第10回 商標・商号、意匠 |
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1)商標・商号の守るものはなにか。 |
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商号は、商法の規定する範疇で、知財権の範疇ではないですが、その本質はおなじであり、ビジネスにおける、商標・商号に化体された信用です。 |
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インタネットを使った新たなビジネスがさかんですが、人々が知らない組織が信用を得るためには、ブランド力は必要です。また、サービスの具体的手段として、カードやシステムの名称などは、いわゆるサービスマークとして、他社のサービスと差異をつけるため、他人が同じような名称を使えないように登録を考えても良い場合があります。商標に関しても、特許庁企画、発明協会発行の「工業所有権標準テキスト(商標編)」があります。
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2)商標の出願 |
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1997年4月に商標制度は大きく変わりました。従来は、一つの出願で1区分内の商品や役務(サービス)しか指定できなかったのが、現在では、費用はあまり変わらず、多区分にわたる商品を指定して出願できる様になりました。また、立体商標の導入、 連合商標の廃止や公告制度の廃止など多肢にわたっています。滞貨の弊害が指摘されていましたが、最近は出願から登録まで8ケ月程度と聞いており、早期審査で3ケ月程度も出現していて、従前の2年程度に比較して大幅な改善が図られています。 |
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なお、商標の出願も平成12年から電子化されつつあり、現在既に3/4がPC経由の処理となっているそうです。 |
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(1)商標の見本と商品区分 |
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商標の見本はラベルのような実際に使用する形態であるものがもっともよいとされます。普通の文字などで商標として識別力がないとき、文字と図の組み合わせで出すと、登録される可能性が高まります。しかし、商標の使用については文字と図とをばらばらに使用すると商標の使用には該当しなくなりますので、使い方には注意が必要です。 |
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(2)類似概念 |
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商標が類似していると、消費者はお店や商品を間違える(出所の混同)ので、「看板ないしのれん」としては困ったことになりますから、類似と認められると登録できません。しかし、混同が起きるのは似たような商品や売り場で起こることから、商品を区分して登録を認めています。しかし、区分外でも類似群という混同を起こすと考えられる分野があり、類似はそこまで判断されます。類似には、外観や称呼、観念(イメージ)による判断が採用されています。この類似概念と共に、商品区分も時代と共に変わっていきます。先に改正された(ニース協定における商品区分)商品区分は、日本独自の分類から国際分類へ移行することになりました。 |
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(3)出願に当たっての指定 |
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商品と商品区分を指定して出願しますが、出願後の商標見本の補正はほとんど認められていません。改めるなら指定商品のみです。そして、重要な案件は、一出願一区分で出願するか、必ず使用する範囲の商品区分で出願した方が安全で早く登録になります。 |
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(4)先願調査 |
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沢山の商標登録がなされており、他人の権利を侵害しないためにも、出願には調査が必要です。大事な商標は、拒絶された案件も登録の可能性をチェックする為には有効です。まずは、誰でも特許庁のJPDLにはアクセスできますから、商標候補検索して分類確認したり、類似する区分もみてみて登録の可能性を検討することができます。図形検索にはJPDLが効果的です。その他、「Brandy」、「Intermark」、「PATRIS」といった民間のDBがあります。調査は、国内にとどまらず、海外を含めて考えければならないので、やはり商標に強い弁理士に調査を含めて依頼することが賢明です。 |
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3)登録商標の管理 |
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(1) フリーライド(只のり)、普通名詞化 |
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ブランドが有名になれば、そのブランドにあやかって商売をしようとする者が現れがちです。また、イメージの希釈化もおきます。次第に皆が使うのですが、それが普通名詞と化して、特定の会社の登録商標と認識されなくなるのです。いわば、あるものの代名詞として使われ始めたら、注意した方が良いのです。警告を発して使用を止めてもらうことです。ちょっと古い例ですが、味の素が化学調味料の代名詞として使われることを防止したのはそういう理由です。そうした普通名詞化の事例は今でも続いています。 |
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(2)更新登録 |
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商標はビジネスがある限り、使いつづけるのが普通ですから、権利は更新できないとおかしいです。独占するのは、消費者の出所の混同を防止するためです。期限は、10年ですが、更新続けて何年でも登録可能です。 |
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4)商標権の譲渡 |
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仮に、他人の商標が自分の仕事に差し支えるので、無効にしたいとして、無効審判を起こしたとしたら、その費用はおよそ100万円以上といわれています。時間も掛かります。それなら、商標権を譲渡してもらう手があり、譲渡の方が安い場合が有ります。したがって、こうした商標権の譲渡が比較的行われています。 |
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5)商標権の侵害 |
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商標権の侵害をめぐって様々な裁判が起こされていますが、概ね何らかの関係がある例が多く、権利の帰属を巡る争いに見えます。ところが、台湾中国では、単純なフリーライドが横行しています。 |
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JETRO北京センターが2001年12月にまとめた模倣被害実態アンケートによると、中国での被害で商標権の被害が51%、意匠権が33%となって、特許権の8%に比較して群を抜いています。昨年と比較して悪化傾向と指摘する割合は50%にも上り、まだまだ当局の取り締まりが甘いことを指摘しています。WTOに加盟したとはいえ、地方保護色の強い傾向は残るでしょう。こうした被害に欧米企業は「金を厭わず断固として取り締まる」強い態度で望み、億単位の金をつぎ込んで対策を講じていますが、日本では、1億円以上の対策費を投じているのはわずか4%で、費用対効果で見ているようです。自己の存在を脅かすと取る欧米企業と商売の一環と捉える日本企業とではブランドに対する信任が違ってきても不思議はありません。 |
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6)商標制度における使用主義と登録主義 |
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商標制度では、使用主義と登録主義があることは、前に説明しました。日本は、登録主義ですから、先願があると不正競業の意図なくても使用できなくなります。 |
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しかし、諸外国では、(先)使用主義で、混同がメインに判断されます。これは商標の守るべき本質が、使用されて、その結果商標に化体された信用だからです。ですから商標は使われてこそ価値があるのですから、使用が前提というのもわかります。しかし、登録に至るまでの間に他人が使用して宣伝してくると使えなくなる可能性が生じますから、安心してビジネスができません。また一方で、登録主義では、使われない登録商標が大量に発生します。どちらも一長一短がありますので、どちらが良いとは言えませんが、使用主義の方が大勢となりつつあります。 |
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7)意匠権 |
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(1)意匠権の守るべきものは何か |
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「意匠」とは、意匠法第2条の定義に、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいう」とあります。物に化体されたデザインを扱い、いわゆる工業デザインであって、著作権の対象になるような純粋美術品を含まないと言えます。 |
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工業所有権の中で、意匠権があまりぱっとしないのは、その権利対象が産業の発達や保護奨励との関連性が薄いことが挙げられます。しかも、類似範囲は狭く、したがって権利内容はあまり広いとは言えません。 |
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しかし、新開発したものが技術的にあまり特徴がなく、特許権ではカバーできないとき、例えば、デザインに特徴があれば、意匠権を考慮することは有効です。特殊車両のデザインで使い勝手により、部品の位置関係の特徴がデザイン上で確認できたので登録され、侵害で有効に戦えた事例があります。このように、仮に特許出願で拒絶されても、意匠権で自己の技術を護ることができます。 |
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平成11年1月1日から部分意匠なる制度が導入されました。部品として単体でなくとも、部分であってもそこにデザイン上の特徴が見出されれば登録されます。例えば、携帯電話のボタンの配置、アンテナの位置、自動車の部分デザインなどが挙げられます。 |
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(2) 審査 |
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審査の考え方としては、外観として大きな特徴の在る「要部」を把握して、それを中心に類似を見るのですが、発明や実用新案と異なり、デザインとして感性に依存する部分が大きいのはやむをえないのでしょう。また、特許や実用新案からみると、類似範囲の幅が狭く感じられます。先願、後願もこうした類似概念がなければ判断できないわけですから、審査はいきおい似たような外観を取り上げ比較して、判断することになります。また、意匠は物品に化体された美的外観ですから、物品の成り立ちで構成され、物品が異なると非類似とされる特徴があります。純粋なデザインでは物品に特化していない場合もあり、ここは、意匠権の範囲外ということになります。この場合は、著作権で保護されることになるのですが、実務上は、不正競争防止法を併用して戦うことが有効でしょう。 |
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出願に当たって、先願例を調査することも必要ですが、構成要素として周知であっても、使われ方、組み合わせ方に特徴があれば、それも可ですから、登録される確率は高いでしょう。ですから、意匠の構成要素に分解して考えてみて、それを元に戻して、全体で視覚に訴えるものとして特徴があり、権利行使の場面を想定できれば、出願してみることは有効です。 |
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意匠の審判では、拒絶理由そのままで、拒絶査定になる案件が8割ありますが、それが審判にいって、5、6割が通ると言われています。美的外観の判断が難しいことが分かります。ですから、簡単にあきらめないで、権利化の路を探ることも必要でしょう。 |
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(3)意匠の公開制度 |
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意匠制度では、権利化以前の公開制度は採用されていません。むしろ、公開によって真似されることを防ぐために、登録しても3年以内の期間、公開されない秘密意匠制度があるくらいです。したがって、登録となったかどうかは、意匠公報を見る必要があります。ですから、同じ知的創造物として特許の様に公開の代償としての権利付与の考え方が成立しません。しかし、産業の保護奨励の法趣旨には適うので、同じ知的財産とされています。知的財産と言っても、なかなか一筋縄では行かないことがお分かりでしょうか。 |
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(4)権利期間 |
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登録の日から15年です。意匠権の対象は、流行の物品が多いといわれています。しかし、中には定番として同じ意匠で売られ続ける商品もあり、一概には言えません。同じような性格を持つ著作権はベルヌ条約によれば、死後50年の存続期間がありますから、この15年は妥当といわれています。ですから、仮に意匠から物品に係わらぬデザインを抽出でき、著作権としておくと、厚く保護を受けることができます。 |
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バックナンバー |
>> 第1回 序論 |
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>> 第2回 知的財産の対象 |
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>> 第3回 権利化はどうするか(1) |
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>> 第4回 権利化はどうするか(2) |
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>> 第5回 権利化をどうするか(3) |
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>> 第6回 発明者の権利と実施権等 |
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>> 第7回 知的財産権の活用 |
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>> 第8回 裁判制度と仲裁等 |
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>> 第9回 新しい分野の知的財産権 |
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2003.07.01寄稿 |
知的財産制度の光と影
(携帯の表示特許に寄せて) |
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