心理学者の立場から、日常生活においてリスクをどのように評価し対策を立てるべきかを説いた書。ここでいうリスクとは、喫煙によるガン発病、パンデミック(鳥インフルエンザ)、BSE(狂牛病)、アスベストによる健康被害などを指す。こうしたリスクに直面しながら安全で安心な生活を営む秘訣は、適切な“モノサシ”でリスクを測り、リスクの大きさを適切に把握することが肝要と著者は主張する。モノサシの使い方が悪いために、リスクの大きさが一般人にはぴんとこない。そのため小さなリスクを針小棒大に扱い、必要以上のコストで対策を打ったり、逆に大きなリスクが顧みられず危機に瀕するといった事態に陥っているのが、いまの日本の現状というのが著者の見立てである。
リスクのモノサシとして、およそ1桁ずつ異なる以下のような事象を想定する。10万人当たりの年間死亡者数は、ガンが250人、自殺が24人、交通事故が9人、火事が1.7人、死産災害が0.1人、落雷が0,002人である。これらの基準に対し、リスクの度合いを知りたい事象がどこに位置するかで、リスクを感覚的に把握するわけだ。例えばアスベストによる中皮腫のリスクは、全国平均なら0.75で死産災害よりも死亡率は高いが、火事ほどでもないことになる。ところがクボタ旧神崎工場周辺500mにすむ女性の場合だと12.9にまで跳ね上がり、交通事故を上回ることになる。
筆者は三つの要因が安心・安全を阻んでいると指摘する。一つは、パニックを煽るようなマスコミの報道。第2は専門家が言葉足らずだったり、自らの意見に固執して全体像が見えなくなっている点。最後がリスク情報を受け取り、解釈する心の仕組みである。これらについて、説得力のある具体例を示しながら論考を重ねる。
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