと思います。プログラムの良し悪しが、ロボットの実際の動きとして見えるという点も、プログラミング初心者には適していると思います。
演習終了後に、新人さんにアンケートをとったところ、理解度/満足度とも、たいへん高い結果となりました。新人さんが興味を持って課題に取組み、しかも、効果があったと言えます。

このように、弊社内ではたいへん評判が良く、また、教育効果も高いものですので、ぜひ、渡辺さんの会社でも、提案してみてください。

渡辺

なるほど、社内ロボコンで開発以外のスキル習得っていいですねぇ〜。提案の価値はありそうですので、検討してみます。

最後に、今後の組込みソフト業界やエンジニアに一言お願いします。

西川

私からは、「組込みエンジニアよ、社外へ飛び出そう!」と申し上げたいですね。組込みエンジニアは、自社内に閉じこもって開発をする傾向が強いのではないでしょうか。
私自身も、数年前までは、自社内だけが全ての世界でした。しかし、ETやSWEST、ETロボコンといったイベントに参加したり、あるいは、SESSAMEの活動に参加したりして、社外の方々と交流することにより、いろいろと刺激を受け、自身の成長にもつながったと思っています。業務の都合等もあるとは思いますが、ぜひ、社外へ飛び出す機会を作り、世界を広げてほしいと思います。

世界を広げるという意味で、おすすめのセミナーがあるので、紹介したいと思います。それは、オブジェクト倶楽部さんが主催している「オブジェクト指向実践者の集い」というセミナーです。
オブジェクト指向と銘打っていますが、最近は、開発プロセスやプロジェクト管理といった分野にもフォーカスを当てた内容となっています。組込み系のセミナーはソフト開発の技術寄りの話題が多いのですが、違った切り口でソフト開発を考えるという意味で、有益なセミナーだと思います。
これまでは、組込み技術者の参加が少なかったのですが、今後は、組込み技術者にも多く参加してほしいと思います。ちなみに、次回は12月に開催されると聞いています。
この他にもイベントはいろいろあるので、興味を持ったイベントに参加してほしいですね。もちろん、SESSAMEの活動にも、もっと多くの方に参加してほしいと思います。

渡辺

オブジェクト倶楽部さんの次回セミナーはクリスマスイベントですね。ずいぶんと先の話と思いますが、気がつけば年末だったりしますからね。是非とも参加してみたいイベントですね。年末が楽しみです。

インタビューは以上です。ありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね。

バックナンバー

>> 第1回 2004年は"組込み元年"。皆さん一緒に盛り上がりましょう!!

>> 第2回 文献ポインタ集に魅せられて

>> 第3回 未踏ソフトウェア創造事業とベンチャー育成と。

>> 第4回 テストでワクワク。陽気で前向きなテスト屋

>> 特別編 渡辺のぼるの夏日記 2004.

>> 第5回 仙人、SESSAMEセミナーの地方巡業を語る。

>> 特別編: 『組込み 秋・冬レポート』 2004-2005


渡辺 登

1986年、沖通信システム(株)に入社。キャリア向け交換システムなどの組込みソフトウェア開発に従事。
SESSAMEでは、組込みソフトのスキル標準作成に関する草案作成とモデレータを担当。
この流れから、経済産業省の"組込みソフトウェア開発力強化推進委員会"に参画。
自称: 『Mr.ETSS』(レベル2)
特技はサッカー。しかし、プレー中に左膝前十字靭帯の切断により現役生活に幕を降ろしている。
メールアドレス:noboru2000gt@yahoo.co.jp