戦争広告代理店
高木徹、講談社、p.316、\1800 |
推薦!2003.05.31 |
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出版されたのは昨年だが、今年最大の収穫になるかもしれない。実に面白い。マスコミの一員として考えさせられる内容に富んでいるし、迫力満点である。著者はNHKのディレクタである。ボスニア紛争の裏で、米国の広告代理店が暗躍していたことを丹念な取材で明らかにしている。ワシントンポストのウッドワード記者の活動を髣髴とさせるところがある。非常に迫力のあるドキュメンタリである。広告代理店によって、マスコミの弱点を見事に突かれ、世界の世論が巧妙に操作されていたかが分かる。同時にボスニア紛争が日本からは遠い存在だったということを改めて認識させられる書でもある。日本の外交機関のPRに対する認識の薄さ、軽さもよく分かる。
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非連続の時代
出井伸之、新潮社、p.234、\1500 |
2003.05.24 |
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ソニー会長の出井氏の講演を集めた書。出版直後に購入していたが、今一歩食指が動かず、ずっと放置していた。最も古い講演は1995年のもの。出井氏がぶち上げたコンセプトに関する講演が少なくない。古めのコンセプトや講演のなかには、現実との乖離がある発言も少なくい。ITや時代の流れの速さを改めて感じさせられる。将来を予測することの難しさを感じさせる書ともいえる。 |
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隠すマスコミ、騙されるマスコミ
小林雅一、文春新書、p.230、\700 |
2003.05.20 |
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元・日経BP社の社員で、日経エレクトロニクスの記者だった小林雅一氏の4冊目(?)の本である。かつて小林氏の原稿を査読した経験をもつ筆者としては感慨深い。長らく米国で取材活動をしていたが、最近になって帰国して記者活動を続けている。本書では、現在のマスコミが、悪意を持った人間に騙されやすい構造的な問題を抱えていることを、実例を駆使して書き込んでいる。後半部はかなり疲れがみえるが、前半部はなかなか面白い。時間に追われ、十分な検証がなされない現在のマスコミの病巣をうまく捕らえている。特にインターネットでの情報発信競争と、取材される側の企業のマスコミ操作法が狡知になったことが、この問題を悪化させている。これまで小林氏が書いた本に比べ間口が広いので、そこそこ売れるかもしれない。小林氏は原稿を出版社に持ち込ん、やっと採用されたそうである。 |
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失敗学のすすめ
畑村洋太郎、講談社、p.255 |
2003.05.16 |
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失敗学で有名な畑村洋太郎教授の「失敗学」シリーズの最初の本。これでブレークして、すっかり有名になってしまった(最近は小康状態だが・・・)。それまでは学術書ばっかりで、この本が一般読者向けの最初の本である。そのため書きなれないという感じで、少々読みづらい。いかにも大学の先生の手になる書という感じである。妙な受けを狙っておらず、その後の本に比べて真面目で固く、中身の濃い内容の本になっている。営団地下鉄日比谷線の脱線事故に関する記述には知らなかったことも含まれており、知的好奇心も持たされる。 |
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国会議員を精神分析する
水島広子、朝日新聞社、p.174 |
2003.05.14 |
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民主党から出馬して当選した精神科医の手になる本。鈴木宗雄や田中真紀子、小泉純一郎など、名前を出して差し支えのない人は別として、ほとんど仮名である。それでも冒頭部分はそこそこ読ませる。政治家の言うこととやることのギャップを暴いている。ただし、冒頭だけであとは少々失望させられる内容である。もっと迫力満点の本かと思ったが、仮名の分だけ物足りない(仮名といってもAから順番に出てくる。誰なのか想像する楽しみもない)。もっとも、実名を出すと選挙妨害や誹謗中傷のたぐいとも取られかねないので仕方がないといえば、仕方がないのだが・・・。 |
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豊田市トヨタ町一番地
読売新聞社特別取材班、新潮社、p.279 |
2003.05.08 |
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経常利益が1兆円を超え、日本一もうかっている会社トヨタの歩み、トヨタの研究である。本の帯に「トヨタ研究の決定版」とあるが、ちょっと言い過ぎ。豊田家、労組、養成工1期生、日産とのつばぜり合いといったところを扱う。読売新聞の連載を単行本化しただけあって読みやすい。逆に淡々としているので、盛り上がりに欠けるともいえる。あまり扱われることのない、養成工の歴史やコメントが真新しい。今年はじめに読んだ「トヨタを創った男●豊田喜一郎」とあわせて読むとバランスがとれて、ちょうどよいのかもしれない。 |
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ぼくたちがIBMとHPで学んだこと
後藤三郎(日本IBM元専務)、中司恭(日本HP元常務)、日経BP社,\1500、p.209 |
2003.05.05 |
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中学から大学まで同じ学校で学んでいた、二人の元外資系IT企業役員が振るかえる外資系人生。日本HPの方は当初計測器メーカーで、横河電機との合弁・横河ヒューレット・パッカードだったので、外資系というのは正しくないが・・・。親分-子分の関係が日本以上に濃厚だとか、外資系企業の実態がそれなりに正直に語られている。ベトナム戦争時に、日本国籍のIBM社員に対してさえ「徴兵登録」が求められたという仰天の事実があきらかにされている。IBMの服装規定(シャツは白)の逸話やHPウエイが崩壊した理由など、興味ぶかい話題が多い。“complete”や“perfect”という言葉に対する日本人と米国人の受け取り方の違いの指摘は、まさに仰る通り。よく取材に現場で見聞きした事実である。軽く読める本なのでお薦めである。 |
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巨大銀行沈没:みずほ失敗の真相
須田慎一郎、新潮社、\1500、p.294 |
2003.05.01 |
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みずほ銀行がシステム障害に見舞われて1年。その後の動きとあわせて、日本の巨大銀行の抱える問題点を暴いた書。テレビで御馴染みの須田慎一郎氏の書き下ろし。同氏が、金融業界に強いジャーナリストだったとは、恥ずかしいことに実は気づいていなかった。テレビに出ると、何が専門なのかがよく分からなくなるせいかもしれない。映像が中心になり、単なるコメンテータ役になってしまう。本書は、そこそこよく出来ている。分かりやすい文章なので、スイスイ読める。ただ本の帯にある「いま始めて解き明かされる衝撃の真実」というのは大げさ。システム障害に関しては日経コンピュータを参考にしているが、明示せずに書くところが少々気になる。工学系の論文を仕事で読んでいた時代の悪しき名残かもしれないが・・・・
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