横田英史の読書コーナー(2002年版)

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2002.12.30●「タカラの山」---老舗玩具メーカー復活の軌跡、竹森健太郎、朝日新聞社、\1400、p.255
 3年前の大赤字から奇跡の復活を遂げたタカラのドキュメント。バウリンガルやレッツ・ビアー、ベイブレード、e-karaなど、このところヒット作を立て続けに生んでいる老舗企業の“人”に焦点を当てている。なぜ経営不振に陥ったのか、そこからどのように復活したかを描く。経営不振の陥った原因を、同族会社としての問題のほか、どこの会社にもあるような官僚主義、トップと取り巻きの問題などに求めている。一方で奇跡の業績改善は、社員の力によるところが大きい。本書では、活躍している個々の社員を取り上げることで、復活の過程を浮き彫りにする。成功した企業を扱うノンフィクションにありがちな持ち上げすぎの面もあるが、そこそこ面白い。一つ問題は、筆者の竹森健太郎が何者か分からない点である。著者略歴が何もないので、皆目検討がつかない。
推薦!2002.12.27●「Who Says Elephants Can't Dance?: Inside IBM's Historic Turnaround」、Louis V. Gerstner、Harpercollins、$27.95、p.320
 読み終えるのにほぼ1カ月もかかってしまった。年末の多忙な時期ということもあって、いつもの通勤電車での読書を仕事に充てたり、居眠りしていたことが大きい。本当なら日経新聞から訳書が出る前に読み終えるはずが、大きく目算が狂ってしまった。1カ月近くかかったが、読むに値する本である。今年一番の書であるのは間違いない。ここまで面白いビジネス書はきわめて珍しい。ガースナー氏が乗り込むまでのIBMの姿は、日本企業そっくりなのには心底驚かされる。その巨像が再生できるのだから、人さえ得れば日本企業の未来も捨てたものではないと思わされる。いずれにせよ、示唆に富む指摘満載の書である。もっと驚くべきことは、英語がきわめて分かりやすく読みやすいことである。ほとんど分からない単語がない。実に素晴らしい。

2002.11.30●「メジャーリーグ・ビジネス大研究」、太田眞一、太陽企画出版社、\1400 メジャーリーグの球団経営について記した書。著者は元テレビ朝日のアナウンサーで現在は山梨学院大学教授。米国の合理的な球団経営の実態を読み進むと、日本の“野球”の後進性が浮き彫りになってくる。だんだんと情けなくなってしまう。訳がわからない理念なきドラフト制度の改悪問題などは、日本のビジネスや政治と二重写しになる。気軽に読める本だが、訴えてくる内容は深い。
2002.11.22●「文章の書き方」、辰濃和男、岩波書店、p.239、\700
お気に入りの文章読本。記者に、「これを読んで勉強しろ」と貸したら戻ってこなかったので、2冊目を買う羽目に。やはり本は貸すものではない。久しぶりに読んだが、2冊目を買う価値が十分ある。記者にとっては、バイブルといってよいほどの内容である。その分、一般の人にとっては、ちょっと役に立たない内容かもしれない。ただ、記者という職業やその価値観を知る上では格好の書となっている。
2002.11.20●「Leadership」、Rudolph W. Giuliani、Hyperion、p.380、$25.05
 前ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏によるリーダーシップ論。10月に発行になったらすぐに、Amazon.comで購入。最近は船便を指定しても、とても早く手元にやってくる。非常に便利。それにしても、読むのに1カ月ちかくかかってしまった。文章が難しいわけではないが、380ページにわたってタップリと濃い内容が詰まっている感じである。書き出しは、もちろん同時多発テロにいかに対応したかについて割いている。大統領とのやりとり(電話がかからなかった)などの緊迫したやりとりが書き込まれている。リーダーシップが最高に求められる場面だけに、巻頭を飾るのは当然だろう。あとは、ニューヨークの犯罪をいかにして減らしたかが興味ぶかい。セクショナリズムにおかされていた公共部門を立て直した経緯が詳しく綴られている。ジュリアーニ氏の考え方は「Broken Windows Theory」という言葉に代表できる。壊れた窓はわずかであっても全体に波及し、いずれ街が荒れ果てる。逆に小さな成功を積み重ねて、大きな成功につなげるというのがリーダーシップの要諦としている。リーダーに求められるのは、判断力、性格、知性というのがジュリアーニ氏の考え方である。透明性と説明責任(対話)の重要性や、決定は「何」をよりも「いつ」が重要ということも強調する。長く考えれば考えるほど、「よりよい決定」が求められるとしている。
2002.11.11●「失敗の哲学」、畑村洋太郎監修、日本実業出版社、p.254、\1500
 失敗学の畑村教授が、「失敗の事例」を監修した書。登場するのは、本田宗一郎について梶原一明、自らの失敗を語るゴルファーの杉原輝雄、ワタミフーズの渡邉美樹など興味深い話が続く。最も面白かったのは和民の渡邉美樹の話である。
2002.11.08●「霞ヶ関残酷物語」、西村健、中央公論新社、p.280、\760
 労働省の官僚だった著者が実体験に基づいて執筆した霞ヶ関群像。ほとんどは、「ありがちなこと」と片付けられる内容だが、中には初めて読むような内容も含まれていて結構楽しめる。官僚というものがいかに法律を無視しているかがよく分かる。しかも、官僚以上に情けない存在としての政治家の無様さがよく描かれている。内容はそれなりなのだから、文章を妙に面白おかしくしているところが残念。ストレートに書いた方がよかった気がする。

2002.11.08●「霞ヶ関残酷物語」、西村健、中央公論新社、p.280、\760
 労働省の官僚だった著者が実体験に基づいて執筆した霞ヶ関群像。ほとんどは、「ありがちなこと」と片付けられる内容だが、中には初めて読むような内容も含まれていて結構楽しめる。官僚というものがいかに法律を無視しているかがよく分かる。しかも、官僚以上に情けない存在としての政治家の無様さがよく描かれている。内容はそれなりなのだから、文章を妙に面白おかしくしているところが残念。ストレートに書いた方がよかった気がする。
2002.10.27●「テロリズムと対峙した15年:新聞社襲撃」、朝日新聞社116号事件取材班、岩波書店、p.288、\1800 朝日新聞社阪神支局襲撃事件を、朝日新聞自らが追った書。言論の自由の暴力との関係などにも触れていて、なかなか読み応えがある。関係者や同業の新聞記者の座談などもあり、読ませる内容である。ジャーナリストとしては読んで役に立つ本であろう。類書に一橋文哉の「赤報隊の招待」があるが、淡々と追っているだけにこちらの方が説得力ある出来栄えとなっている。朝日新聞の取材班は、一橋の書に極めて批判的な見方を本書で披露している。
2002.10.21●「検証:病める外務省」、小黒純、岩波書店、\1800、p260 森昭雄、NHK出版、\660、p.194 共同通信の記者の手による外務省の病根をえぐった書。扱うトピックは、「機密費詐欺事件」「経費水増し請求」「公金の私的流用」などである。外務省のあきれた実態を通信社の記者らしい筆致で丹念に書き込んでいる。まとまっていて読みやすい書であるが、とんでもない恥ずかしい校正ミスがあり画龍点睛を欠くところがあり残念。類書に比べて特別秀でたところはないが、よくまとまっている点は評価できる。
2002.10.15●「ゲーム脳の恐怖」、森昭雄、NHK出版、\660、p.194  最近週刊誌で話題になっている『ゲーム脳』の出所は、この本である。いかにもマスコミ受けする名称である。思惑通りにマスコミも乗ってきて、話題を読んでいる。人体への影響に関すものは記述が難しい。白黒を完全につけることができず、つねに表現があいまいにならざるを得ない。電磁波の話などもそうだ。受け取り方によって、まったく正反対の結論がでかねない。それに感情的な問題が絡み、「無理が通って道理が引っ込む」など、なんだか訳がわからなくなりやすい。本書も、肝心なところが断言できないこともあり、センセーショナルなタイトルの割りに説得力に欠けるところがある。牽強付会ともいえそうな引用もあり、どこまで信頼できるのか、読後感は今一歩である。
2002.10.14●「本田宗一郎と井深大」、板谷敏弘、益田茂、朝日新聞社、\1400、p.142
 江戸東京博物館での展示「本田宗一郎と井深大」に合わせて出版された本。写真と文章が半分ずつで構成されている。雑誌に取り上げて必ず読まれる人物は、これまで松下幸之助と本田宗一郎と言われてきた。松下幸之助が松下電器の不振で影が薄くなった分、ソニーの井深大と盛田昭夫への注目度が高まっている。まさに技術者魂といった本田宗一郎と井深大の話は、何度読んでも痛快だし、面白い。本書は写真が多いこともあって、さらに楽しめる。本田宗一郎にしても、井深大にしても多くの評伝があるが、本書はそのなかでも優れものの一つに数えられる。コンパクトにまとまっているうえに、貴重な写真が多いこともあって、手元に置いてパラパラめくるのに最適である。
推薦! 2002.10.11●「敗戦真相記」、永野護、バジリコ、1000円、p.189
 今年最大の収穫である。実に優れた本なので、ぜひ推薦したい。日本経済新聞の田勢康弘氏が興奮気味に後書きを書いているが、よく気持ちがわかる。週刊文春に立花隆が書評を書いていたので、記憶している方もいるかもしれない。政治家・永野護氏が、日本が敗戦にいたった理由を論理的に描き出している。昭和20年9月の演説をもとにしているようだが、恐ろしいことに現在の日本は、状況がまったく変わらない。暗澹たる気持ちになる。薄い本なのであっという間に読める。とにかく一読をお奨めする。
2002.10.10●「僕の起業は亡命から始まった!---アンドリュー・グローブ半生の自伝」,アンドリュー S. グローブ,日経BP社、2200円、374ページ
 米インテル会長のアンディ・グローブが、誕生から大学在学中までを描いた自伝。インテルに興味がある人や半導体業界の人に向く本である。あまり一般的ではない。ちなみに本欄でも、一度原書を書評している。事情で、翻訳された本も読むことになった。改めて書くと、本書は子供のころの話、思春期の甘酸っぱい思い出、祖国ハンガリーを捨て亡命するまでの苦闘、米国での新生活などが率直に語られている。一つ、大きな間違いがある。表紙や奥付けに、グローブ氏をインテル共同創業者と表記しているが、インテルの創業者は、ロバート・ノイス氏とゴードン・ムーア氏。グローブ氏は、インテルの設立後しばらくして入社した。インテルの資料にもそう明記されている。なぜ、こんな間違いが・・・・
2002.10.6●「誰かに教えたくなる---社名の由来」,本間之英,講談社,\1600,p.283
 面白い本である。本書に登場する企業と関わりがある方などは,ぜひ読んでおくといい。本社所在地やURLもあり,会社情報代わりにも使える(登場する企業数はずっと少ないので網羅性はない)。いずれにせよ,訪問したときに話題が広がること間違いなしである。いろいろな会社の社名の由来,ロゴマークの由来など紹介しているが,「へ〜」っと驚くような話が満載されている。一読の価値はあるが,なにせ310社もあるので,読んでいるうちに飽きがくる。ターゲットの会社に行く前に,予習で読むのが一番いいのかもしれない。ちなみに,我が家ではトイレに置き,毎日コツコツと読み進んでいた。
2002.10.4●「最終弁論---歴史的裁判の勝訴を決めた説得術」,マイケル・S・リーフほか,朝日新聞社,\2500,p.357
 陪審員制度を採用する米国ならではの本。面白い。読み始めは,退屈な本との印象が強い。一つは,現場で検察官や弁護士の身振り手振りを含んだ弁論を聞かないと感じがつかめないからだ。もう一つは,しょせん米国の話で,陪審員制をもたない日本とは距離があるとの印象だからである。ところが読み進み,後半に入って俄然話が盛り上り引き込まれる。マンソン事件(シャロン・テート殺人事件)やベトナム戦争での民間人虐殺事件といった,見聞きしたことのある事件が題材になっていることが大きい。黒人指導者メドガー・エヴァンズ暗殺事件のように,ドラマチックな展開や劇的な逆転判決の話も実に興味深い。

2002.9.27●「喜劇の殿様---益田太郎冠者伝」,高野正雄,角川書店,\2800,p.225
 鈍翁こと益田孝を父に持つ益田太郎の伝記。父親が明治時代の財界の大立者(三井物産社長だったり,日本経済新聞を創設したりと有名人)だったこともあり,裕福な環境に育った益田太郎が,実は日本における喜劇の祖だったという事実を掘り起こしている。当初は獅子文六氏が執筆を進めていたが,逝去によって,編集者だった著者が引き継いで上梓した。もっとも引き継いだ著者自自身も脱稿した後に亡くなっている。内容は実に淡々と,日本の近代演劇史から無視されてきた益田太郎の足跡を追ったものになっている。ただドラマ性には欠けており,少々退屈だ。益田一族には興味があるので読み始めたが,内容は今一歩である。値段が高いこともあって,演劇に興味をもっている方など,ごく一部の人にしかお勧めできない書である。
2002.9.26●「The New Imperiakists」,Mark Leibovich,Prentice-Hall,$25,p.227
 AOL Time Warnerのスティーブ・ケース,Cisco Systemsのジョン・チェンバース,Amazon.comのジェフ・ベゾス,Microsoftのビル・ゲイツ,Oracleのラリー・エリソンの生い立ちから学生時代,起業にいたるまでの経歴などの半生を紹介した書。この5人の評伝をまとめて,コンパクトに読めるという意味で,有意義な本。米国の本らしく,索引もばっちりなので後で資料としても有用である(日本の書籍の索引があれほど貧弱なのはなぜだろう。要するに読み手のことを考えない,売り手の論理だということだろうか)。けっこうよく,人となりが出ているので読んでいて楽しい本。ただ,ゲイツのように至る所に半生が紹介されている人物に関しては,得るところが少ない。個人的には,かなりエキセントリックなエリソンの話が興味深かった。ワシントン・ポスト紙の記者がインタビューを交えて執筆している。
推薦! 2002.9.14●「IT革命はどこへ消えた」、三石玲子、主婦の友社、\1300、p.190
 読んでいて楽しくなる本である。また納得させられる話もたくさん出ている。筆者はかつて日経コンピュータでも連載をお願いしていた、ECサイト関連の批評で知られる三石玲子氏。バッサ、バッサと、ITの迷信を切っている。「お笑いIT革命」と題しても良かったような内容である。出色なのは、買い物の主役である“おばさん”たちの生態や日本社会/企業とECサイト/ITとのミスマッチを見事な筆致で説いている。IT化を進める官僚の想像力のなさにたいしても厳しい目を向ける。いずれも実に面白い。単に面白いだけではなく、仕事に役立つヒントも満載である。ブロードバンド時代にWebサイトの在り方についても見方なども、一般に流布しているのとは違いユニークである。
2002.9.4●「情報化はなぜ遅れたか」,伊丹啓之+伊丹研究室,NTT出版,\2800,p.330
 ずっと本棚の肥やしで,積読になっていた本である。初歩的な事柄から,日本のIT化の現状(遅れ)を分析している。初学者にはありがたいが,ITに関係する方々にとっては冗長に思える記述も少なくない。この点は少々残念だ。ただし,曖昧に記憶していることを,きっちりと数字として裏付けてくれているので,その点で資料的な価値は高い。記事を書いたり,講演に利用できそうだ。また,単純に自虐的な論調に陥ることなく,日本の優れた点を冷静に分析している点は好感が持てる。奥井氏の著作「ジャパンズ・プライド,日本の製造業は死なず」に通じるところもあるが,学者らしく抑えた筆致で書かれている。

2002.8.28●「ジャパンズ・プライド,日本の製造業は死なず」,奥井規晶,東洋経済新報社,\1500,p.200
 面白い本である。ちょっと浮いたところもあるが,「日本人よ,もっと自信と誇りを持て」,「最先端のITツールを導入し,使いこなすことによって,日本のお家芸であるモノ作りは必ず復活する。日本にはその能力が備わっている」。これが筆者である奥井規晶氏から読者へのメッセージである。奥井氏は,失われた10年を過ぎてなお沈滞ムードから抜け出せず,すっかり自信を失っている日本メーカーを,ときに厳しい言葉を交え叱咤激励する。コンサルタントらしく,事例や図版を駆使しながら日本再生への道筋を平易に説いており,説得力に富む。著者が,日本再生の足を引っ張る張本人として挙げるのが,「大企業の中間管理職の大半」と「西欧かぶれしたマスコミ」である。中間管理職を,過去の成功体験に引きずられて変革を嫌い,大胆な発想ができない“抵抗勢力”と位置付ける。マスコミに対しては,米国をやみくもに持ち上げる“亡国の輩”とさらに辛らつだ。反論もあろうが,耳を傾けるべき論点も含まれている。
2002.8.24●「黎明」,片岡豊,新井敏記,角川書店,\1900,p.456
 フェアレディZの生みの親として最近とみに注目されている片山豊の自伝。カルロス・ゴーンの社長就任とフェアレディZの再投入で,再び表舞台に登場した感がある。かなりの高齢の片山だが,かなり生臭い話が満載である。幼少の頃の話は少々ダルイが,日産社内の権力争いの話や,米国でのビジネス立ち上げの話となると,俄然面白くなる。とくに秀逸なのは,川又や石原といった日産の過去の社長との確執と,彼らに対する人物評である。日産の病根となった労働組合に関しても厳しい評価を下している(当たり前だが・・・)。本書を読んで最も驚くのは,片山が市井の人というより,日産創業者につながる家系の人だということだ。閨閥もすごい。これは初めて知った。息子がサッカー日本代表の片山だったのにも驚かされた。
2002.8.16●「赤報隊の正体」,一橋文哉,新潮社,\1400,p.251
 副題は朝日新聞阪神支局襲撃事件とある。朝日新聞阪神支局の小尻記者が射殺された事件を追ったノンフィクション。犯人が名乗った名前がタイトルの由来となった赤報隊である。正直言って,読後感はよくない。一橋は好きなノンフクション作家で,ほとんどの本を読んでいると思うが,今回はハッキリ言って期待はずれだった。本書の最初の半分は不要だろう。あまりにも前振りが長すぎて飽きてしまう。本書で読むべきところは,後半2/3といったところだ。その中核部分も,ぼんやりとは核心に迫ってはいるが,鋭さに欠けている。隔靴掻痒の内容で欲求不満がたまってしまう。三億円事件を扱った作品で鋭い切れ味をみせた一橋とは思えない出来の本である。
2002.8.13●「田中角栄邸書生日記」,片岡憲男,日経BP企画,\1500,p.207
 日経新聞記者で,日経ビジネスの副編集長も務めた片岡氏の遺稿。残念なことに同じBP社に勤めながら面識はなかった。本書は片岡氏が早稲田大学在学中に,田中角栄の目白の自宅で書生をした4年間の体験記である。本書の校正を終えた後,著者の片岡氏は亡くなった。立花隆の「“田中真紀子”研究」でも取り上げられた書ということで読み出した。そこそこ面白いが,書生ならでは田中角栄の実像,ジャーナリストの目を期待すると裏切られるだろう。書生として,田中角栄とその家族,使用人(書生や運転手,お手伝い)の動静が淡々と語られている(田中真紀子に関しては,ちょっぴり辛口の記述がある)。その結果,本当にすべてを語っているのだろうかといった疑問もわく。むしろ筆者の青春期といった趣が強い。
2002.8.12●「“田中真紀子”研究」,立花隆,文芸春秋,\1500,p.358
 何と田中真紀子が議員辞職した日に出版された本。朝,品川駅の構内の本屋で入手したのだが,昼過ぎには議員辞職のニュースが流れた。ちょっとした驚きである。非常にいい本である。タイトルは田中真紀子とあるが,むしろ父親の田中角栄と日本政治全般を扱った書というのが正しい。田中金脈とその後の政治の流れをざくっと知るうえで第一級の書になっている。その流れのなかで,刺身のツマとして,田中真紀子が登場する。ほぼ同じ書名の「田中真紀子研究」(松田史朗)がエキセントリックな面だけを扱っているのに比べると,非常にバランスの良い扱いとなっている。むしろ,立花隆がこれほど田中真紀子を評価していることが驚きである(なぜ評価するかの具体例も出ている)。ちなみに金脈を暴いた立花隆だが,田中角栄にも一定の評価を与えている。田中角栄関連の本が何冊も紹介されているが,つい読みたくなってしまう。
2002.8.9●「日本経済への最後の警告」,ジョン・ケネス・ガルブレイス,徳間書店,\1600,
 93歳のガルブレイスの書。ドラッガーの新著も売れているが,大御所たちは健在のようである。本書は,最近流行になっている「日本復活」の書である。ただ書名と中身に大きなギャップがある。確かに「日本経済への最後の警告」的なパートもあり納得させられるところもあるが,基本はガルブレイス先生が経済学の歴史と自らの歴史(米国政権と経済運営)を振り返るという趣向の本である。第一章の「日本経済へ警告する」で力尽きたのかもしれないが,読みどころはこの章に集中する。本書の帯には「最後のメッセージ」とあるが,そうなるかもしれない。その意味で一読の価値はある。

2002.7.30●「特許ビジネスはどこへ行くのか---IT社会の落とし穴」,今野浩,  かつて知的財産権の記事を書いていたときにお世話になった今野先生の本。かなり軽いノリで書かれている。その分,?と思うところが少なくない。校正も粗くって誤字(ワープロの変換間違い)があったりする,岩波にしては脇が甘い本である。内容は目新しくないが,グローバルな知的財産権保護の流れを整理するうえではちょうどいい。知的財産権関連の記事を書かなくなって久しいので,筆者のような人間には懐かしく読める本である。
2002.7.28●「小説:巨大銀行システム崩壊」,杉田望,毎日新聞社,\1600,p.312
 例のみずほ銀行のシステム障害を取り上げた“小説”。本書の最後には,「事実をもとにしたフィクションです」とある。金融庁,銀行,新聞社の三つの視点から,システム障害の真実に迫っている。日経コンピュータが上梓した「みずほの悲劇」対抗の本が出るとサンデー毎日で知って購入したが,正直言って非常につまらない。小説としてもつまらないし,みずほ銀行に関する“事実”も面白みに欠ける。小説仕立ての部分が妙に浮いているところが気になる。書き口がやわらかいので,日経コンピュータの専門的(できるだけ薄めるように努力したが)な語り口に比べると読みやすいのだが・・・・。
2002.7.26●「ITガバナンス」,甲賀憲二,林口英治,外村俊之,NTT出版,\1900,p.219
 最近流行のITガバナンスやWebガバナンスを扱った書。著者は日本IBMのコンサルタントである。ITの価値を最大化する経営戦略について著している。同時に,企業トップがITについて無関心であることの問題を指摘するとともに,CIOの任務とその重大さを説く。日経コンピュータではこの手の問題を書きつづけているが,その立場からすれば目新しいところ,得るところは少ない。ただ,基本的なことを押さえる目的には向く書だろう。
2002.7.22●「若者の法則」,香山リカ,岩波書店,\700,p.211
 若者の行動原理を,六つの視点(本書では法則と呼んでいる)から分析した書。暇つぶしには向く本である。説得力があるような,ないような内容。残念ながら,ほとんど記憶に残らない。
2002.7.8●「Bias」,Bernard Goldberg,Regnery Publishing,$27.95,p.223
 Amazon.comで,けっこう長いあいだベスト10入りしていた本。長い中断をはさんだで,3カ月くらいかけて読んだ。米国のマスコミのリベラル寄り(民主党寄り)の実態を槍玉に挙げている。著者はこれをLiberal Biasと呼んでいる。著者はCBSで働くジャーナリストだが,ウォルストリート・ジャーナル紙への寄稿で,CBSの報道の偏向振りと人気キャスター ダン・ラザーを裸の王様振りを指弾した。確かに本書を読む限り,かなりひどい偏向が感じられる。ジャーナリストの民主党支持率が,米国人一般にくらべて極めて高率であることも定量的に示している。そのほかマイノリティに対する扱いの問題も明らかにしている。
2002.7.8●「田中真紀子研究」,松田史朗,幻冬舎,\1400,p.339
 新聞と雑誌で描かれる田中真紀子像,このギャップなんだろう。本書を読むと,ますますその思いが強くなる。本書は田中真紀子を,あきらかに人格的に問題がある人間として描いている。ノンフィクションではあるが,あまりの凄さに,ある種のバイアスを感じてしまうほどだ。外務省をめぐるゴタゴタに関しても,新聞から読み取る内容とは全く異なる“事実”が語られている。読み進むと,あまりの酷さに嫌気がさしてくるが,性根を入れて我慢して読んだほうがよい。それにしても,同じ人物の描き方がメディアの違いだけでこれだけの差異があるなんて,この国のメディアって,どうなっているのかと悩んでしまう。
2002.7.4●「国家の論理と企業の論理」,寺島実郎,中央公論新社,\660,p173
 米国赴任(ワシントン)が長かった筆者が,これからの日本の国家戦略について書いた中央公論の論文を1冊の本にまとめたもの。日本の安全保障や,グローバリズムへの対応の仕方,企業活動の行方,米国や中国との距離の置き方などを,IT化や情報革命と絡めながら論考している。このところ集中して著者の本を読んでいるが,他の著書と比べ,IT化との関連付けが若干希薄かもしれない。同じ著者の本を3冊も続けざまに読むと,さすがに満腹感がある。
2002.7.2●「正義の経済学,ふたたび」,寺島実郎,日本経済新聞,\1400,p221
 三井物産戦略研究所所長の寺島氏の本。最近,注目の論者である。本書は,中央公論に発表した論文をまとめたもの。米国流の市場原理主義に対し批判的な著者が,あるべき社会像を描く。首都移転や首都圏空港などの具体策を含め,日本再生の方向性を示している。実際,サブタイトルに「日本再生の基軸」とある。ITを絡めた話が多く,けっこう面白い。

2002.6.28●「Mr.ウォークマンの他人とここで差が出る企画術」,黒木靖夫,実業之日本社,\1400,p.174
 タイトルにあるようにウォークマンなど,数多くのソニー製品のデザインを手がけた黒木氏によるビジネス本。ソニー取締役を退任し,現在は富山県総合デザインセンター所長である。日経エレクトロニクス時代に何度か会ったが,喋り方と動作に特徴のあるユニークな方で,著作は可能な限り読むようにしている。今回の書は,タイトルからは「ノウハウ本」のように思われるかもしれない。しかし本質は,ソニーの企業文化,特に盛田昭夫と井深大のビジネス・スタイルを紹介した書である。もちろん黒木流も明確に出ている。すっきりした文体なので,すぐに読み終えることができる。ソニーのビジネス・スタイルに興味をもつ方が,暇つぶしに読むには最適な本。
2002.6.26●「時代の深層底流を読む」,寺島実郎,東洋経済新報社,\1500,p.207
 三井物産戦略研究所所長の寺島実郎氏が執筆した原稿をまとめた書。やみくもな米国追従に警鐘を鳴らし,市場原理主義の危うさを論じ,日本としての確固とした足場を築くべきと主張する著者の特徴が良く出た書である。日本的な価値観の再構築が日本再生のかぎを握ると説く。同時に,主軸が頻繁に動く日本の論壇や経済学者,マスコミに対して,厳しい目を向けている。耳の痛い指摘も多い。同時多発テロ以降の世界情勢をベースにしており,9月11日の衝撃の大きさがいろいろな所に出ている。
2002.6.20●「なぜ起こる鉄道事故」,山之内秀一郎,東京新聞出版局,\1500,p.277
 失敗学の大家・畑村教授推薦の書。実に面白い。著者はJR東日本の前会長で,現在は宇宙開発事業団の理事長を務める。エンジニア出身らしい視点と書き口は非常に共感を覚える。鉄道事故の歴史をたどりながら,なぜ事故が起こりつづけるのかを論じる。結局は,どんな精緻な安全システムも人の介在するもである限り,どこかに落とし穴があり事故を引き起こす。そこでさらに安全化の方策が練られ,安全に関する技術は進展する。コンピュータ・システムの事故にも通じる真理がそこにはある。日本で起こった大事故もあれば,欧米の事故も詳細にしかも写真付きで紹介している。それにしても,列車事故を起こしていない新幹線は凄い(危機一髪だった逸話も本書では紹介している)。
2002.6.17●「ウォルマートの真実」,西山和宏,ダイヤモンド社,\1600,p.312
 いまや世界最大の企業になった小売店ウォルマート。その飛躍の原動力はIT化だといわれる。ウォルマートはバーコードを世界で初めて導入した小売店であり,通信衛星を使った在庫管理など,そのIT投資は有名である。いまやその抱えるデータ量は,国防総省をしのぐとも言われる。そのウォルマートに関して,前半部で詳しく論じている。後半はライバルの小売店の紹介になっている。業界関係者以外にとっては読む必要はない。
2002.6.14●「成果主義を超える」,江波戸哲夫,文芸春秋,\710,p.238
 仕事の関係で読んだ本。NEC,富士通,東芝,三菱電機,松下電器産業,三洋電機・・・・。お馴染みの電機メーカーの人事制度を,作家の江波戸哲夫が取材して書いた本。基本は人事関連役員へのインタビュー。わずかだが,匿名の社員の話も含まれている。どこまで実態に迫れているのか,少々疑問もわく。人事制度自体に目新しい新事実が出ているわけではないが(そういう目的の本でもない),よくまとまっているという印象が強い。今年3月発行の本なので,当然のことながら,その後の分社,吸収,合併など電機メーカーと社員をとりまく環境はフォローしていない。やっぱり人事制度は難しい。
2002.6.7●「STがITを超える---ついにコンピュータが心を持った」,光吉俊一,日経BP企画,\1500,p.207
 風変わりな本。コメントを欲しいと言われて読んだ本。自分でお金を支払って買うかといわれると,ちょっと疑問符がつく。著者は彫刻家であるが,神がかりのお告げでST(Sensibility Technologyの略)という着想を得たという。しかし肝心のSTは画期的なコンピュータ・アルゴリズムというだけで,これが皆目分からない。正直な話,評価のしようがない。実際に動くソフトウエアをみたいところだ。IT系の話もかなり乱暴で,残念ながら本の信憑性を疑わせる(大発明を前に,こんな所を気にすること自体が意味がないのかもしれない)。最大の問題は著者に歴史的な基礎知識がないところである。変なところで,引っかかる。いずれにせよ,著者の会社が贈答用に買う本とみるのが妥当なところ
2002.6.5●「ザ・ゴール」,エリヤフ・ゴールドラット,ダイヤモンド社,\1600,p.552
 ながらく本棚に放置していた本。“2”の方を先に読んでしまったので気になっていた。さすがにベストセラーになった本である。小説仕立てだが,説得力のある論理構成で読み応えがある。本書の帯にあるように,米国で250万部という話も納得できる。正直な話,“2”よりも格段に優れた本である。日本でもベストセラーになっているので,今更の話であるがお薦めの本である。

2002.5.31●「システム障害はなぜ起きたか---みずほの教訓」,日経コンピュータ,日経BP社,\1400,p.192
 自分の会社の本で,しかも自分の編集部が書いた(私は原稿を査読したことで少し貢献している)本の書評を書くのもいかがなものかと思ったが,かなりの自信作なのであえて紹介した。最近はさすがに小康状態を保っているものの,一時は凄い勢いでマスコミに取り上げられた「みずほ銀行のシステム障害」に関する本である。多くのマスコミは,みずほ銀行を叩きにたたき,ワイドショーのネタ化した事件だが,その根本原因に迫ったものは少ない。日経コンピュータは,みずほ銀行のシステム統合に関して1年以上も前から追っており,質量ともに他のメディアと一線を画す内容になっている。特に,前書きと後書きには筆者の思いが込められており,一読の価値がある。季節モノなので,5月中には出版に漕ぎ着けたいと頑張ったのだが,残念ながら私の家の近くの本屋には今のところ置いていない(奥付の発行日は5月30日なのだが・・・・)。
2002.5.30●「失敗学の法則」,畑村洋太郎,文芸春秋,\1286,p.223
 また読んでしまった“失敗学”。それにしても,“失敗学”と名づけた書籍の多さには驚かされる。私自身読んだのは本書で3冊目だが,さほどダブリを感じさせないのは大したものである(もちろんダブリは少なく。それでも何となく読ませる内容になっている)。失敗から何も学ばないことが多い日本社会だが,この失敗学ブームで何か変わるのだろうか。そうだとすれば,失敗学ブームは大きな意味がある。最近ではみずほ銀行の話など,格好の失敗の事例である。その意味で,今後どのように推移していくのか実に興味深い。
2002.5.28●「県民性の統計学」,日本人を知る研究会,角川書店,\571,p.213
 その昔,中公新書に「県民性」という祖父江孝夫氏の本があった(いまでも購入可能かもしれないが・・・)が,似た本である。本書は統計に基づいて県民性を分析するところに特徴がある。都道府県ごとに分けた章と,住居や経済,結婚といったトピックごとに分けた章で構成する。最初のうちは面白おかしく読めるので,暇つぶしにはもってこいである。我が家ではトイレに置いて,毎日少しずつ読んでいった。ただ面白いことは面白い本ではあるが,正直な話,分量が多すぎる。最後のほうは食傷気味になり,義務で読んでいるような状態になってしまった(飛ばし読みになった)。興味のある項目だけ拾い読みするのが,本書の正しい読み方だろう。
2002.5.17●「中国の知識型経済」,蔡林海,日本経済評論社,\3200,p.290
 中国出身で筑波大学に留学し,現在は日立総合計画研究所に勤務する著者による中国のIT事情などを解説した書。データや図説が充実していて,中国の現状を知る上ではなかなか役に立つ。著者が自ら作った図版も悪くない。力作といえる。中心は米国と中国の関係に偏っているが,日本にとっても役に立つ情報が多い。書き方を工夫して,日本から見た視点で書けば,もっと分かりやすく,日本で受け入れられる本になっただろう。3200円と少々値が張るが,買って損はない。ただし校正が不十分で,誤字や用語の不統一が目立つところは,中身がいいだけに少々残念である。また読者への配慮が足りないところも気がかり。日本人にとって馴染みのある米インテルのアルバート・ユーを虞有澄と表記されても,多くの日本人には分からない。
2002.5.18●「ニッポン近代化の遺産」,増田彰久・写真,清水慶一・文,朝日新聞社,\2600,p.231
 小樽の運河や赤レンガの倉庫群,京都の琵琶湖疎水など,日本の近代を築いた建物などを集めた写真集。週刊文春で立花隆が書評を書いていたのにつられて購入した。古い建築物が好きなものにとっては,嬉しくなってしまう本。まだこんな建築物が残っているんだと感心させられる。惜しむらくは文章が長いうえに,文字が小さすぎて読む気を失せさせる。版型をもう少し大きくするとともに,文章を短くすべき。写真をパラパラめくるのを楽しむといった体裁にして欲しかった。
2002.5.16●「失敗を絶対,成功に変える技術」,畑村洋太郎,和田秀樹,アスキー,\1500,p.271
 失敗学で売り出し中の畑村工学院大学教授,これまた人気の精神科医,和田秀樹の対談集。なかなか読ませる。みずほ銀行のシステム・トラブルを思い起こしながら読んでしまった。「失敗の拡大再生産」や「QC活動を一生懸命やった会社ほど力をなくしてしまった」,「企業で出世していく偽ベテラン」「知識の臨界点」「タイミングの悪い名作よりも,タイミングのよい駄作の方が成功する」といった話が満載で読み応えがある。「硬直化した組織のなかにあっては,小さな失敗は隠してしまえ。それが賢い対策だ」といった逆張りの論点も読んでいて楽しい。ただ,本書の表紙に「東大で徹底検証!!」とあるが,これは少しミスリードのタイトル。中身が悪くないだけに,そこまで無理しなくても・・・と思ってしまう。
2002.5.13●「情緒と創造」,岡潔,講談社,\2800,p.252
 数学者や哲学者として有名な岡潔の書。すでに出版済みの単行本を再編集したもの。巻頭のグラビアはちょっとユニークで仕掛けとして面白い。内容はちょっと難解。言葉使いは普通なのだが,話が少しずつ飛躍していて,それこそ想像がないと読みこなせない。哲学者の本らしく,浮世離れしているともいえるかもしれない。本書の帯に書いてあるような教育に対する言葉が随所に出てくるが(本書を出版した編集者のねらいは,このあたりにありそう),納得させられるところが多い。通常の単行本に比べ判型が大きいせいか,少々高い本なのが残念。
2002.5.11●「ライオンは眠れない」,サミュエル・ライダー,実業之日本社,\857,p.109
 いま話題の書。1時間もあれば読める本である。トヨタの奥田会長が推薦してから,ぐんと部数が伸びたといわれる。書店によっては品切れになっている。判型などの体裁は,「チーズはどこへ消えた?」に似ているが,著者は「違う!」と後書きでわざわざ記している。確かに内容は違っている。かなり具体的な実在の人物(小泉首相や田中前外相)を模した寓話である。最後の結末は,いろいろと考えさせられ面白い。ただ,本書が書かれたときと政情がかなり変わってきており,今なら異なったストーリになるのかもしれない。細かく書いてしまうと,興味がそがれてしまうのではここでは割愛する。
2002.5.10●「知識経済化するアジアと中国の躍進」,野村総合研究所,野村総合研究所,\1800,p.328
 いまや書店に行けば,WTO加盟もあって中国関係の本がずらりと並んでいる。中国を中心にアジアの経済状況,IT化状況をデータに基づいて分析した書。日本企業が中国やアジアの諸地域でどのように行動すべきかについて提言を行っている。欧米の企業と日本企業の中国での行動を比較し,在るべき姿を述べているところは的を射ていて,「なるほど」と感心させられる。とにかくデータが豊富なので,報告書作りやセミナーの資料作りには重宝する本だろう。ただ問題は文章が少々読みづらい点。データにあまりにも重点が置かれた結果,文章の方がおろそかに感がある。いいことが書いてあるのだが,頭に入っていかない。
2002.5.5●「常識として知っておきたい日本語」,柴田武,幻冬舎,\1300
 このところ流行の「日本語」に関する本。80歳を超える著者がかつて出版した2冊の本を再構成して新たに出したもの。見開き2ページに三つ言葉,全部で351の語源が書いてある。細切れに読むのにはちょうどいい。尾篭な話だが,トイレに置いて毎朝読んでいた。最後にちゃんとした50音別のインデックスもついているので,辞典的な役割も果たせる。ちょっとした薀蓄をたれた小文を書くときに重宝しそうだ。それぞれの語源の最後には,落ちが必ずついている。残念ながらアエラの車内中吊り広告風で,落ち損ねたものが多いが,80歳を超えた著者の愛嬌だと思えば許せる範囲である。
2002.5.2●「わが朝鮮総連の罪と罰」,韓光熙,文芸春秋,\1524,p.262
 朝鮮総連の財務局副局長の発言を,フリーのジャーナリストが代筆してした書。韓光熙氏は現在,脳梗塞で病床にあるという。タイトルがおどろおどろしくて,スキャンダラスなイメージを与える。朝鮮総連内の権力闘争に敗れた結果出てきた証言という事情もそれを後押しする。しかし,中身は実に淡々としている。むじろ筆は抑え気味である。暴露本と考えて読むと,ちょっと違うなという感じにさせられる。中身は,朝鮮総連関連と北朝鮮の関わり具合や日本国内でのカネの流れ(地上げの話,パチンコ店の話などなど)である。

2002.4.27●「ONとOFF」,出井伸之,新潮社,\1400,p.222
 ソニー出井会長兼CEOが1カ月に2回,イントラネットで公開しているエッセイを単行本化した第2弾。以前の「出井伸之のホームページ」はソニー・マガジンズから出版されていて図や写真がありちょっと変わった本だったが,今回は新潮社が手堅くまとめている。月に1回も社員に向けて書く会長というのは,ちょっと偉い。いろいろと有名人とあっているところなどは,週刊アスキーで西和彦氏が書いていた日記といった趣もある。全体に中身は洒脱な感じで,いかにもソニーの会長といった感じ。しかし読み進むうちに,「ひょっとすると,無理しているのでは?」といった疑念も湧いてくる。タフな経営者(これはかなり色濃く出ている),趣味人の経営者といった姿を社員に印象付けるために苦労しているのではといった感じがしてくる。その意味でも,大会社,特にソニーのトップは大変だな〜と思わせる1冊である。
2002.4.13●「ドナービジネス」,一橋文哉,新潮社,\1400,p.249
 三億円事件やグリコ・森永事件に関するノンフィクションがある一橋文哉の最新刊(といっても,出版されたのは今年1月なので新しくはない)。臓器売買や遺伝子操作,クローン人間の話など,人体を扱うビジネスを追っている。かつて読んだ「Body Bazaar」(2001.6.14付けの読書欄)に通じる内容である。誘拐など犯罪に絡んだあるいは臓器売買,あるいは胎児の臓器を利用する話など,驚愕の内容が含まれる。背景にあるのは,不老不死を求めて傲慢になっている先進国と,貧困のために人体を売ることを厭わない途上国という構図である。
2002.4.12●「鈴木宗男研究」,加藤昭,新潮社,\1300,p.171
 週刊新潮の部数を爆発させた連載「鈴木宗男研究」を単行本化したもの。まさに緊急出版といった体裁である。鈴木宗男の議員辞職などがあると,急に関心が薄れる危険性を考えて緊急出版に踏み切ったものと思われるが,秘書問題など次から次に疑惑が湧いてきて,すでに影が薄くなっている。週刊新潮を読んでいないので,「ふ〜ん」という感じである。新聞やテレビで嫌ほど扱われたので,目新しさは中川一郎との関係のい部分である。
2002.4.6●「グリーン・ファーザー」,杉山満丸,ひくまの出版,\1500,p167
 もう番組がなくなってしまった「本パラ」で紹介していた書。インドの緑化に貢献した市井の人「杉山龍丸」の軌跡を追っている。企業ものではない,個人版「プロジェクトX」といった感じです。著者は息子であり,現在は九州で高校の先生をしている。龍丸は,インドの砂漠を緑に変えるために,代々受け継いだ資財を投げ打っている。ここでも,日本政府・官僚の愚かさ加減が紹介されている。素人の筆によることもあって,実に淡々と綴られている。いいか悪いかは別にして,若干盛り上がりに欠ける面があるのは否めない。
2002.4.3●「ザ・ゴール2」,エリヤフ・ゴールドラット,ダイヤモンド社,\1600,p375
 ベストセラーとなった「ゴール」の続編。本書もベストセラーとして名を連ねている。「ゴール」自体は読んでいないが,支障はなかった。お話として十分楽しめる本である。もっとも,あまりに上手く出来た話なので,鼻白む感もある。本当にビジネスに役立つのだろうか。やはり「ゴール」を読まないといかねいのか・・・・

2002.3.31●「自然に生きて」,小倉寛太郎,新日本出版,\1500,p196
 山崎豊子のベストセラー「沈まぬ太陽」の主人公・恩地元のモデルとなったといわれる日本航空 元労働組合委員長 小倉寛太郎の書。期待はずれ。この人の人生からいって,もっと役に立つ面白い本も出来たろうにと残念に思う。沈まぬ太陽の主人公の実像を知りたいと読むと,ひょっとするとガッカリするかもしれない(それが実像なら,少々悲しい)。
2002.3.30●「失敗を生かす仕事術」,畑村洋太郎,講談社,\680,p.220
 失敗学を提唱している畑村教授の本。失敗学には何冊も単行本がすでに出ているが,今度は講談社現代新書で登場した。主張は,失敗は必ず起こるもの,大切なのは失敗を知識化することだと主張する。狂牛病やH2ロケットなど,最近の話題にも触れている。失敗を生かせるかどうかで,ビジネスパーソンには「真のベテラン」と「偽のベテラン」が存在すると説くなど,かなりビジネスを意識した内容になっている。日本は小手先のテクニックにばかり目を向けて,トータルとして何を目指しているかの哲学がないといった,耳が痛くなる話も多い。
2002.3.28●「喝! 日本人」,松永安左ヱ門,実業之日本社,\1600,p.277
 電力王として知られる松永安左ヱ門の書。もともとは昭和33年〜37年の著書を編集しなおして出版したものだが,古さを感じさせない。福沢諭吉とか福沢桃介,井上準之助といった名前が並んでいるところは時代を感じさせるが,内容は現在に通じる新しさをもっている。いまでも先進的といえる考え方は,かなり驚異的。「官吏は人間の屑」という発言を,官僚がずらりと並んだ講演会でする硬骨漢ぶりが,本書にも出ている。
2002.3.25●「エニアック」,スコット・マッカ−トニ,日暮雅道訳,パーソナルメディア,\1900,p.286
 ずっとツン読状態にあった本。世界最初のコンピュータ開発をめぐる愛憎物語。エッカートとモークリーの物語を軸におき,フォンノイマンやアタナソフ(コンピュータの発明者という本も出ているが・・・)との関わりを交えて著している。非常に面白い。一読の価値はある。
2002.3.20●「敗北を抱きしめて(下)---第二次大戦後の日本人」,ジョン・ダワー,岩波書店,\2200,p.498
 後編では,日本人が忘れかけている,あるいは忘れさせられた戦後の出来事が綴られている。天皇制の存続やGHQの検閲,憲法成立,天皇とマッカーサの関係といった事柄が一歩踏み込んで書かれていて,へ〜っと驚かされる。連合軍がまとめた「日本人の行動様式」なる言葉は痛烈で情けなくなるが,実に的を射ている。敗戦という千載一遇のチャンスを逸したことが,現在の日本の混迷を招いている(高度経済成長の成功体験も味わえたのだが・・・)遠因となっていることがよく分かる。こうした歴史書が米国人の手になるのが不思議だが,いずれにせよ読んで損のない書である。
2002.3.9●「敗北を抱きしめて(上)---第二次大戦後の日本人」,ジョン・ダワー,岩波書店,\2200,p.400
 昨年の書評で絶賛された書。誉められ過ぎなので臍を曲げて読むのを避けていたが,ある人に薦められて思い直した。読んでみると,高い評価が納得できる実に出来の良い本である。内容は,副題である「第二次大戦後の日本人」が的確に言い当てている。今なお問題となっている政治家や官僚のレベルの低さが,戦前・戦中・戦後と連綿と続いているのもよく分かる。占領軍の傲慢さも,客観的な視点で批判している。米国人の手になる本であるが,翻訳がこなれているので,下手な日本人の本よりも数倍読みやすい。歴史書はこうでないといけないと強く思う。
2002.3.4●「ことばの道草」,岩波書店辞典編集部,岩波書店,\680,p.175
 岩波新書の栞に書かれた語源をまとめた書。言葉の感覚を磨くためには,たまにこういった本を読むのは悪くない。ときどき意外な語源が出てきて驚かされる。実は,日経コンピュータに毎号書いている「編集長から」のネタに使わせてもらったものもある・・・・。
2002.3.1●「経営学」,小倉昌男,日経BP社,\1400,p.294
 ずっと“ツン読”状態にあった本。日経新聞の「私の履歴書」を読んで感銘を受け,本棚の奥から取り出した。私の履歴書を読んでいると,かなりデジャブ感(既視感)がある。正直なところ“履歴書”の方が,今が出ている分面白い。しかし経営学もなかなか読ませる。“履歴書”を読まなかった方にはお薦めである。いずれにせよ,その発想の確かさ,不条理と戦う姿勢には共感を覚える。それにしても,宅配便といのは恐ろしく便利なものである。デジタルではインターネット,アナログでは宅配便が,もはや手放せないものの代表格だろうか。

2002.2.27●「Swimming Across」,Andrew S.Grove,Warner Books,$26.95,p.290
 米インテル会長のアンディ・グローブの自伝。読み終わるのに1カ月近くもかかってしまった。内容がつまらなかったことと,電車のなかで原稿を査読する日が続いたのが響いた(面白い本なら家に帰っても集中して読むが・・・それほどの魅力は感じなかった)。ただIT業界にとって,史料的な意味合いはあるかもしれない。ハンガリーの中流家庭(それほど豊かではないが)に生まれ,第2次世界大戦やハンガリー動乱を経て国を捨て(その後も戻っていない),米国に亡命して,世界最大の半導体メーカーのトップに登りつめたグローブが,率直にその半生を語っている。非常に平易な英語で書かれている。実はエピローグの部分が面白かったりする。
2002.2.24●「合併人事」,三神万里子,細田裕之,翔泳社,¥1500,p.234
 合併現場を体験した人事コンサルタントとジャーナリストが執筆した合併人事のあれこれ。実に面白い。ちょっと情けない日本の企業の実態が露にされている。また合併に際して外資が何を評価しているのか,合併に際してどういった人事が行われるのか(残る人材と出る人材を分けるポイント)など興味ぶかい内容となっている。一方で,日本企業が多用している「早期退職制度」の愚についても触れている。お薦めの本である。
2002.2.17●「処世術は世阿弥に学べ!」,土屋恵一郎,岩波書店,\700,p.159
 警句にあふれた本。著者は明治大学の生成である。歴史の授業で世阿弥・観阿弥といった名前を覚えていたが,これほど今に通用する言葉を残していたとは知らなかった。いろいろと考えさせられる本である。著者が,米国のアクターズ・スタジオでの俳優インタビューについて記しているところは同感である。米国の俳優は自分の言葉で,きちんと哲学を語れる。生き方を語る言葉をもっている。日本の俳優は,自分の言葉をもっていない。人生を語ることができない。語れるのは人生のエピソードだけ。同じことがプロ野球選手にもいえる。ランディ・ジョンソン投手が,筑紫哲也の番組でインタビューを受けたときの受け答えには驚かされた。まさに哲学を語っているのだ。日本のプロ野球選手との大きな差に愕然とさせられた記憶がある。
2002.2.8●「安岡正篤を読む(上)(下)」,井上宏生,青竜社,\1600,p.181,p.165
 タイトルと中身がかなり異なっている。タイトルのイメージに引きずられて,陽明学者として知られる安岡正篤の思想に触れようと本書を買うと失望する。最近の政治的な話題を取り上げているものの,同じ言葉が繰り返し出てくるなど,工夫も足りないところが目をつく。買って損した気になる本。ちなみに著者はノンフクション作家である。

2002.1.20●「織豊政権と江戸幕府」,池上裕子,講談社,¥2200,p.390
 織田信長や豊臣秀吉,徳川家康・・・日本の歴史もここまで来ると,ぐっと身近になる。司馬遼太郎の史観や小説に毒されているのかもしれないが,もっと面白くならないのかと思えてしまう。特に本書にはこれだけの登場人物が出てくるのにも関わらず,どうも盛り上がりに欠ける。もちろん,それが歴史書という見方もできようが,誰のために書いているのかという疑問が湧く。

2002.1.9●「IBMで学んだこと,アスキーで得たこと,セガで考えたこと」,廣瀬禎彦,WAC,\1400,p.214
 日本IBM時代に取材したこともある廣瀬氏の書。パソコンの技術に関する取材だったように記憶する。その後,アスキー,セガと移り,現在はアットホーム・ジャパンの社長である。米国のExcite@Homeは経営が傾いて,米AT&Tとの提携が不調に終わるなどガタガタしている。その辺の話も最後のほうに少し出ている。全般に物足りない出来の本である。廣瀬氏自身は,洒脱で面白い人なのだが,それが文章の形で出ていないのが残念。大変な時期に飛び込んだアスキーやセガでは,きっと興味深い,生臭い話が満載だったと思うのだが,その一端でも出ていればよかったのだが・・・・

2001.1.7●「キャピタル・フライト,円が日本を見棄てる」,木村剛,実業の日本社,\1600,p.302
昨年,「30社問題」で世間を騒がせたKPMGフィナンシャルの木村剛の本。かなり強烈な主張が載った本である。日本の経済危機の本質が,金融機関の不良債権に対する引当不足にあると主張する。発表の「信頼性」欠如が,日本への不信につながっていると繰り返し述べている。この国の議論に,どれだけ“まやかし”や“いんちき”が多く,それでは通用しないと論破する。興味ぶかい本である。

2002.1.3●「フェルマーの最終定理」,サイモン・シン,新潮社,\2300,p.397
 難しい数理系の話を分かりやすく書くことにかけては定評のあるサイモン・シンの本。近刊で「暗号解読」があるが,それに先立つ評判の高い書。評判にたがわない。数学の定理に関して記しているが,実に分かりやすい。難しい内容を,いかに分かりやすく(分かったつもりにさせて)説明するかを知る上で役に立つ。若干冗長な気もするが,間違いなくよくできた啓蒙書である。