横田英史の読書コーナー(2001年版)

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2001.12.30●「グローバル・メディア産業の未来図」,小林雅一,光文社,\700,p.227
 かつて日経エレクトロニクスの記者で,いまは米国でフリー・ジャーナリストをしている小林雅一の書。IT Proでも週刊でコラムを依頼していた。私の知る限り3冊目の本だが,一番の出来だろう。インターネット時代におけるメディア(新聞,雑誌,テレビ,映画など)の現状と在り方を,技術とからめて紹介している。米国のメディア,特に新聞の裏幕に関してはコンパクトに上手くまとまっている。米国のマスコミについて関心のない方には薦められないが,少しでも興味のある方にとっては一読の価値はある。

2001.12.29●「東電OL症候群」,佐野眞一,新潮社,\1600,p.374
 東京電力のエリートOLの殺人事件を追いつづけている筆者の「東電OL殺人事件」の続編。前編は殺人事件の内容,東電OLの抱えた“闇”,殺人罪に問われたネパール人に焦点を当てていたが,本書は裁判の経過,読者の声,日本の裁判の問題といった周辺情報が多い。特に東電OLの生き方に共感を持つ読者からの声に突き動かされた面が強い。若干,牽強付会の見方が多く辟易させられるところもあるが,それだけ思い入れが強い本だともいえる。

2001.12.25●「盲導犬クエールの一生」,写真・秋元良平,文・石黒謙吾,文芸春秋,\1429,p.150
 ラブラドール・レトリバー「クエール」の生涯を写真と文章で綴った本。週刊文春に「今年一番泣ける本」とあったが,ちょっと誇大広告。ただし写真が素晴らしいのは確か。犬が実にかわいい。コンパニオン・アニマルという言葉の意味がよくわかる。

2001.12.21●「The New New Thing」,Michael Lewis,W.W.Norton & Company,$23.95,p.236
 ウォール・ストリートの若者たちの実態を描いたLiar's Pokerの作者であるMichael Lewisの新作。そこそこ面白い。インターネットやモバイル・コンピューティングの社会に及ぼす影響に言及している。デジタル・デバイド,ネット・ベンチャーを支えたベンチャー・キャピタルの実態についても少しだが触れている。少年がインターネットに流した企業情報で,株価が大きく動いた事件に関する部分は読み応えがある。聴取したSECの係官など,周囲がいかにインターネットの無知だったかを余すところなく伝えている。PtoPのソフトウエアとして知られるNapsterやGnuttelaに関する章も設けているが,いまいちピンとこなかった(集中して読めなかったかもせいもある)。

2001.12.10●「佐藤一齋『住職心得箇条』を読む」,安岡正篤,致知出版社,\800,p.96
 小泉首相が田中外務大臣に読むように薦めたことで有名になった本。かつてのベストセラーである伊藤肇「人間的魅力の研究」の種本ともなっている。Amazon.comの発注したが,入手に2週間ほどかかった。最近は書店でも見かけるようになったが,本の帯にはきっちり,前述の話題が書き込まれている。内容は江戸時代の学者である佐藤一齋が説いた,幹部として持つべき心得。それほど特異なことが書いてあるわけではない。当たり前のことを,当たり前に書いている。すごく短い本で,あっというまに読める。

2001.12.09●「カリスマたちは上機嫌---日本を変える13人の起業家」,梅沢正邦,東洋経済新報社,\1500,p.214
 週刊東洋経済に掲載の記事をまとめた本。ユニクロの柳井,ドコモの大星,マネックス証券の松本,ソニーの大賀,イトーヨーカ堂の鈴木,任天堂の宮本,京セラの稲盛と錚々たるメンツが並ぶ。中身も読み応えがある。

2001.12.05●「ニュースの職人」,鳥越俊太郎,PHP,\660,p.217
 元サンデー毎日編集長で,いまはTVキャスターの鳥越俊太郎が,ジャーナリストとしての半生を綴った書。毎日新聞時代のエピソード,サンデー毎日時代,TVキャスターとしての経験を振り返っている。同業として,いろいろ教えられるところも多い。ニュースの仕事に必要な三つの「観」として,「人間観」「歴史観」「比較文化観」」を挙げているところは同感だ。本書で取り上げている「ニュースとは何か」の言葉は重い。「権力側の発想でリポートをしてもそれはニュースではない。それは広報,宣伝であり,世論操作の一翼をになうだけである。歩道とは,うろつき回って詮索することであり,けっして優雅な活動ではない」と。

2001.12.01●「審査せず」,伊野上裕伸,文芸春秋,\1714,p304
 損保会社の内幕を描いた書。損保の話は面白いが,小説としては三流。

2001.11.24●「狂牛病」,中村靖彦,岩波書店,\700,p.226
 いま話題の狂牛病。ジャーナリストの立場から,発生から拡大までの経緯を追ったレポートが本書である。狂牛病発祥の地であるイギリスの農村まで訪ねたルポも含まれている。読みやすく,コンパクトにまとまっている。狂牛病をざっと知るには最適な書だろう。必要以上に騒ぎ立てるのではなく,落ち着いたトーンで通しているのも好感が持てる。欧州にある動物福祉(animal walfare)という考え方が紹介されており,興味ぶかい。

2001.11.22●「太平記の時代」,新田一郎,講談社,\2200,p.352
 「歴史を面白くないものにするのは,こういう本があるから」と思わせるような出来の本。歴史とは,十分にドラマチックだと思うのだが,“学術的”となるとここまでツマラナクなるのだろうか。ほとんど読んでもらおうという意欲が感じられない本である。こういう本を書く人は,何が目的で書いているのだろうと悩んでしまう。悲しいものがある。

2001.11.19●「ルネッサンス」,カルロス・ゴーン,ダイヤモンド社,\1840,p.270
 日本の会社でも世界(欧米)の基準で経営すれば大黒字になることを日産で身をもって示した,話題のカルロス・ゴーンの自伝。多くのことを考えさせてくれる。ジャック・ウエルチもそうなのだが,言っていることは実にシンプルで,まあ当たり前のこと。その当たり前を,信念を持って着実に実行できるところが偉いということだろう。本書では,「試練を恐れない」「危機的状況に対応できる」「仕事の緊張感を求める」という姿勢がよく出ている。「アマチュアは問題を複雑にし,プロは明晰さと簡潔さを求める」という言葉にもうなずかざるを得ない。本書の中に,「危機的状況にも良い面がある。人々がベストの力を発揮するということだ」とある。いまの日本は十分に危機的状況だが,人々が力を発揮できるような動機付けができるリーダ不在が何とも情けない。痛みを伴う決断を下すときの心構えを説く部分など,ぐっとくるものがある。

2001.11.14●「トヨタ生産方式」,大野耐一,ダイヤモンド社,\1400,p.232
 ジャック・ウエルチのGEのお手本となったトヨタの生産方式を説いた本。トヨタ生産方式の生みの親,育ての親といえる大野耐一氏の手になる書である。初版は1978年。最近の「ザ・ゴール」や「ジャック・ウエルチ」のブームに乗って,再び書店に並びだした。初版は古いが,中身はいまでも十分に通用する。それだけ当たり前のことを説いているのだが,トヨタ以外はほとんど実践できていないというところが,また凄い。買って損はない本である。

2001.11.10●「東大生はバカになったか」,立花隆,文芸春秋,\1714,p.348
 東大で教官を務めた大学生の教養のなさを嘆く書。文芸春秋で発表した記事などをまとめたもの。少々くどくて,最後まで読むのにはちょっと苦労する。ただ,教育レベルの低下は由々しき事態である。危機的状態は大学生よりも,いまの小学生だろう。円周率を3.14ではなく,3とするのは一体どうした料簡なのなのだろう。ほとんど理解を超えている。本書でも触れているように,バカを量産するこの国の教育制度はあまりにも重篤な病に罹っている。日本の未来は暗澹たるものだ。

2001.11.9●「jack」,Jack Welch,John A. Byrne,Warner Business Books,$29.95,p.479
 すでに日経新聞から訳書が出ている,ジャック・ウエルチの自伝。ちょっと前には,日経の私の履歴書にも登場していた。古色蒼然たるGEを建て直し,超優良企業に育てたウエルチの人となりが良く出ている。その奮闘振りが出ているし,裏話も結構出ていて楽しめる。お薦めの本である。英語もとてもプレーンなので読みやすい。ただ何せ500ページ近くの書(日経の訳書も上下2巻の構成)なので,読み通すには少々時間がかかる。その点,日経の私の履歴書はよくまとまっていた。

2001.10.19●「死の病原体 プリオン」,リチャード・ローズ,草思社,\1900,p.280
 例の狂牛病騒動で,再び脚光を浴びた書。書店でもうずたかく積まれている。話題便乗型の書には懐疑的になるが,本書はきわめて真面目に書かれている。歴史的経緯やイギリスでのドタバタ(日本と大差ない)など,興味ぶかい内容となっている。ただし1997年の本なので,最新の情報は欠けているかもしれないが,新聞に出ているような内容はほぼカバーしている(最近になって発見されたような内容はないようだが・・・・)。

2001.10.15●「フォーカス スクープの裏側」,フォーカス編集部編,新潮社,\1100,p.253
 休刊になったフォーカスの歴史をたどった書。写真と当時の文書,解説という構成になっている。田中角栄の法廷写真,日航機御巣鷹山墜落,酒鬼薔薇事件,桶川ストーカー事件など,記憶に残る事件をたどっている。

推薦! 2001.10.9●「テロリズム」,ブルース・ホフマン,原書房,\1800,p.280
 例の米国同時多発テロの前の1999年に発行された書。話題ねらいの本とは一線を画す。実によくできた学術書に近い内容である。読んで損はない。

2001.10.2●「タリバン」,アハメド・ラシッド,講談社,\2800,p.415
 タリバンのついて書かれた本としてはピカ一といわれている。初版は2000年。例の同時テロの絡みでかなり売れているようだ。確かに出来はよい。タリバンを知る上では,是非押さえたい本である。

2001.9.20●「軍事革命(RMA)」,中村好寿,中央公論新社,\660,p.175
 8月半ばに出版された本。副題は,『<情報>が戦争を変える』。本書を紹介する帯には,「相手を消耗させる戦いから,麻痺させる戦いへ」とある。米国の同時多発テロの前だが,今思えば示唆に富んだ内容が多く含まれている。基本的には情報戦に関する本なのだが,妙に感心されられる本である。テロとNimdaワームに重ねあわせて考えると,心胆が寒くなってしまう。なんだか大変な世の中になったものだ。

2001.9.18●「暗号解読」,サイモン・シン,新曜社,\2600,p.493
 書評欄でも多く取り上げられている本。500ページ近い本だが,なかなか唸らせる内容でスラスラ読める(最後の量子コンピュータの話は少々辛いかもしれないが)。暗号に関する話題を歴史を振り返りながら,綴っている。暗号に関する挿話は実に興味ぶかい。暗号の仕組みを説明するのは容易ではないが,著者は実にわかりやすく記述している。その能力には感服する。仕組みが理解できなくても,挿話を読んでいるだけでも楽しい。難点は分厚いので,持ち運びが大変なことである。ノート・パソコンと本書をかばんに入れて持ち運ぶと,肩が痛くなってしまう。

2001.9.11●「ファストフードが世界を食いつぶす」,エリック・シュローサー,草思社,\1600,\381
 デフレの帝王とも言えるファスト・フードの裏側を扱った書。ファスト・フード産業の成り立ちから,そのビジネス構造を支える仕組みを解き明かしている。端的に言えば,法律ぎりぎり,あるいは逸脱しているからこそファスト・フード産業が成り立っているということだ。ファスト・フード産業だけではなく,米国の暗部を抉り出している実に面白い読ませる本である。

2001.9.5●「井深さんの夢を叶えてあげた」,木原信敏,経済界,\1333,p.237
 まさに古きよき時代。日本が元気で技術者が幸せだった時代を,幸せなエンジニアが綴った書。著者はソニーで技術開発を率いてきた木原信敏(現・ソニー木原研究所会長)である。ソニー社員第一号として入社した木原が,ともに歩いた井深や盛田とのかかわりを書いている。少々自慢話が多いのが鼻につくが,中身は面白い。特に井深の発する言葉の良さは,ぐっと来るものがある。本書で出色なのは特にVTR戦争でベータがVHSに負けたことに対するコメント。短いがかなり強烈。悔しさがにじみ出ている。

推薦!2001.8.31●「iモード 神話と真実」,山村恭平,角田一美,成甲書房,\1600,p.274
 ちょっとキワモノかな?といった感じの装丁の本だが,中身はなかなか面白い。ディープなiモード文化の在り方が描かれている。iモード・メールをアクセスすると,自動的に警察にかかってしまう「110番事件」を中心に,パソコン文化とは全く異なるiモード文化の実態を解説している。はっきり言って,iモードの使われ方をまったく理解していなかったことが,よく理解できた。ごく普通のエンジニア(たとえばNTTドコモ)がiモードに関する企画を行っても,的外れになるのは仕方がないことが納得できる。iモードについて知りたい方にはお奨めの本である(ディープに使いこなしている人には,当たり前のことかもしれない)。それにしても,こんな機能があり,こんな使われ方をしているのか・・・。メジャーなマスコミからは全く窺い知れない世界である。

2001.8.29●「機密費」,歳川隆雄,集英社,\660,p.206
 話題の機密費に関して,歴史や使われ方,今回の外務官僚による詐欺事件について綴っている。最近の話は新聞などで詳しいが,設立経緯の話や政界裏話は知らなかったことも多く実に興味ぶかい。ただ,機密費以外の政局について長々と書いているところは不要。機密費だけでは,ページ数が足りなかったということか。

2001.8.27●「シスコの真実」,ジェフリー・S・ヤング,日経BP社,\1900,p.398
 タイトルに引かれて購入した本。原題は「Cisco Unautholized」。著者はあえてシスコ“公認本”となる提案を蹴って,出版したという本。ただし,たいした暴露はない。インテルの内幕を描いた「Inside Intel」に比べると衝撃度は小さい。カリスマに祭り上げられたチェンバース会長の話はそこそこ面白い。ただ,シスコをめぐる周辺情報が多すぎて,「シスコの真実」というタイトルと乖離している(あまり知られていない業界だけに仕方がない面もある)。もう一つの問題は読みづらいこと。話が単調な上に,字がギッシリ詰まっていて息苦しい感じだ。

2001.8.24●「トヨタ式人間力」,若松義人,近藤哲夫,ダイヤモンド社,\1500,p.197
 トヨタ式経営や生産方式を礼賛した本。妙に自信満々である。この手の本の割りに,意外にいやらしさが感じられない。本書で述べているのはごく当たり前のことなのだが,それを当たり前のこととして実行するのはいかにも難しい。それにしても本書に登場するトヨタの経営者の言葉は実にいい。これだけでも読む価値にある本かもしれない。

推薦!2001.8.20●「検証 経済迷走」,西野智彦,岩波書店,\1800,p.259
 面白い本である。いつまで経っても「失われた」ままの経済迷走を,みごとに描いている。実に出来のいい本。橋本政権下における1998年の銀行への公的資金投入,財政改革路線の転換,長銀・日債銀の破綻などのノンフィクションである政財官のキーマンのインタビュー(一部は匿名)を現場を動きを生々しく描き出している。。経済破綻や経済迷走関係の本は実に多いが,本書は参考になる1冊である。

2001.8.13●「プロジェクトX リーダーたちの言葉」,今井彰,文芸春秋,\1238,p.221
 おじさんたちを泣かせるTV番組としていま話題のプロジェクトX。この番組のチーフ・プロデューサーが,登場人物の“言葉”をまとめた書。17人の言葉が収められている。収録されているのは,「青函トンネル」「ホンダCVCC」「富士山レーダー」「ソニー」「黒四ダム」「ロータリーエンジン」「YS-11」などなど。ただプロジェクトXといえば,登場する普通の人たちの顔の素晴らしさ。確かに珠玉の言葉は胸を打つものがあるが,映像がないと迫力に欠けるのは否めない。

2001.8.10●「ZERO(上)」,麻生幾,\1800,幻冬舎,p.399,「ZERO(下)」,麻生幾,\1800,幻冬舎,p.493
 ノンフィクション作家で警察/自衛隊モノに強い麻生幾の小説。2段組みで,800ページを超える大作。「宣戦布告(上)(下)」に続く2作目の小説である。宣戦布告は非常の出来がよかったが,今回はいまいち。警察や自衛隊に関する書き込みはさすがだが,ストーリがあまりに非現実的で少々しらける部分が少なくない。パソコン関連の記述にもあらが目立つ。ちなみにZEROとは公安警察の頂点に位置する組織を指す。週刊文春では,大々的に取り扱っていたが,小説の形態よりもノンフィクションでZEROの実態を描いたほうが迫力があったように思う。

2001.8.1●「IT汚染」,吉田文和,岩波書店,\740,p.198
 『ハイテク汚染』(岩波新書)の続編。半導体工場が生む環境汚染を中心に,パソコンや携帯電話の環境問題についても触れている。少々偏った記述も見受けられるが,常識として知っていて損はない内容を含んでいる。

2001.7.29●「代議士秘書」,飯島勲,講談社,\695,p.285
 小泉純一郎の政策担当秘書が書いた永田町の舞台裏。書評にも何度か扱われた。副題に「永田町,笑っちゃうけどホントの話」とある。実に見事に内容を言い表している。本来は,1995年出版とかなり古い本(かつてのタイトルは「永田町の掟」)だが,小泉人気ににって復活となった。なかなか面白い本である。「政治家やめます。」のなかでも永田町の不可思議が書かれていたが,若干隔靴足痒の感があった。本書は,一歩踏み込んで永田町のバカバカしさが描かれている。西川潔への評価や叙勲の話など,裏話が多く楽しめる。

2001.7.26●「不揃いの木を組む」,小川三夫,草思社,\1500,p.213
 あの有名な宮大工・西岡常一の弟子である小川棟梁の口述筆記で構成した書。永六輔の「職人」(岩波書店)にも通じる,含蓄のある教育論に仕上がっている。「器用はダメだ」「ばか丁寧は丁寧ではない」など独自の教育論,人間論が展開されている。プロジェクトXに登場する人物が,みな「いい顔」(“お顔”という表現がピッタリだが)なのと同じように,古きよき日本を体現している。

2001.7.23●「子どもという価値」,柏木恵子,中央公論新社,\840,p.236
 少子化の原因を女性の心理から社会学的に論じた本。けっこう説得力をもって迫ってくる。あたりまえの統計や論考も多いが,「へ〜」という調査や分析も出ていて結構楽しめる。子どもの父親に対する調査など,唸らされる(反省させられる)ものもある。凄く面白い本ではないが,読んで損はない書である。

2001.7.19●「日本の歴史 09巻:頼朝の天下草創」,講談社,\2200,p.386
 鎌倉幕府ともなると,けっこう身近になってくる。大河ドラマのおかげもあって,見聞きした名前も多く引き込まれる。源氏と北条氏の権力争いなど,ドラマチックに書き込まれている。歴史もこうなると俄然面白くなる。

2001.7.11●「裁かれる家族」,佐木隆三,東京書籍,\1600,p.271
 読むと心が沈んでしまう本。オウム真理教,新潟女性監禁事件,佐賀のバスジャック,下関駅通り魔事件,宮崎勤事件,連続保険金殺人事件などなど。新聞紙上をにぎわせた事件の裁判を傍聴した著者が書いた感想文といった感じだ。3部構成だが,1章は時事通信の「世界週報」(子どもの頃,親父が買っていたのを記憶しているが,まだあったんだ!)のコラムを集めたもの。ちょっと物足りない。後半部は,子殺しの佐賀・長崎連続保険金殺人事件と佐賀バスジャック事件を中心になっている。特に,佐賀・長崎連続保険金殺人事件を読むと,愚かさのあまり暗〜い気持ちになってしまう。ただ繰り返しがあったり,全般に文章として整理されていない感じが強い。ちなみに副題は「断たれた絆を法廷でみつめて」とあるが,期待してはいけない。

2001.7.9●「政治家やめます。」,小林照幸,毎日新聞社,\1700,p.389
 親の地盤を継ぐために,いやいや代議士になった久野統一郎(自民党)の出馬から引退までを追ったノンフィクション。新聞の書評欄でも取り上げられたと記憶する。政治家に向かないと自認する久野が,徐々に永田町の論理に染まっていく様子がよく描かれている。通常の人間の論理感・倫理観・道徳観では,政治家は務まらないというのがよく分かる。この国の政治家の在り方や政治の異常性を理解するうえで,格好の一冊である。

2001.7.6●「ぼくたちは銀行を作った。」,十時裕樹,集英社インターナショナル,\900,p.143
 ソニー銀行立ち上げまでを,当事者がメール・マガジンで語ったものをまとめた。副題は「ソニー銀行インサイド・ストーリー」。軽い読み物に仕上がっており,まさにメール・マガジンの文章といった感がある。このところ取り上げられることに多い,元・山一證券でソニーに派遣?で入社した石井社長との出会い,ソニー役員との関わりなどが,軽いノリで書かれている。ちょっといい話も随所に盛り込まれていて,楽しめる。でも,こんなことが出来るのはやっぱりソニーなんだな,と妙に納得させられる本でもある。ちなみにページ数も少ないし,文字もデッカイので,あっという間に読める(30分もあれば十分)。

2001.7.4●「日本政治 再生の条件」,山口二郎編,岩波書店,\700,p.228
 岩波臭さはあるが,非常によくまとまった日本の政治の現状を解説した書。石原伸晃,辻本清美,枝野幸男,北川正泰といった面々へのインタビューは興味深い。いわゆる永田町村とは全く違う論理体系が生まれているのがよく分かる。ただ頼もしくもあるが,これが政治の本流になれるのか疑問もわく。傑作なのが金子勝慶応義塾大学教授の竹中平蔵への痛烈な批判。ここだけでも読む価値があるかもしれない。同じ慶応の先生なのだが・・・

2001.7.3●「天の釘」,鈴木笑子,晩聾社,\2800,p.380
 昔懐かしい漫画「釘師サブやん」をご存知だろうか。そのサブやんに出てくる「正村ゲージ」を編み出した正村竹一の伝記。ゲージとは,パチンコに打たれた釘の配列のこと。土曜日の夜のTV番組「本パラ」で渡辺エリ子が持ち上げていたのを見て,ついつい買ってしまった。パチンコの神様と言われた正村の生い立ち,名古屋大空襲で九死に一生を得たこと,パチンコの神様としての成功を丹念に追っている。筆者は広告代理店の社長。そのせいか文章的に破綻して部分もあるが,題材のよさがそれを補っている。ただ長編すぎて後半は少々ダレ気味。価格も,この手の本としては高い。

2001.6.28●「発掘捏造」,毎日新聞社旧石器遺跡取材班,毎日新聞社,\1400,p.257
 「神の手」と称された旧石器発見の達人のウソを暴いた毎日新聞。その毎日新聞が,発掘捏造をスクープするまでの経緯を綴った書。スクープまでの格闘は実に興味深い。個人的な暴挙であるのは確かだが,日本の考古学界に根ざす閉鎖性の罪も重い。安易な報道を繰り返し,幻のヒーローを作り上げたマスコミの在り方も問題として取り上げている。

2001.6.26●「21世紀のモノ創り。70のヒント」,森豊史,森行生,毎日コミュニケーションズ,\1500,p.320
 マーケティングとデザインの本。副題には「飽和売るコンシューマープロダクト市場を見極めるカギがいまここに!」とある。気楽に読めし,説得力のある話も多い。ただし米アップルとソニーに話が偏っている。特にアップルへのヨイショは凄まじいので,アップル嫌いには苦痛かもしれない。
 

2001.6.22●「誰もがうっかり見過ごす誤用乱用,テレビの日本語」,島野功緒,講談社,\1500,p.254
 ときどき,この手を本を読んで日本語をブラッシュアップしないと,どんどん誤用の底なし沼に陥ってしまう。本書の出来はまずまず。焦点をテレビの日本語に合わせているところが類書と異なる。確かにテレビの日本語はひどい。ただ,一番気になるのはテロップの誤字だ。会話になかの誤用は流れの中なので,さほど気にならない。それが文字となると,みっともないことこの上ない(それなりに教育を受けた人が関わっているはずなのだが・・・)。本書が再三俎上に上げている,「馬から落ちて落馬して」式の誤用に関しては参考になる。

2001.6.20●「ダートウゾス教授のIT学講義」,マイケル・ダートウゾス,翔泳社,\2200,p.331
 MITコンピュータサイエンス・ラボ所長のマイケル・ダートウゾスの未来展望。人間を中心に置いたコンピュータ環境を軸に,未来を語っている。その楽観的な未来感にはビックリさせられるが,ここまで来るとたいしたものだ。所々に箴言が含まれており,それには感心させられる。けっこう分厚い本だが,翻訳がよいこともあって,あっというまに読めてしまう。ところで本書の「帯」には,ソニーの出井会長の紹介文が出ているが,ちゃんと読んで書いているのだろうか・・・。

2001.6.18●「赤の発見,青の発見」,西澤潤一,中村修二,白日社,\1600,\276
 なんとも凄い組み合わせ。それぞれが短いエッセイを書き,そのあとは対談という構成をとっている。中村はこのところ出版づいているが,本書は編集者の介在が甘い(わざとかもしれないが・・・)こともあって,言いたいことを言い放っている。後ろの対談部分はかなり異様な出来。怪人2人の対談とあって,不思議な雰囲気が伝わってくる。さすがに西澤大先生の前では,新進の中村教授も押され気味だ。全般に技術用語が多いので,普通の人には読めないだろう。まあ,この企画だけが成立するだけでも評価に値する。

2001.6.14●「Body Bazaar」,Lori Andrews and Dorothy Nelkin,Crown Publishers,$24,p245
 人間の組織の売買やヒト・ゲノムをめぐる動きを追ったノンフィクション。非常に面白い。遺伝子調査の実態やその問題点(プライバシーなどなど)など興味深い情報が満載である。見たことのない英単語が出てくるので少々読むのに難渋するが,苦労するだけの見返りが期待できる。アインシュタインの脳の一部をもつ日本人がいることや,韓国のヒトから簒奪した人間組織の標本を集めた博物館が京都にあるなんて初耳だった。遺伝子調査から判明した米国大統領のスキャンダルの話も興味深い。

2001.6.13●「墜落現場,遺された人たち」,飯塚訓,講談社,\1500,p.242
 日航機123便墜落事故の捜査責任者が,退官後に丹念に足で調べた遺族の後。事件当時に触れられなかった自衛隊員,医師・看護婦,葬儀社などの奮闘振りも書き込まれている。著者がかつて著した「墜落遺体」は,それこそ涙なくして読めないノンフィクションだったが,それに比べると感動の度合いは小さい。だが,それで本書の価値が下がるわけではない。よくできたノンフィクションである。

2001.6.11●「特捜検察の闇」,魚住昭,文芸春秋,\1429,p.247
 かつて岩波新書で「特捜検察」を著した著者が,その立場を180度変更した書。いかに最近の検察が変質しているかが,これでもかといった感じで綴られている。気持ちが少々暗くなってしまうような話が満載だ。本書は,元特捜検事の田中森一と麻原弁護人の安田好弘の逮捕を軸に検察の堕落が書き込まれている。指弾されているのは,その使命感の欠如だ。

2001.6.8●「おこしやす」,田口八重,栄光出版社,\1300,p.177
 京都の老舗旅館「柊屋」で仲居を60年つとめた筆者の思い出の書。ちょっといい話が満載である。三島由紀夫の最後の家族旅行,川端康成との触れ合い,平沼騏一郎の病気,永野修身の涙など,実に興味深い話が多い。それと京都の老舗旅館の心意気がよく出ている。一度泊まってみたくなる本だ。

2001.6.6●「引きこもる父親,出すぎる母親」,岡本きよみ,\1500,p.201
 問題行動を起こした子どもの家族関係を探った書。9人の子どもとその家族を分析している。家庭内暴力の息子と母親,不登校の息子と母親,アルコール依存症患者の娘といった話を取り上げている。ちょっと牽強付会の感があるが,考えさせられる内容が多い。

2001.6.1●「構想力のための11章」,水野博之,\1300,p.205
 元松下電器副社長の水野氏が持論の「構想力」に関する考察を著した書。松下幸之助やビル・ゲイツ,インテルなどを実例に「構想力」を解説する。この手の本には失望させられることが多いが,本書はけっこう面白い。役立つ情報が少なくない。

2001.5.25●「潜入」,富坂聰,文芸春秋,¥1429,p.244
 日本に滞在する中国人の裏社会を描いた本。副題は「在日中国人の犯罪」に掲載された記事を単行本にまとめたもの。週刊誌で切れぎれに読むよりも,単行本として読んだほうが迫力を感じる。北京大学に留学した経験のある筆者が,丹念に歩いて書いたノンフィクションの力作である。いかに不法に入国した中国人が闇社会を形成しているか,残留中国人孤児の帰国が悪用されているか,戦慄の事実が満載されている。

2001.5.24●「納得の間取り,日本人の知恵袋」,吉田桂二,講談社α新書,\880,p.236
 副題は「日本人らしい生活空間とは」。「日本住宅や日本人がもっていた住まいの知恵を見直そう」「日本では日本建築が住みやすい」というのが基本コンセプトの本である。最近見直されている“ちゃぶ台”や“布団の生活”の良さにも触れている。引き戸の効用など納得できるところも多い。確かに「和風の暮らしがいい」のかもしれないが,お金の問題もあり現実は少々厳しい! 最後のほうに間取りのプラン集があるので,パラパラ見るのにはいいかもしれない。

2001.5.23●「家づくり,建築家の知恵袋」,天野彰,講談社α新書,\780,p.204
 建築家が自らの体験も踏まえ,家づくりの要点をまとめた書。著者の建築事務所所でおかした失敗談も含まれていて読み応えがある。生活の動線を考えた間取り図も多く,非常に役に立つ。家づくりで陥りやすい勘違い,押さえておきたいツボを要領よく記述している。個人的には,著者の意見に共感するところが多く,「納得の1冊」である。このところ,家つくりの本をまとめて読んでいるが,実践的という意味では出色の出来の書である。

2001.5.22●「それがぼくには楽しかったから」,リーナス・トーバルズ,デイビッド・ダイヤモンド,小学館プロダクション,\1800,p.380
 Linux生みの親であるリーナス・トーバルズの自伝。大して期待して読んだ訳ではなかったが,そこそこ面白かった。リーナスのITに対する見方(哲学といってもいい)がちょっとだけ披露されているが,そこそこ納得させられる内容である。文章も軽いし,翻訳も軽い。肩の凝らない内容だが,それに対する拒否反応が出るかもしれない(電子メールや掲示板への書き込み風の書き口もある)。ここらは,好みの分かれるところだろう。

2001.5.18●「建築Gメンの住宅学」,中村幸安,講談社α新書,\780,p.200
 欠陥住宅を告発する「建築Gメンの会」理事長が書いた書。危ない住まいや危ない専門家について実例を交えて紹介している。このところ欠陥住宅問題が叫ばれているが,同様の実例がいくつも写真つきで書かれている。本書で指摘されている住宅業界が抱える問題は,背筋が寒くなるような内容である。。もっとも筆者があまりに杜撰な住宅を見つづけているせいかもしれないが,「業者=悪」といった単純な構造に陥りがちなところは少々気になる。

推薦!2001.5.17●「悪党と政治屋」,週刊朝日特別取材班,\1300,p.238
 タイトルが秀抜。例のKSD問題を扱った週刊朝日(記事をベースに加筆した書。週刊朝日は毎週購入しているので記事も読んでいるが,こうして1冊にまとまると迫力が違う。スクープを生み出すまでの経緯を含めて,KSD問題の核心をえぐりだしている。KSDと政治家の出鱈目ぶりが余すところなく書き込まれていて,資料的な価値も高い。この国の在り様がよく分かる,お奨めの1冊である。

2001.5.15●「建てどき」,藤原和博,情報センター出版局,\1700,p.304
 建築に素人のサラリーマン(リクルート在籍で,普通のサラリーマンとは少々違うが・・・)が,「我が家」をもつまでの奮闘記。過去の経験,業者との折衝など経験談をまとめている。45歳を超えては家を建ててはならないという,文句が気になって買ってしまった。内容は可もなく不可もなくといったところ。

2001.5.11●「マッキンゼーの世界最強の仕事術」,イーサン・M・ラジエル,英治出版,\1500,p.262
 ベストセラーの上位にランクされている本。マッキンゼーというだけで拒否感が出るかもしれないが,内容は悪くない。ビジネスパーソンだけではなく,記者としての心得・仕事の進め方の基本方針として使える内容になっている。本の内容を紹介する帯に,「知識・情報を詰め込む前に,ビジネスの基本思考を学べ」とあるが,確かにビジネス書としてなかなかの出来の本である。

2001.5.10●「建てて納得!」,片山かおる,文芸春秋,\1429,p.278
 ライターの筆者が,自らの家作りを綴るとともに,さまざまな家作りを取材して書いた本。ライターとは言うものの,客観的な視点が完全に欠如していて全く参考にならない。世の中を斜めに見てしまうジャーナリスティックな視点が正しいとは思わないが,相手の家を礼賛してしまう著者の姿勢は少々疑問。本の帯には「家を建てる人が知りたい情報のすべてが一冊に」とあるが,少々かけ離れている。

2001.5.09●「古くて豊なイギリスの家,便利で貧しい日本の家」,井形慶子,大和書房,\1600,p.238
 このところ,イギリス風の家を建てたことでマスコミへの露出度が多い井形慶子の本。この本自体も書評で取り上げられて,そこそこ話題を呼んだ。マスコミでの取り上げられ方は,「イギリスのように,最初から完全な家を求めるのではなく,手を加えながら自分の家に仕立て上げるのは素晴らしい!」というものだが,本当にこんなことは可能だろうか。彼我の環境の差は大きい。はっきり言って,著者ほど家に時間割ける人や,思い入れの強い人はいそうもないので,その意味ではあまり役に立たない本。「もうこれしかない!」と思い込んで家を建てる人には役立つかもしれない。

2001.5.08●「西和彦ITの未来を読む365冊」,西和彦,日経BP社,\1600,p.330
 日経PC21で連載していた書評を1冊にまとめた本(ただし当時はペンネームを使っていた)。ITに焦点を絞っているので,この分野に興味をもっている人にはお奨め。ただし,紹介されている本の冊数が多いので,最初から最後まで読み通そうと思ってはいけない。一番の読みどころは,最後の西氏の書斎(書庫)紹介と林望との対談だろう。

2001.5.06●「子どもをゆがませる間取り」,横山彰人,情報センター出版局,\1500,p.258
 題名で損をしている本。新潟少女監禁事件,酒鬼薔薇事件,金属バット両親殺害事件といった少年が犯した事件を,家の間取りの面から考察した本。牽強付会の面もあるし,題名からそう思われても仕方がないが,実際には真面目に作られている。間取り図も多いので,そこそこ役立つ。最初の印象と実際のギャップが大きい本である。

2001.04.30●「懐かしの昭和」,町田忍,扶桑社,\1400,p.124
 昭和の歴史を刻んだデパート,銭湯,遊郭,薬局,写真館を被写体にした写真集。特にデパートの大食堂や屋上の遊園地は,遠い昔を思い出してついつい食い入るように見てしまう。消え行く昭和を振り返るのには悪くない本。日本は豊かになったな〜と,改めて感じさせられる。デパートの大食堂に連れて行ってもらったときの嬉しさはいまでも忘れられない(カレーか海老フライを頼むのが定番だった)。いまの子供たちは,どこに連れて行ってもらったときが嬉しいのだろうか。

2001.04.29●「りんごの木の下であなたを産もうと決めた」,重信房子,幻冬舎,\1500,p.239
 あの重信房子が警視庁の留置場で書いた本。先日来日した娘メイに語りかける(かなり破綻している部分もある)形で綴られている。ただし,執筆している状況が状況だけに,文章はかなりアバウトで散漫。話があっちこっちに飛び,筋が追いづらい。書き込みが足りないので,何を言いたいのか分からないところも多い。それに,日本赤軍と同時代に生きていない者にとっては理解不能の部分も少なくない。注釈が欲しいところだ。

2001.04.27●「だめだこりゃ」,いかりや長介,新潮社,\1400,p.220
 麒麟ビールのCFで,かっこよくベースを弾いているいかりや長介の自伝。連休用に選んだ箸休めの本だが,正直言って食い足りない。生い立ちから始まり,クレージーキャッツとの関わり,ドリフターズに誕生,超人気番組の全員集合の裏話,役者家業など話題は多い。しかし書き込みは否定しようがない。芸能界のドロドロ,下積み時代の苦労や人間関係など,かなり遠慮して書いている気がする。まあ,全員集合の時代を振り返って懐かしむには悪くないが・・・。

2001.04.25●「闘争!角栄学校(中)(下)」,大下英治,講談社,ともに\1900,p.402,p.406
 娘が外務大臣に就任して,改めて話題に上ることの多くなった田中角栄とその周辺をまとめた政治ノンフィクション。中巻は田中政権の誕生から退陣,やみ将軍として君臨するまでを描いている。下巻は,竹下登の創政会旗揚げ,中曽根政権の誕生,竹下政権などをカバーする。筆者は,心情的に親田中,反竹下の姿勢がかなり明確出ている。そのことを頭の片隅に入れて読むべき本だろう。政界の裏側の動きを追った興味深い本だが,もう少し書き込んでいれば,面白さは倍加しただろうに。少々食い足りない。

2001.04.20●「ぼくが読んだ面白い本・ダメな本」,立花隆,文芸春秋,\1714
 週刊文春に掲載中の書評をまとめた本。ベストセラーの「ぼくはこんな本を読んできた」の続編。好きなコラムの一つだが,こうしてまとめて読んでみると,実に上手に本を紹介している。見逃している面白そうな本が,数多く紹介されていてついつい買いたくなる(もちろんネットで)。無駄使いをしてしまいそうなので,心して読まなければならない。冒頭の部分で,立花が書評を書く際の心構えを書いている。本への思い入れがよく出ている。

2001.04.18●「闇将軍・田中角栄の天国と地獄(上)」,大下英治,講談社,\1900
 大下はあまり好きな作家ではないが,本書はけっこう読ませる。田中角栄の生い立ちから始まる生涯を軸に,政局の動きを追っている。3巻構成の上巻は,田中が総理になるまでが含まれている。とにかく,日本がバイタリティにあふれていた時代をうまく描き出している。いま実力者と言われる政治家の初当選当時の写真が興味深い。

2001.4.16●「大正天皇」,原武史,朝日新聞社,\1300
 新聞・雑誌の書評で何度も取り上げられている書。確かに面白い。大正天皇といえば病弱(実際そうなのだが・・・)といった固定観念が刷り込まれているが,それとは違った側面が紹介されている。大正天皇を囲む人物像の描写も興味深い。

2001.4.13●「自白の心理学」,浜田寿美男,岩波書店,\700
 なぜ罪を犯していない人が,“自白”してしまうのか。その構造を追った書。実例がかなり含まれていて興味深い。同時に日本の司法制度に対する見事な批判の書になっている。

2001.4.12●「怒りのブレークスルー」,中村修二,集英社,\1680
 青色レーザーの中村修二氏の2冊目の本。1冊目の本は,「ノーベル賞に一番近い男」という広告のキャッチが効いてベストセラーになったが,出来は2冊目の方が断然優れている。編集者の力量の差かも知れない。ただし毒舌(率直な意見ともいえる)は健在で面白い。1冊目とかなり記述がダブったところがあるので,2冊目だけで十分かなという感じだ。

2001.4.10●「学力が低下が国を滅ぼす」,西村和雄,日本経済新聞,¥1500
 この手の本を読むと,暗澹たる気持ちになる。自分の子どもの状況もみても確かに危ない。本書は非常に内容が濃く役に立つが,少々読みづらい部分もある。

推薦!2001.4.4●「犯意なき過ち」,日本経済新聞社編,日本経済新聞社,\1600

 日経の連載されていた記事をまとめた本。バブルを扱った本は多いが,抜群によくできている。妙に感情的にならず,客観的な事実をベースに淡々とバブルの顛末を書き込んでいる。感情に訴える傾向の強い類書に比べると面白みにかける面もあるが,合成の誤謬,無作為の罪によってバブルが形成され,弾けた過程を描いている。

2001.4.2●「健康ブームを問う」,飯島裕一編著,岩波書店,\700

 興味深い本。民間療法や感染症,不眠症などなど,常識の嘘(たとえば寄生虫がいるとアトピーにならない)について専門家が語る書。岩波新書らしい出来映え。へ〜っと思わせる部分も多く,読んで損はない。

2001.3.29●「働くことがイヤな人のために」,中島義道,日本経済新聞,\1400

 題名につられて買ってしまった書。今はやりのタイトルの付け方を,日経も真似たということか。ただタイトルと中身には,けっこうギャップがあるので注意が必要。実は哲学の本である。ただし著者の思考プロセスに慣れるまで,読むのがけっこう大変。半ば以降は読み応えがある。

2001.3.24●「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」,小林篤,草思社,\2200

 現在進行中の「足利幼女殺人事件」を扱った書。裁判に大きな影響を与えたDNA鑑定の問題点を指摘している。科学的なDNA鑑定という,一見反論のできない証拠がいかに杜撰な方法で“作り上げられたか”を丹念に追っている。初めに結論(犯人)ありきの警察の操作方法に疑問を投げかけている。

2000.3.17●「大王から天皇へ」,熊谷公男,講談社,\2200

 聖徳太子,天智天皇,大化の改新,稲荷山古墳,亀型石造物・・・・。やっと身近なレベルにまで近づいてきた「日本の歴史」。日本に「天皇」が生まれるまでの過程を述べている。遠い昔に勉強した内容を改めて読む形になって,それなりに面白い。

2001.03.10●「私の歩んだ道」,白川英樹,朝日新聞社,\1000

 ノーベル化学賞の受賞者である白川博士の講演を軸に組み立てた本。かなりお手軽にできている。ノーベル賞受賞時に新聞で取り上げられた中学時代の作文も載っている。本はお手軽だが,中村修二氏の本のギラついた書とは対照的に,淡々とした枯淡の趣きがある白川氏の味が良く出ている。ただし1000円はすこし高い。

推薦!2001.03.09●「学力があぶない」,大野晋,上野健爾,岩波書店,\740

 国語と数学の専門家が嘆く日本の教育事情。自分で「考える」ということが失われている学校教育の惨憺たる状況や,教育現場の惨状がよく分かる。教師に対する厳しい見方は,子どもの学校の実状からみても理解できる。暗澹たる気持ちにさせられる書である。類書は少なくないが,手軽に読めるという意味でお薦めである。

推薦!2001.03.07●「だれが本を殺すのか」,佐野眞一,プレジデント社,\1800

 本好きにはこたえられない書。書店,流通,版元,地方出版社,編集者,図書館,書評,電子出版といった観点から多くの問題を抱える本を斬っている。何せ身近な話題(日経BP社に関連するBK1の話やブックレビュー社の話も出てくる)だけに,ついつい真剣に読んでしまった。心ある書店の奮闘ぶりの部分は,ぐっときてしまった。ただ,460ページもある本なので読み終えるまでに時間がかかるし,持ち運びに不便である。


2001.3.1●「戦う石橋湛山」,半藤一利,東洋経済新報社,\1700

 もともとは1995年に出た本。気概や気骨,哲学のある宰相・石橋湛山のジャーナリストとしての足跡を追って,昭和初期のメディア史(軍部対メディア)を展開している。当然のことながら,軍部に迎合した大新聞批判となっている。したがって,石橋湛山の評伝と思って読むとガッカリする。それにしても,石橋のような出処進退が鮮やかな政治家が存在したこと自体,奇跡のような気にさせられる今日この頃だ。

2001.2.27●「ブランドはなぜ墜ちたか」,産経新聞取材班,角川書店,\1300

 雪印,そごう,三菱自動車の問題を追ったルポ。産経の連載記事を集めた本としては,最もよくできている。特に,雪印とそごうの問題については,しっかり書き込まれていて読み応えがある。三菱自動車のリコール隠しは,その点で尻切れトンボになっている。この事件を忘れないためにも読んで損はない本。

2001.2.23●「王権誕生」,寺沢薫,講談社,\2200

 講談社の「日本の歴史」シリーズの1冊。毎月出版されるので少々たまってきた。本書は稲作の伝来から卑弥呼,王権の誕生までを扱っている。卑弥呼の話では著者独自の仮説を展開している。考古学に取り入れられている「テクノロジー」について解説したところは興味深い。

2001.2.16●「ケータイ・ネット人間の精神分析」,小此木啓吾,飛鳥新社,¥1500

 少年犯罪,引きこもり,インターネット犯罪,インターネット依存症などなど,現代の病理を扱った書。「モラトリアム人間の時代」以来,何冊も小此木の本を読んできたが,なかなか出来のよい部類に入る。インターネット問題や引きこもりなどに対する分析は説得力をもっている。一人称と二人称の中間に位置する一・五人称といった切り口はなかなか面白い。ただ切り口こそ鋭いが,処方箋も示されておさず,だから何なんだという感じも強い。

2001.2.14●「考える力,やり抜く力,私の方法」,中村修二,三笠書房,\1400

 なぜか一時期,Amazon.co.jpでベストセラーになっていた書。青色レーザー(LED)の開発者の中村がそれほど有名とは思われず,ちょっと不思議なベストセラーだった。中身は?。あえてエキセントリックな面を前面に押し出しているのかもしれないが,ちょっと「私は,私は」が出過ぎていて辟易する。成功物語としては面白いが,あまりに一面的すぎる。もっとも,だから中村は成功したともいえるのだが・・・。 2001.02.12●「ヒトはなぜ戦争をするのか?」,アルバート・アインシュタイン,ジグムント・フロイト,花風社,\1400

 おそろしくコスト・パフォーマンスが悪い本。あのアインシュタインとフロイトの往復書簡という企画に興味があって購入したが,往復といっても回数は1回。ページにして60ページ弱。これで1400円は少々高い。もちろん,それに値する内容なら構わないのだが,内容もいまいち。ピカリと光る文言はあるのだが,しょせん書簡なので書き込みが十分とはいえず,物足りなさが残る。養老孟司の解説なるものが付いているが,これも役に立たない。正直言って買って損した本。

2001.02.10●「嫁と姑」,永六輔,岩波書店,¥680

 またまた出た永六輔の売れ筋狙いの本。「商人」「芸人」「職人」などは,そこそこ面白かったが,「親と子」「夫と妻」となると,もういけない。だんだん質が下がってきた。この本は,一連の本でも最下層に位置する。買った方が悪いのだと,自らを責めてしまう気持ちにさせられる本。

2001.02.07●「情報技術産業失敗物語」,ロバート・L・グラス,ピアソン・エデュケーション,\2200

 なかなか魅力的な題名の本である。内容もスーパーコンピュータETAのCDC,ゲームのAtari,ミニコンのWangの失敗を扱い,非常に興味深い内容の書となっている。タイトルも内容も悪くないのだが,問題は翻訳。いかにも翻訳調で,せっかくの内容を生かし切れていないのが残念。とても読みづらい本になっている。

2001.01.29●「爽やかなる情熱」,水木楊,日本経済新聞社,¥1700  

 電力王と呼ばれた松永安左エ衛門を扱った伝記。破天荒な生き方を描いている。松永の伝記としては,小島直記の「まかり通る」が有名だが,それと同等レベルの出来である。このところ松下幸之助など,古き良き日本の経営者を扱った伝記が増えている。何となく米国流のビジネス・スタイルに対するアンチテーゼのような趣がある。日本派の巻き返しとも受け取れる。

2001.01.25●「ソニーと松下」,立石泰則,講談社,\1800

 何かと対比されるソニーと松下。両社に関するビジネス書を著している立石が,その経験を生かして執筆した書である。現在の勢いそのままに,ソニーの分がきわめてよい。松下の前近代性が浮き彫りにされている。面白いことは面白い書だが,松下とソニーに抱くイメージがそのままで,大きな驚きはない。

2001.01.22●「男女摩擦」,鹿嶋敬,岩波書店,¥1800

 齋藤貴男が著した「機会不平等」とよく似た書。企業や家庭で女性がどのような立場に置かれているかを,丹念に書き込んでいる。日経の記者という著者の立場が出ていて,齋藤の著作に比べてバランスがとれている。逆にいえば齋藤のような一途な思いこみが薄い分,力強さに欠ける面がある。

2001.01.19●「機会不平等」,齋藤貴男,文芸春秋,\1619

 社会の裏側を糾弾するノンフィクション。同じような手法を鎌田慧が採っているが,より主張を前面に押し出しているのが特徴となっている。個人的には,鎌田は事実にモノを語らせる手法に共感をおぼえる。エ リート主義や企業の論理に弄ばれる「教育」,多くの問題を抱える「派遣」「労組」,市場の原理から弾き飛ばされる「老人と子ど も」といった現代日本の問題点をえぐっている。「規制緩和」に対する議論の進め方が少々上滑りしているところが気にかかる。

2001.01.17●「縄文の生活誌」,岡村道雄,講談社,\1500

 「日本の歴史」シリーズの第1巻(このシリーズには0巻もある)。縄文時代の人々の生活をドラマ仕立てで分かりやすく伝えようと している。単純に発掘された文物というハードの紹介に留まらず,生活というソフ トにまで踏み込んでいる姿勢は評価できる。ただ,何と言っても「神の手」藤村氏の事件前に書かれた縄文の歴史なので,少々気の毒 な本となった(講談社は,この件に関する小冊子を第2巻に差し込んでいる)。本書は藤村氏を持ち上げているのだが,「胡散臭いな ・・・」といったトーンもにじませている。

2001.01.14●「仕事ができる人,できない人」,堀場雅夫,三笠書房,\1400

 かつての取材先ということで読み始めた書。ベストセラーになっている。まあ,内容は特別変わったものではない。題名は刺激的だが,内容は平凡で,他のビジネス書と大差はない。昔はよくビジネス書を読んだものだが,あまり進歩していない感じが強い。

2001.01.10●“Who Moved My Cheese?”,Spencer Johnson,G.P.Putnam's Sons,

 長らくAmazon.comのビジネス書のトップに居座った書。ビジネス書らしくないタイトルに興味もあって購入した。小人とネズミになぞらえてビジネス・パーソンの生 き方を説いている。要するに,「変化を恐れるな。道は開ける」ということ。言ってることは何の変哲もないのだが・・・・。簡単に読めるという所が受けるのか?ちなみに日本語訳も出ていて,これもベストセラーになっている。原書に比べて,安く入手できる。